7話
東京上空に浮かぶ黒き要塞の出現から数日。世界は混乱の渦にあった。
空が覚醒者たちに贈った「神水」の存在は、ゲート管理機関の最高機密として封じ込められた。だが、快斗が弟の病を癒した事実は隠しきれず、周囲に波紋を広げる。
「死者をも蘇らせる奇跡の水」――その噂は瞬く間に広まり、政府、軍、宗教団体、さらには地下組織までもが空の存在に目を向けた。
管理官・上野は上層部の会議で報告を求められる。
「――あれは、我々の理解を超えた存在です。魔王や最上級ゲートボスすらも、彼の前では取るに足らないでしょう」
「であればこそ危険だ」
「人類の敵か、救済者かを見極めねばならん」
会議の結論はただ一つ――“空の監視と分析を最優先事項とする”。
一方、Sランク覚醒者の快斗、美咲、武流は複雑な感情を抱いていた。
快斗は神水の奇跡を目の当たりにし、「空は敵ではない」と信じようとする。だが、美咲は鋭い視点で警戒を緩めない。
「快斗、あの人は人間を遊び道具のように扱っていたわ。弟を救おうとしたのも、きっと“興味本位”にすぎない」
「……それでも、俺にとっては救いだ」
二人の意見は平行線を辿り、武流は黙して考え込む。
やがて、各国も動き出す。
アメリカは浮遊要塞を「潜在的脅威」と認定し、最新鋭戦闘機と覚醒者部隊を極東へ派遣。
中国は「新大陸の創造」に強い関心を示し、空を“天の神子”として迎え入れるべきだと主張。
ロシアは沈黙を貫きつつも、裏では要塞に潜入する計画を進めていた。
そんな中、浮遊要塞ではアビスが静かに報告を上げていた。
「主よ。人間どもが動き始めました。崇拝と敵意、両方が膨れ上がっております」
空は椅子にふんぞり返り、退屈そうに天井を見上げる。
「面白いじゃないか。僕が少し遊んだだけで、世界はこれほど揺れる。やっぱり人間は退屈しのぎにちょうどいい」
アビスはわずかに眉をひそめる。
「ですが、主。彼らは本気であなたを恐れております。やがて刃を向けるでしょう」
「構わないよ。刃を向けられたら、その分また楽しめる。僕は“神”じゃない。退屈を嫌うただの創造者さ」
その頃、快斗たちは上野に呼び出されていた。
「空との接触は、君たちにしかできない。あの存在が敵なのか、味方なのか……人類の未来は、その答えにかかっている」
快斗の胸は揺れていた。弟を救った恩人を疑うことはしたくない。しかし、人類の未来を思えば、彼の力が脅威であることも否めない。
美咲は冷たく言い放つ。
「私たちが試されているのよ。空が人間の遊び道具にするか、それとも同じ存在として認めるか。どちらにしても、ただ従うだけでは終わらない」
浮遊要塞を巡る人間たちの駆け引きが始まろうとしていた。
こっちも頑張ろうと思います