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【短編集】亡国の姫は、隣国の静謐王子に甘やかされる  作者: Tsuyuri -露-


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【幼少期】祝福を抱く妹へ


――光は、生まれ落ちる前から妹を抱いていた。


妹・イエレナが生まれた日のことを、アズベルトは今でも鮮やかに覚えている。


三歳の自分には理解できぬことも多かったが、

あの光景だけは決して忘れられなかった。


産声が響いた瞬間、寝室に柔らかな光が満ちた。

窓辺から差し込む陽が粒となり、赤子の傍らに集う。

侍女たちは息を呑み、父王と王妃も驚きに目を見開いた。


「……精霊が」

「姫君に寄り添っている……!」


アズベルトには、その姿が見えなかった。

まだ祝福を発現していない彼の瞳には、ただ小さな妹が手を伸ばす仕草しか映らない。

だが――その瞳だけははっきりと覚えている。


淡いペリドットの瞳。


生まれたばかりの赤子が光を湛えたように輝いていた。


(僕には見えないものが……イエレナには、もう見えているんだ)


幼い胸に芽生えた不思議な感覚は、誇らしさと、少しの戸惑いを含んでいた。



それから二年が経った。

アズベルトが五歳を迎えた日――


掌に淡い熱が灯り、身体の奥からあふれる光が視界を変えた。

ふわり、ふわりと揺れる金色の粒――それが精霊だと知った瞬間、胸が震えた。


「王子に祝福が……!」

「殿下もまた、精霊に選ばれたのだ」


大人たちの歓喜の声を背に、アズベルトは妹を探した。

まだ二歳のイエレナは庭園で花びらをつかもうと駆け回っている。

彼女のまわりには数えきれぬほどの精霊が群れ、舞い踊っていた。


「アズ!みて!」


振り返った妹が、小さな両手に光の粒を抱きかかえるようにして笑った。

その声に胸が熱くなる。


(やっぱり、本当だったんだ……生まれた時からこの子は祝福を抱いていた)


自分がようやく掴んだ力を、妹は当たり前のように持っている。

誇らしくて、少しだけ悔しい。

けれどイエレナが無邪気に「いっしょに、あそぼ!」と手を引くと、不思議と胸のもやは溶けて消えた。


「……ああ、行こう」


握り返したその小さな手は、温かくて、まるで光を宿しているようだった。



 ◇ ◇ ◇



やがて、イエレナが五歳になったある日のこと。


庭園の昼下がり――

柔らかな陽光の中で、彼女は花壇の前にしゃがみ込み、

小さな声でそっと囁いた。


「かわいい、つぼみ……いつさくかな?」


小さな声に呼応するように、精霊が降り注ぐ。

花々が一斉に開き、庭は光の楽園に変わった。

その瞳は泉のように澄み、淡い光を湛えていた。


「……っ」

「最年少で、これほどの……」

「兄妹そろって祝福を……国の吉兆か、それとも試練か……」


重臣たちのざわめきが広がる。


祝福とは王家にとって希望であり、同時に宿命を背負わせるもの。

そして――イエレナの祝福は、幼い頃からどこか“自然の気まぐれ”のようだった。

感情や想いに呼応して、精霊たちがまるで喜ぶように集まり、

ときに周囲を包み込むほどの光を放つこともある。


目を見張った。その光景は、あまりにも綺麗で――

それでいて、祝福とはこうも強大な力を振るうものなのかと、幼い胸がざわめいた。


まだ幼い今でさえ、この光を放つのなら。

イエレナの未来は、いったいどうなってしまうのだろう。

この笑顔のままで、すごしていけるのだろうか――。


胸の奥に、言葉にならない不安が静かに広がっていく。


当の本人はそんな思惑など知らぬまま、兄に駆け寄った。


「アズ!お花、ひらいたよ!何でー?!」


花びらを胸いっぱいに抱えて、瞳をきらきらさせながら問いかける。

理由など分かるはずもないのに、ただ純粋に兄に伝えたい、その気持ちだけで。


アズベルトは思わず苦笑し、「イェナが特別だからだよ」と口にしそうになったが、

その言葉はあまりに重すぎる気がして、胸の奥にしまい込んだ。

代わりに彼は膝を折り、妹の視線と同じ高さに顔を寄せた。


「花畑きれいだな、イェナ」


「すごいよねっ!せーれーさんがみせてくれたのかな~?」


小さな腕で花ごと抱きついてくる妹を受け止めながら、

アズベルトは心の奥で強く思う。


僕にはやっと見えるようになったものを、イエレナは最初から抱いている……

この光が、国を導くのか、それとも――揺るがすのか。

けれど、どんな未来でも構わない。


どちらであっても、僕が守ろう。


妹の笑顔を曇らせぬように。

その瞳の祝福を、誰にも汚させぬように。


まだ幼い王子の胸に刻まれた誓いは、やがて彼の生涯を導くものとなる。


――祝福を抱く妹を、必ず守る。


それが、アズベルトという名の“光の王子”が生涯を懸けた最初の約束だった。


(了)


もし気に入っていただけたら、本編もそっと覗いてみてください。


▼本編はこちら

『亡国の姫は、隣国の静謐王子に甘やかされる』

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