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21.戸部政直の寝返り

 天文二十一年五月二十六日。

 尾張甲賀衆を率いたさくらが笠寺、鳴海、大高の調査から戻ってきた。

 二十日、雨の中の引っ越しで苛立った者らからはじまった小競り合いは、大規模な喧嘩となった。信長兄ぃの介入で“喧嘩祭”となり、引っ越しの指示を出していたさくらも巻き込まれ、森-可行と素手で対決を引き分けた。

 満遍の笑みで帰ってきたさくらを鬼面で千代女が出迎えたのは、笠寺の戸部城にて戸部(とべ)-政直(まさやす)葛山(かづらやま)-長嘉(ながよし)が会談を開いていた。

 尾張甲賀衆は二十日の夜に戻ってきる予定であった。

それを笠寺方面に投入するつもりだった千代女の思惑が潰れ、苛立つ千代女に「滞りなく、無事に終わりました」と報告したさくらに切れたのだ。

 わずかな者を送り、すでに戸部-政直は今川方へ寝返ったという情報が入っていた。

 会談に横槍を入れ、戸部家と今川家に和睦を破綻させる策はもう取れない。

 別に戸部-政直が寝返ったも問題ないが今川方を楽にさせる必要もなく、俺は別の手を打つことにした。

 俺は鳴海と大高の田畑の生育状況を調べさせた。


「さくら、只今戻りました」

「今度は早かったな」

「このさくら、邪魔さえなければ予定通りに動きます」

「して、どうであった」

「五月は雨が多かったので育成は悪いように見えました」

「こちらと同じか」

「いいえ、こちらより酷い有様です」

 

 俺が受け持っている田畑は蝮土という肥料を撒き、何割かを苗植えの早植えを採用している。

 三月、四月も雨が多かったので育成は悪い。

 育成が悪いが時期がずれ込むだけで収穫に影響ないだろう。

 問題は種捲きから始めた遅植えだ。

 今から梅雨〔五月下旬から六月中旬〕だ。

 六、七月の天候が回復しないと、やや不作となるのが確実だった。

 天候だけは何ともならない。

 横で聞いていた千代女がふっと笑った。


「一ヵ月以上も川底漁りを早めた事が幸いしました。信長様も偶に良い事をなさる」

「それは皮肉か」

「それ以外に何かございますか」


 土岐川(庄内川)の下流はまだ工事が進んでいない。

 五月初めから雨が降り、川底を漁れない日は川岸を掘って土嚢を作り土手を盛っておいた。

 千代女の言う通りで川の氾濫を気遣う必要がなくなった。

 しかし、工程表を滅茶苦茶にされて千代女らの仕事が倍に増えたことを怒っている。


「若様。続きは報告して宜しいでしょうか」

「済まない。続けてくれ」

「はい。戸部-政直は今川-義元の妹を妻に娶り、城代として大高に移るそうです」

「笠寺・鳴海を山口、大高を戸部と分けたか」

「戸部-政直の武力で城の奪還を狙う水野に対抗させるようです」

「そうか。して、河川近く、断崖などで崩し易い場所を探せたか」

「もちろんです。鳴海に流れる扇川の上流、藤川、大高川を中心に探ってきました。しかし、それを何に利用するのですか」

「崖や土手を潰して、川を堰き止める」


 さくらは意味が判らないという顔をした。

 崖や土手を崩すのは手間が掛かり、敵陣で仕掛けるとなると、かなりの人員を割いて命賭けの作業となる。

 尾張甲賀衆のみでできる作業ではない。だが、できる。


「さくら、火薬を知っているな」

「もちろんです。山で若様が作っている奴です」

「作っているのは材料だ。火薬は鉄砲のみではない。火薬から花火を作らせている」

「早く、空に咲く花を見とうございます」

「いずれは見せてやる。しかし、それを筒の詰めると爆薬という道具になる。大きな岩など砕く土木作業の道具だ。それを同時に何本も爆発させると、崖や土手を潰すことができる」

「なるほど」


 さくらは絶対に判っていない。

 導火線に火薬を混ぜ、さらに油紙に包むことで雨の日でも使えるように工夫している。

 実験用のダイナマイト風の爆薬がいくつかあった。

 これを使って雨の日に増水している土手を潰す。都合のよい土手がないならば、上流の崖を潰し、その土砂で天然のダムを造り出し、頃合いで破壊して鉄砲水で下流域の田畑を潰す。

 田畑が山沿いならば、土砂崩れで潰すことも可能かも知れない。

 先月、那古野城で信長兄ぃに田畑に火を付けて、稲を焼いて兵糧攻めにすると謀略を話した。

 しかし、去年とは打って変わって雨が続いている。

 放火では効果が薄い。

 それゆえに河川域の田畑を完全に全滅に追いやっておく。


「千代。できるか」

「問題ございません。甲賀衆が無能ではないところをお見せしましょう」

「無能とか、思ったことなどない」

「判っております。夏場を迎え、“イザぁ、出陣”となった頃には、鳴海と大高の田畑が全滅している。放火の必要もないと知って落胆する信長様を心の中で笑ってやりましょう」


 千代女が信長兄ぃに対してまだ怒っている。

 赤塚の戦い以降、仕事が増え過ぎた。

 俺の失言が原因だが、信長兄ぃの無茶がそれに拍車を掛けている。

最後の一言にフラグが立った。


寝床に入った頃に、信長兄ぃの使者がやってきた。

 常備兵が使えると興奮が手紙から読み取れ、明日の登城命令が書かれていた。

 信長何ぃ、無茶ですよ。


「また、信長様ですか」


 千代女が静かに怒っていた。


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