8話
東京湾上空に浮かぶ漆黒の要塞。
人類にとって「神」か「魔王」か、その正体が未だ掴めぬまま、空という存在は世界を揺るがし続けていた。
快斗、美咲、武流の三人は、ついに答えを示すべき時が来たと覚悟を固めていた。
――空は人類の敵か、それとも共存できる存在か。
上野から託された使命を胸に、三人はゲート管理機関の専用機で要塞へ向かおうとした。そのとき。
「おい、お前たち」
重厚な声が背後から響いた。
振り返ると、そこには一人の壮年の男が立っていた。
五十を超えた年齢ながら、鋭い眼光と岩のように鍛え上げられた肉体。
彼こそ、日本ランキング1位、世界でもトップ10に名を連ねる最強の狂戦士――真丈大和。
快斗は息を呑む。
「……まさか、真丈大和さん……!」
美咲が目を細める。
「どうしてここに?」
大和は不敵に笑い、肩をすくめる。
「簡単な話だ。お前たちがあの要塞に入るって聞いた。だったら、俺も行くしかねぇだろ? 興味があるんだよ。空って奴に、な」
彼は豪放そのものの態度で続ける。
「勘違いするな。俺は国の命令なんざどうでもいい。ただ――五十を超えた俺の血がまだ騒ぐんだ。未知の存在が現れた? そんな面白ぇことを見逃してたまるか」
武流が呟く。
「……つまり勝手に同行する気っすか」
「おうよ。お前らじゃ荷が重いだろ? だが俺がいれば話が進む」
快斗は困惑したが、彼を拒むことはできなかった。Sランクの中でも別格とされる男。彼の力を借りれば交渉は進むかもしれない。
こうして四人は共に浮遊要塞へ向かった。
――――
要塞の大広間。
アビスが優雅に迎え入れる。
「再び訪れましたか、勇敢なる人間たち。そして……あなたは新たな客人のようですね」
大和は一歩前へ出て、無遠慮に名乗りを上げた。
「日本一位の狂戦士、真丈大和だ。五十過ぎのジジイだが、まだまだ若ぇ奴には負けん。今日は――空、お前に会いに来た」
玉座のような椅子に腰かけた空は、頬杖をついたまま微笑む。
「へぇ……君が噂の大和か。人間のランキングとかいう遊びで上にいるんだって? 面白い。自己紹介、ありがとう」
快斗たちは緊張の面持ちで空の前に進み出た。
「空……俺たちは答えを持ってきた。君が人類にとって――」
だが、言葉を遮るように大和が割り込む。
「その前に一つ言わせてもらう」
大和の声は大広間に響き渡った。
「俺はお前の“メッセンジャー”になるつもりだ、空」
快斗たちは一斉に振り向く。
「なっ……!」
美咲の瞳が険しく光る。
「勝手に何を……!」
空は面白そうに笑った。
「ほぉ? 最強の人間が、僕のメッセンジャーに? それは面白い。で、見返りは?」
大和は指を二本立てる。
「条件は二つだ」
「一つ目。――この俺と戦え。実力を示さねぇ限り、信頼も何もあったもんじゃねぇ」
「二つ目。――空、お前の“本気”を見せろ。人類にとって脅威か、希望か、それを俺自身の目で確かめたい」
快斗たちは言葉を失った。
彼らが持ち帰った答えを告げる前に、大和が独自に交渉を始めてしまったのだ。
アビスは大和を睨みつけ、低く唸る。
「無礼な人間よ。主に挑むとは――」
しかし空は手を挙げて制した。
「いいよ、アビス。面白そうじゃないか。戦いは僕も嫌いじゃない」
そして、快斗たちに向けて微笑む。
「さて、どうする? 君たちが持ってきた“答え”は、彼の挑戦の後でも遅くはないだろう?」
快斗は拳を握りしめた。
大和の乱入で状況は大きく変わった。
だが、この男の条件を受けるしか、先へ進む道はない。
――世界最強の狂戦士と創造主・空。
その衝突の予兆が、要塞の大広間に満ちていった。




