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23.愚連隊の面々、あぶない奴ら

 天文二十一年五月二十八日。

加藤(かとう)-三郎左衛門(さぶろうさえもん)に率いられた愚連隊は危ない連中であった。

 有名な剣豪もいれば、その弟子を名乗る剣士もいた。

 しかし、悪党も多く混じっていた。

 彼は尾張国内を好き勝手に徘徊し、怪しい者に因縁を吹っかけて成敗した。

 自警団はいるが警察いない。

 刃傷沙汰が起きても商人や村人が被害者でなければ自警団は動かないし、犯人が愚連隊なら手を出さない。苦情は飼い主である加藤-延隆、あるいは、織田弾正忠家を通じて申し上げた。

 多くの被害者は他国の間者であり、誰かを狙った刺客が多かった。

 その日、朝からぽつぽつと小雨が降っていた。

 蓑に身を包み加藤が選抜した十人を連れて城にやってきた。


「魯坊丸様。此度の役儀、見事に完遂してみせましょう」

「今川の伊賀者を排除せねば、こちらの動きが丸見えとなる。彼らの動きを制するのが目的だ。しかし、最も危ない役目となる。頼めるか」

「問題ございません。それを望む者らを連れてきました」

「其方らの手伝いをする者だ。楓、綾、藤、美輪の四人と補佐をする小者二十人だ。彼らが率いている者は味方だ。間違っても殺さないでくれ」


 加藤らは旅の侍、行商人など思い思いの姿でバラバラに城から出ていった。

 楓も旅衣装に着替えると小者三人を連れて出発した。

 中根南城の横に塩付街道は通っており、旅姿の楓は海を歩いて渡り、桜中村城を越えた所から野並の渡しへ続く道に曲がった。

 野並から山王山(三王山)へ向い、鎌倉街道を通って“八ツ松(やつまつ)”(後の蔵王権現近く)に移動した。

 修験者が修行したと伝わる場所であり、身を隠すのに絶好の場所であった。

 楓は“あたり”と心の中で叫んだ。

 草むらから気配が零れ、低い声で問い掛けてきた。


「何者だ」

「織田家に雇われた忍びでございます。近く織田様が軍事行動を行います。面倒な者は出ていって貰えと言いつかって参りました」

「そんな戯れ言を伝えにきたのか」

「従わない者は排除せよとの命令でございます」

「できるのか」

「さぁ? 判りません。しかし、雇い主の命令です。可能な限り抵抗させて頂きます」


 草むらから飛び出した男の小刀が楓を襲い、懐から出したクナイで受ける。

 動きは伊賀者だ。

 細かい力量は判らなかったが、ほぼ互角であった。

 楓は“外れ”を引かなくてよかったと喜んだ。

 はじめから化物のような敵を引かなくて助かったと安堵するとすかさず後退した。

 四対六。

 無理をすれば、勝ちを拾うのは難しくない。

 周囲の敵が六人で終りとは限らない。

 無理をせずに近くの相腹村方面へ撤退すると、思った通りに敵が十人に増えていた。

 村へ向かう途中に石に腰掛けて休憩をする侍が二人。

 楓とすれ違うと、立ち上がってすれ違い様に一閃が光った。

 バタッと一人の伊賀者が倒れる。

 間を空けず、後ろの従者っぽい侍もぐざっと刀を伊賀者に突き刺した。

 侍の名は、松本(まつもと)-備前(びぜん)猿田(さるた)-彦丸(ひこまる)という。元千葉市の剣豪飯篠(いいざさ)-家直(いえなお)の門弟と同僚の武芸者だ。

 白髪の剣豪老士穏やか老人であったが、動きに無駄がない。

 その従者も強い。

 熱田は美味い物が多いという理由で加藤家の客将となっている。

 最早、仕官して立身出世に興味はなく、日々の強者と戯れるが趣味らしい。

 去る者は追わぬという条件付きで参加してくれた。

 あっという間に五人の伊賀者が沈んだ。

 楓も反撃に転じ、二人で挟んで敵を倒し、三人を倒した所で二人が逃げ出した。

 備前と彦丸を連れて八ツ松に戻って残党八人を処理した。


「では、戻って藤川で釣りでもしておきます。また釣れたら連れてきなさい」

「よろしくお願いいたします」

「彦丸、戻るか」


 備前と彦丸は積極的に今川方の伊賀者狩りに参加するつもりはない。

 念の為にいうが、昨日から雨で川は増水しており、釣りを楽しむ場所などない。

 二人には藤川を遡り、折戸方面を抜け、平針街道を通り平針に戻って貰う。

 翌日は平針から道を逆に辿って桶狭間まで進む。

 

 福間(ふくま)-三郎(さぶろう)加藤(かとう)-源太夫(げんだゆう)柴田(せいぞう)-清蔵(せいぞう)井上(いのうえ)-新右衛門(しんざえもん)の四人は大高の北を拠点として好き勝手に動きまわる。

 この者らは悪党であり、数人の手勢を持っていた。

 特に清蔵と新右衛門は赤松残党の悪党剣士らしく、山賊紛いの戦い方を得意とした。

 綾、藤、美輪の三人がフォローする。


 和賀(わが)-忠左衛門(ちゅうざえもん)山中(やまなか)-内膳(ないぜん)は甲賀の隠者であり、世捨て人のような生活をしていたが、知り合いらしく加藤-三郎左衛門が呼び寄せた。

 甲賀でひっそり暮らすのも熱田で暮らすのも変わらない。

 柘植(つげ)-三郎(さぶろう)左衛門(ざえもん)柏原(かしわら)-文覚(ぶんがく)は 伊賀の殺手衆(さってしゅう)の中でも強者であり、三郎左衛門が敵に回さない為に先に雇った。

 各々の村に毎年三百貫文が支払われ、刺客を始末した出来高払いも払った。

 最初は裏切らないように雇ったのだ。

しかし、尾張伊賀衆の待遇の良さからその村から参加する者が増え、尾張伊賀衆へ人材を供給するという仕事が継続的に続いているので裏切る可能性は極めて低くなった。

 加藤を含めた五人は堂々と笠寺の今川武将が宿泊する砦に奇襲を掛けて、砦を守る伊賀者を始末すると鳴海方面に逃亡した。

 同時に楓らも鳴海、大高の拠点を襲ったことで今川の将らが激怒して、山口-教継に捕縛を命じた。

 五人は服装と人相を替え、鳴海城下町でも暴れると消えていった。

 五人に食事や変えの衣服を準備するのが、蜂須賀(はつすか)-小六(ころく)であった。

 美濃路近くの木曽川を小舟で渡る加藤を見つけて襲ったらしい。

 逆にギャフンと言わされ、配下のように仕事を手伝わされており、今回も雑用を言い付けられた。

 見つかって成敗されても加藤の腹は痛くない。

 後に天下人の豊臣秀吉の首に縄を付けて“猿回し”をさせた名将という後世の言い伝えも形無しの扱いであった。

 城で千代女が次々と届く報告を聞いていた。

 鳴海城下から沓掛方面へ戦場を変え、山口-教継の目を城から逸らす。

 そのタイミングを推し量っていた。

〔楓の業務日誌を中心に抜粋〕


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