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【短編集】亡国の姫は、隣国の静謐王子に甘やかされる  作者: Tsuyuri -露-


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【幼少期】小さな姫と二人の誓い


まだ幼いイエレナが、二人の少年騎士と初めて出会った日のこと――。

それは、何気ないひとときでありながら、やがて“大切な誓い”へと繋がっていく始まりだった。


フェルディナ王城、春の午後。

陽の光が白い回廊をやわらかく照らし、外の庭では鳥の声が遠くに響いている。


王子アズベルトのそばには、二人の少年が立っていた。


ひとりは、銀灰の髪を短く刈り上げた少年――ギウン、十四歳。

日に焼けた頬と、どこか生意気そうな笑みが印象的だった。

まだ少年のあどけなさを残しながらも、その瞳の奥には確かな意志が宿っている。


もうひとりは、淡い銀青の髪を整えた小柄な少年――アウル、八歳。

姿勢は正しく、言葉よりも礼を重んじる慎ましさを漂わせていた。

その真面目な面持ちが、ギウンとは対照的に見えた。


どちらも近衛候補として、王子に仕えることになったばかりだった。


「……紹介するよ。ぼくの妹、イエレナだ。」


その声に応えるように、扉の陰から小さな影が姿を見せた。


裾をつまんで現れたのは、まだ五歳の小さな姫。

光を受けて霧のように揺れる淡い金の髪、

ペリドットの瞳が、春の陽射しを映してきらりと輝く。


少年たちは一斉に膝をつき、胸に手を当てた。


「フェルディナ王家の姫様に、初めてお目にかかります……」


ぎこちない声と所作。

二人とも、まだ“騎士見習い”という肩書きの重みに慣れていない。


ところが――


「おともだち?」


イエレナの無邪気な声に、アウルがぎょっとして顔を上げた。


「い、いえ……姫様は、私どもにとって……」


真面目に答えようとするが、声が裏返り、頬がかすかに赤くなる。

その横でギウンが口元を緩め、にっと笑った。


「そうだな。“姫さん”ってとこだな」


「ひめさん?」

「そう、姫さん」


イエレナが嬉しそうに笑い返した、そのとき――


「……ギウン。姫様に“姫さん”とは……不敬ですよ」


アウルがきりりと顔をしかめて睨む。

けれどイエレナは、ぷくっと頬をふくらませてむすっとした。


「アウル、顔こわーい」


その声に、ギウンがすかさず乗っかる。


「こわーいっ」


「……っ」アウルは言葉を失い、眉をさらにひそめた。

その様子を見ていたアズベルトが、堪えきれずに吹き出す。


「アウルは不器用だな」


ケラケラと笑う兄の声に、イエレナもつられて笑う。

アウルは真っ赤になりながら、唇を引き結いた。


「……面白がらないでください。」


その日の出来事をきっかけに、

日々の警護や訓練の合間――


二人がイエレナと顔を合わせる機会は、少しずつ増えていった。


「アウル、こっち!」


庭園の芝生を駆ける幼い声。

アウルは眉をひそめながらも、結局その後を追ってしまう。


かくれんぼではイエレナの思いつきに振り回され、

鬼ごっこでは小さな足に本気で追いつけず、いつも手を焼いていた。


「姫様、走られると危険ですから……! あっ、そちらは――!」


必死に制止するも、イエレナは無邪気に笑ってさらに駆けていく。

結局、捕まえられたのはいつも彼の方だった。


一方で――。


「姫さん、ほら、もっと早く!」


ギウンはすっかり遊び仲間になっていた。

草の上を転げ回り、木の枝を剣に見立ててイエレナと勝負をしたり、

泥だらけになるのも構わず、一緒になって駆け回る。


「ギウン、まって!」

「おっと、捕まえられるかな?」


二人の笑い声が、庭園の花々や木々を揺らす春風とともに弾けた。

その様子を、アウルは呆れ半分、安堵半分の眼差しで見守っていた。


「……ギウン、もう少し落ち着きを持ってください。」

「堅いこと言うなって!姫さんが笑ってるんだから、それでいいんだよ!」

「……はぁ」


不器用に息を吐きながらも、アウルの胸の奥には、静かな温もりが広がっていった。

無邪気に笑うイエレナの姿は、いつの間にか――


“守るべき存在”から、“守りたい存在”へと変わっていた。



 ◇ ◇ ◇



ある日のこと。

いつものように中庭で駆け回っていたとき、回廊の先から使者の一団が姿を現した。

ギウンとアウルが慌てて姿勢を正す。


イエレナもすぐに異変に気づくと、ぱたぱたと裾を整え、背筋をすっと伸ばした。

そして――まっすぐに使者へ視線を向け、両手で裾を軽くつまんで小さく会釈する。


「ようこそ、フェルディナへ」


まだ幼い声は澄み渡り、きらきらとした瞳と微笑みは花のように相手を和ませた。

その小さな両手は、気づかれぬほどわずかに震えていたが、

差し出された礼は驚くほど堂々としていた。


使者は一瞬、目を見張り、それから穏やかな笑みを返す。


「なんと……ご丁寧に。まだお若いのに、まるで女王のようだ」


ほんの一瞬の出来事だったが、アウルとギウンは同時に息を呑んだ。

さっきまで無邪気に駆け回っていた少女が、自然に王女の顔をして相手を魅了したのだ。


ほんのわずかな時間だったが、

アウルとギウンは同時に息を呑んだ。


さっきまで無邪気に駆け回っていた少女が、

自然に“王女”の顔をして相手を魅了してみせたのだ。


使者が去ると、イエレナはぱっと二人のほうへ振り返り――

頬をほんのり赤く染めながら、胸にそっと手を当てて小さく息を吐いた。


「……へへっ、緊張しちゃった!」


それは、ついさっきまでの凛とした“王女の顔”とはまるで違う、

年相応の無邪気な笑顔。


――やはり、この方は紛れもなく、姫君なのだ。


ギウンは照れくさく頭を掻き、

「すげーな、姫さんは」と低く笑う。

その声はどこか誇らしげだった。


アウルは胸に手を当て、静かに深く息をついた。

表情はいつもの冷静さを保っているのに、

その瞳の奥には確かな熱が宿っている。


そして、ふたりの胸に、同じ想いが静かに芽吹いていた。


――アズベルトに忠誠を誓った者として。

――この幼い姫君にも、敬意と未来を捧げる者として。


どんな道を歩むことになろうとも、

この少女の笑顔だけは決して曇らせない。


無邪気に笑うその横顔を見つめた瞬間――

胸の奥で、ふたりの想いはそっと形を成した。

言葉にせずとも揺らがぬ、確かな誓い。

それは、静かに、しかし力強く彼らの中に根を下ろしたのだった。


(了)



もし気に入っていただけたら、本編もそっと覗いてみてください。


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『亡国の姫は、隣国の静謐王子に甘やかされる』

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