表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

【第5章】未来人、“欠陥のない社会”の危険性を講義する

喧騒のショッピングモールを離れ、

未来人が次に向かったのは、

市民講座が開かれている公民館の一室だった。


当日に空いていた「デザインと暮らし」の講座に

勝手に紛れ込んで椅子に座る。


講師がパワポを開いている間、

未来人は静かに資料を眺めていた。


スライドにはこう書かれている。


「良いデザインとは、

誰にとっても使いやすい形である。」


未来人は眉ひとつ動かさなかった。


講師が話し始めることを確認し、

未来人は手を挙げた。


「一つ確認したい。

“誰にとっても使いやすいデザイン”は、

本当に良いデザインなのか?」


講師と受講者全員の視線が集まる。


未来人は落ち着いて続けた。


◇ “使いやすさの最大化”が生む副作用


「確かに、誰もが使いやすい設計は重要だ。

だが——」


未来人はホワイトボードに

三角形を素早く描いた。


頂点A:使いやすさ


頂点B:個性


頂点C:創造性


「現代は、この三角形のAだけを肥大化させている。

その結果、BとCがほぼゼロになる。」


講師が戸惑いながら質問する。


「しかし、デザインは“使いやすさ”が第一では?」


未来人は頷きつつも、すぐに切り返した。


「その“第一”が

社会全体にとっての危険因子になるという話だ。」


受講者たちがざわつく。


◇ 欠陥を殺す社会は、人間を殺す


未来人はゆっくり立ち上がり、

ホワイトボードに “歪みの効用” と書いた。


「人間は“欠陥”によって

学習し、

発想し、

変化する。」


未来人は自身の胸を指した。


「仮に、人生から全ての誤差やミスをなくしたとしよう。

失敗しない。

歪まない。

ズレない。

悩まない。

迷わない。」


そして言う。


「それ、人間ではない。」


講師の手が止まる。


未来人は淡々と説明を続ける。


◇ 完璧を求める社会の三つの問題点


未来人は三本の指を立てた。


① 創造性が死ぬ


「創造とは、既存の枠を逸脱した瞬間に生まれる。

しかし現代社会は枠から外れた瞬間、

ミスや失敗として切り捨てる。」


② 多様性が死ぬ


「揃った世界では、

“違うもの”は存在価値を奪われる。

同じ見た目、同じ機能、同じ思想。

それは社会の免疫力を下げる。」


③ 未来が消える


「既に整ったものを再生産している限り、

未来は永遠に“過去のコピー”でしかない。」


未来人はゆっくりと手を下ろした。


◇ ズレとは、未来への“入口”


未来人はホワイトボードにもうひとつ、

小さな歪んだ円を描いた。


「これは“ズレ”だ。」


次に真円を描く。


「これは“正解”だ。」


未来人は

真円の内側をコンコンと叩いた。


「真円は閉じている。

この形の未来はただのコピーしかない。」


次に、歪んだ円を指した。


「だが歪みには、

“伸び代”と“未知”がある。」


未来人は静かに言う。


「未来に開いているのは、

完璧ではなく、

不完全のほうだ。」


講師は思わず笑ってしまう。


「……あなた、何者ですか?」


未来人は微笑みもせず、


「未来から来た、ただのズレたやつだ。」


とだけ言った。


◇ 最後の問題提起:


未来人は教室の中央に立ち、

全員に問いを投げた。


「言うまでもないが——

“欠陥を許さない社会”が目指しているのは

均一に管理できる家畜の群れだ。」


受講者たちの表情が固まる。


未来人は視線を走らせながら続けた。


「だが俺は、

“歪みを持ったまま進む人間”を

未来では尊重している。」


そして最後にこう締める。


「だから、お前たちに必要なのは

完璧ではなく“欠陥の思想化”だ。

欠陥を誇れ。

歪みを愛せ。

ズレを未来へ繋げろ。」


教室はしばらく静まり返っていた。


しかし、一人の学生が小さく呟く。


「……確かに、完璧って息苦しい。」


未来人は頷いた。


「気づいたならそれでいい。」


未来人は教室を出ながら呟く。


「次はもっと深く切り込むか。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ