12話
虚無の異空間。
空は軽く指を鳴らすと、快斗たち三人の姿が揺らぎ、気がつけば要塞の大広間に転送されていた。
残されたのは――空、大和、そしてアビスの三人だけ。
空は退屈そうに笑みを浮かべる。
「さて。君が望んでいたのは“僕の本気”だったよね。いいけど……後悔しないでよ?」
その声が落ちた瞬間。
――空が制御していた力を解き放った。
空間が砕け、色彩が消え、存在そのものが圧壊する。
光も闇も呑み込まれる圧倒的な“力の奔流”。
アビスの膝が音を立てて地に沈む。
「ッ……主よ……!」
あのアビスですら、死を覚悟し、身を伏せた。
全身の細胞が焼け落ち、魂そのものが砕ける錯覚に襲われる。
そして、大和。
「……ぁ……」
目に映った瞬間、理性が吹き飛んだ。
脳が理解を拒み、頭が死と恐怖に埋め尽くされる。
心臓は千々に乱れ、視界は赤黒く染まる。
「や、やめ――」
次の瞬間。
彼の肉体は、ただ“見ただけ”で。
――ぐちゃり、と。
塵と化すように消し飛んだ。
異空間に、狂戦士・真丈大和の痕跡は何も残らなかった。
沈黙の中で、空は制御をかけ直し、解き放った力を閉じ込める。
再び空間に色が戻り、アビスは荒い息を吐きながら顔を上げた。
「……死ぬかと思いました……」
「ごめんごめん、ちょっと出しすぎたかな」
空は軽く笑い、消え去ったはずの大和へと指を向ける。
「やっぱり死んじゃうか。まあいいや」
何気ない口調で。
――世界の理をねじ曲げる。
瞬間、虚無の空間に大和の肉体が再構築され、魂が戻り、呼吸が吹き返った。
「ハァッ……ハァッ……!」
大和は床に手をつき、目を見開く。
「お、俺は……今……死んだ、のか……?」
蘇った記憶と共に、全身を冷や汗が流れる。
そして、自分がこうして生きていることに、さらに震撼する。
「死んだ俺を……何の苦もなく……蘇らせやがった……」
空は肩をすくめ、微笑んだ。
「まあ、ちょっとしたお遊びさ」
アビスですら、主の力の深淵を改めて思い知り、沈黙せざるを得なかった。
――やがて異空間は閉じ、大和と共に空とアビスも要塞の大広間へと戻る。
快斗、美咲、武流が駆け寄った。
「大和さん!」
「無事なの!?」
「その……顔色が……」
心配そうに囲まれる仲間を見て、大和はしばし言葉を失った。
だが、次第に気力を取り戻し、重々しく立ち上がる。
「……分かった。俺は……空、お前のメッセンジャーになる」
静まり返る大広間に、その声が響いた。
死を経験し、蘇り、空の力の前に打ち砕かれた末の決断だった。
空は満足そうに笑い、軽く頷いた。
「うん、それでいい。君ならきっと楽しませてくれる」
――こうして、狂戦士・真丈大和は空の側に立つことを選んだ。




