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9話


要塞の大広間。

空は退屈そうに椅子から立ち上がると、片手を軽く振った。

瞬間――空間そのものが裂け、眩い光の渦が広がった。


「ここじゃ狭いからね。場所を変えようか」


次の瞬間、快斗たちとアビスの視界は大きく揺らぎ、気がつけば大広間ではなく、果ての見えない漆黒の異空間に立っていた。

地平も天もなく、ただ広がるのは無限の空間。虚無の舞台。


空は振り返り、アビスに軽く命じる。

「アビス。彼らを頼むよ。僕と彼が暴れると、ちょっとした余波で消し飛んじゃうから」

「御意」

アビスは恭しく頭を下げ、快斗たちを背後に庇った。


その前方、二人の強者が対峙する。

創造主・空と、狂戦士・真丈大和。


空は微笑みながら、挑発めいた声を投げかけた。

「いつでもいいよ。君の全力を見せてみて?」


大和は口角を吊り上げ、背負った巨大なバスターソードを引き抜いた。

刃渡り二メートルを超える鉄塊が唸りをあげる。


「後悔すんなよ、空!」


次の瞬間、大和が地を蹴り、轟音とともに突進する。

大剣が振り下ろされ、虚無の空間が衝撃で裂ける。


しかし。


――ガギィィィンッ!


空はその一撃を、ただ片手で受け止めていた。

軽く手のひらを突き出しただけ。それなのに、世界を揺るがす一撃は微動だにせず止まった。


「なっ……!」

大和は歯を食いしばり、続けざまに剣を振るう。横薙ぎ、突き、跳躍からの回転斬り。

その全てを、空は同じように受け止める。避けることなく、後退すらせず。


快斗の目が見開かれる。

「あれが……日本一位の大和さんの本気の剣……! なのに、全部……」

美咲は唇を噛む。

「Sランク同士の戦いなんて、普通なら都市ひとつ吹き飛ぶ。それを……受け止めるだけで無効化してる……。一体……何者なの、この人は」

武流ですら動揺を隠せなかった。

「……化け物、だな」


剣戟の嵐が続く。

鉄と風圧が唸り、空間が砕けるような衝撃波が広がる。

だが空は、微笑みを崩さず、ただ手のひらや指先で大和の剣を止め続けた。


「……なぜ避けねぇ」

荒い息の合間、大和が問いかける。

「避けりゃ楽だろうが……! なんで全部受け止める!」


空はわずかに目を細め、楽しげに答えた。

「せっかくの強者だよ? 避けちゃったら、つまらないじゃないか」


その言葉は、侮辱ではなく純然たる愉悦だった。

挑発に似た笑みが大和の心を燃やす。


「それに……まだ余力を残してるんでしょ?」

空の声は柔らかく、しかし鋭く刺さる。

「僕を楽しませたいなら、早く“本気”を出してみせなよ」


大和の瞳が赤く燃え上がる。

「……言いやがったな」


全身の血流が沸騰するかのように熱を帯び、筋肉が膨張していく。

皮膚に赤黒い紋様が浮かび上がり、牙のような息が漏れる。


――スキル発動【バーサーカー】。


狂戦士が狂気の領域へと踏み込む瞬間だった。


快斗たちは息を呑む。

これまで見たことのない、まるで鬼のごとき迫力。

その圧力に、空でさえ目を細めた。


「ふふ……ようやく面白くなってきたね」


二人の戦いは、今まさに本気の領域へと突入しようとしていた。



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