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45.遊戯道とお労い

 天文二十一年八月三十日

 ごたごたした戦後処理を終えて、本日は迎賓館で協力してくれた熱田商人らを労うことになっている。やっと栽培も本格化したトマト料理を振る舞う。そして、特別な方を限定で料亭で提供して貰うつもりだ。

すでに楓と紅葉を迎賓館に送って準備万端だ。

 大商人は琉球交易で儲けているので今更なのだが、今回は様々な(そう)〔自治衆〕にもお世話になった。そういう方々に祭と賭けのうま味を提供しようと思う。

 中根の産業の一つに麻織物がある。

 俺は麻作りを奨励して尾張中から麻糸を買い取っており、農村にも小銭が貯まりはじめていた。

 しかし、自給自足なので使い道が少ない。

 そこで囲碁、将棋、投石、乗馬、武闘を競って賭けの対象とし、囲碁、将棋、乗馬、武闘は自由参加とし、投石は村の代表戦にしようと考えている。

 大宮司の千秋(せんしゅう)-季忠(すえただ)らへの事前説得は終わっている。

 今日の商人らの反応によって決行が決まる。

 反応が悪ければ、投石大会のみの開催に変えるつもりだ。

 英国の『ブックメーカー』を参考に様々な競技を賭けの対象にして提供しようと思っている。


「千代、囲碁や将棋は寺の僧侶やその賓客が多いと思うか」

「そうなります。村人は日々の暮らしで一杯一杯ですから、囲碁や将棋を楽しむ余裕はございません。ただ、寺小屋を提供している住職が囲碁や将棋が好きで、子供に教えている方もいます」

「ならば、子供の参加を認め、参加料に水飴でも配るとするか」

「それが宜しいと思います」

「人数が少なく、盛り上がらないと意味がないからな。武芸者の方はどうだ」

「信長様にも声を掛け、仕官のきっかけになるようにすれば、参加者は増えると思われます」

「常備兵には不適切でも護衛衆として使える者はいるからな」

「愚連隊の方には、不参加で納得して頂きました」

「仕官する気のない身内が優勝しても面白みに欠ける・・・・・・というか、あいつらに勝てる奴らが尾張にいるのか」


 千代女が武芸者の一覧を渡してくれた。

 仕官に失敗して作業員になっている者、町道場を開いて武芸を教えている者など様々な名が載っており、この一覧に名が上がっている者には武闘大会への招待状を出す予定だ。

 参加条件が仕官していない者と定めている。

 俺が別邸の居間に寝転がりながら千代女から次々と資料を受け取っていた。

 そこへお市が顔を出した。


「魯兄じゃ、お昼寝は終わったので後半戦の勝負なのじゃ」


 俺は嫌そうな顔で千代女に助けを求める視線を送った。


「若様、今日の接待は信長様や公家様もいません。皆、気心の知れている者のみです」

「千代」

「運動不足を解消してから向かっても問題ございません。前半に続き、お市様に勝って下さい」

「わらわは負けぬのじゃ」

「そうですね。普通にやれば、お市様が勝ちます」

「当然なのじゃ」

「ですが、自らの力量を弁えず、跳び技をしくじればやり直しになります。そうなれば、先ほどのように負けるでしょう」

「できると思ったのじゃ」

「はい。しかし、できなかった。そのことを考えて取るべき選択を選んで下さい」

「あともう少しなのじゃ」

「できると思われるならば、挑戦すればよろしい。ですが、失敗すれば、先ほどのように最下位となるでしょう」

「むむむ、最下位は嫌なのじゃ」


 午前の遊戯道(アスレチック)の競争でお市は負けた。

 お市は障害の『縄走り』から『スイングロープ』へ飛び移るのに失敗した。

 落下しても下に網が張っているので怪我をする心配はないが、その区間を最初からやり直しの罰則でタイムをロスして俺、里、お栄に負けた。

 まぁ、俺の中級、里とお栄の初級コースでハンディー戦だ。

 素直に勝ったとは言えない。

 それどころか、俺専用のハンディーもある。

 それが『丸太渡り』だ。

 俺は回る丸太の上を歩けず、中級コースのみ回りにくい仕組みになっていた。

 初級と超難関の丸太は長さが違うだけであり、どちらも両端を縄で繋いでいるのみだった。

 上に乗るとくるくると回る。

 お市、お栄、里は器用に渡ってゆく。

 どうしてそんな事ができるのか謎だ。

 さて、初級、中級、高難度のハンディー戦は、十周八キロ回って同じタイムになるように調整している・・・・・・というか、お市が使うコースの難度が上がり、さくら達の特訓に使えるレベルに達していた。

 お市、お栄、里のタイムも拮抗しているので、俺も手が抜けない。

 午前はお市が自爆を連発してタイムを落としたが、里とのデッドヒートで一位をもぎ取った。

 そして、午後の競争が始まった。

 千代女のアドバイスに従って、お市は『縄走り』から『スイングロープ』へ安全な遠回りコースを選択し、無謀な大ジャンプを控えた。

 一周ごとにお市のリードが広がった。

 否、お市は問題ではない。

 俺は里とお栄にも負けており、このままでは兄の威厳が保たれない。

 最後の直線、三位のお栄を追いかけたが届かなかった。


「魯坊丸兄上に勝ちました」


 ゴールしたお栄がぴょんぴょんと跳んで喜んだ。

 俺は最下位、精根尽き果てた。

 三回目に突入する元気がないので部屋に入ってボードゲームだ。

 お市はマイブームである『ジェンガ』、お栄は『囲碁』、里は『将棋』の三面勝負だ。

 別に俺とじゃなくてもいいと思うが……あまり対戦できない俺との勝負を望んだ。

 だが、勝負ごとでは容赦しない。


「兄上、待った」

「お栄、これで十回目だ。待ったを使いきったぞ」

「わかっています」

「お栄ちゃん、がんばって」

「こっちが有力なのじゃ」

「お市姉上は黙って」


 大体、囲碁は二百手、将棋百手辺りで勝負が付く。

 あっさり将棋で負けた里がお栄を応援していた。ジェンガが勝ったお市がアドバイスを送るとお栄が怒る。

 囲碁は三人の中でお栄が一番強い。

 お市は直感勝負なので取りやすい場所を示すが、それでは陣地数差で負けてしまう。

 お栄にはそれが見えているからお市のアドバイスが邪魔になった。

 ちなみに、将棋はお市が強い。

 とにかく、終盤の追込みが凄く、油断すると俺も負けることがある。

 リバーシは皆、拮抗している。

 結局、囲碁は圧勝だった。

 そのあと、俺と里、お市とお栄の二対二でかるた勝負だ。

 小倉百人一首はお市と里がいい勝負を演じるが、歌を全部覚えているのはお栄だった。

 お栄はお市と里のスピードについていけないが、自軍の札を確実に守った。

 三人とも強くなった。

 かるたでも勝てなくなりそうだ。


「魯兄じゃ、帰ってきたら、また勝負なのじゃ」

「魯坊丸兄上、いってらっしゃい」

「兄上、お気を付けて」


 三人に見送られて熱田の迎賓館に向かった。

 迎賓館は熱田の西に建てられた。

 プレハブ造りだが、後付けの色彩美を忘れていない。

 俺の技術と宮大工のハイブリット造りだ。

 到着すると、五郎丸が出迎えてくれた。


「皆、待てぬようで、すでに揃っております」

「そうか。料理に問題なければ、すぐにでもはじめよう」

「それが宜しゅうございます」

「五郎丸、今日は頼むぞ」

「魯坊丸様の提案を拒む者などおりませぬ。しかし、少しでもやる気がでるように皆を先導してみせます」

 「よろしく頼む」


 五郎丸をはじめ、何人かには前もって伝えておいた。

 俺はその場で思い付いたように提案するが然るにあらず、下準備は怠らない。

 俺に命令されたから渋々やるのと、熱田の催しに俺を巻き込んだでは意味が違う。

 やはり、祭の成功はやる気だ。


 なお、概ね目論みは成功した。

 例外は桔梗屋が皆から妬まれていたが発覚したことぐらいだ。

 俺が試し作った西陣(にしじん)織の染めを母上に見せると、桔梗屋に命じて服を作らせた。

 西陣染めというのも変なので『熱田染め』と命名した。

 その染めを独占したいと桔梗屋が求めたので、試作の機織り機の購入と交換条件で独占を認めた。

 機織り機は技術者養成の過程でできる副産物であり、俺が抱えて使う予定だった。

 しかし、その肩代わりを桔梗屋がしてくれる。

 安くないので桔梗屋の貸付額が大変なことになっていた。

 京の反物不足から熱田染めが大量に売れた。

 まさか、反物が売れきれるほど売れているのは知らなかった。

 満面の笑みを零す主人を皆が羨ましそうに妬んでいた。

 機織り機の負債がやっと返せてよかったな。

 そんな気持ちだったが、裏の事情を知らない商人らは妬ましくて仕方なかった。

 妬みというのは恐ろしい。

 流石の俺も助け船を出せなかった。

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