表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/50

プロローグ

尾張の覇者であった織田(おだ)-信秀(のぶひで)が死んだ。

 俺の親父だ。

 俺は熱田の楊貴妃と呼ばれた美女から生まれた十男である。

 熱田の人質として中根(なかね)-忠良(ただよし)に母上と共に預けられた。

 いずれは熱田を治めることになる。 

 熱田神宮の大宮司千秋(せんしゅう)-季光(すえみつ)様は、俺を神官にして取り込もうとした。しかし、美濃の戦で亡くなられた。

 その息子の千秋(せんしゅう)-季忠(すえただ)様は十三歳で跡を継ぐこととなった。

その頃から織田弾正忠家は転がり落ちるように没落してゆく。

熱田衆は織田弾正忠家に付くべきか、迫る今川義元に近づくべきかと揺れた。

しかし、親父が尾張の覇者であることは変わらず、熱田衆が今川方へ付けば、親父は熱田神宮を滅ぼす。

 季忠は熱田衆を織田弾正忠家に引き留める為に俺を神輿として担ぎ出した。

 熱田衆の会合、織田家の子息がいる場で批判を封じた。

 俺は熱田衆を使って銭を稼いだ。

 親父の無茶な要求で酒造りを始め、砂糖欲しさに琉球交易に手を出した。

 俺は商才を示した。

 すると、叔父の織田(おだ)-信光(のぶみつ)に美濃との信長兄ぃの婚礼を整えよと無理難題を押し付けられた。

 半分は俺の所為だ。

 ローマンコンクリートを大量に使いたい為に美濃にある石灰を欲した。

 自分で交渉しろと押し付けられたのだ。

 津島商人を巻き込んで交渉し、有利な条件で信長兄ぃの婚姻と石灰を手に入れた。

 俺はいつの間にか、織田弾正忠家の台所を扱うことになった。

 その財源を守る為に、織田甲賀衆と織田伊賀衆という二つの忍者軍団を召し抱えた。

こうして、財政・外交・防衛の三つを取り仕切る。

 但し、織田弾正忠家の影としてだ。

 家臣団の多くは俺を知らない。

 熱田の小生意気な小僧、熱田の神童、織田家の秘蔵っ子という程度だ。

 俺はそんな面倒なことはやりたくなかった。

 城に籠もって、美味しい物を食べ、好きな開発をする。

 そんな自堕落な引きこもり生活がしたかった。


 親父が死んで俺は後ろ盾を失った。

 織田弾正忠家は混乱中だ。

 うつけと噂される信長兄ぃと家臣団に持ち上げられた信勝兄上が対立する。

 脳筋の家臣団に乗せられる信勝兄上では駄目だ。

 しかし、信長兄ぃも癇癪持ちでこらえ性がなく、覇王の風格はまだない。

 信長兄ぃが無茶を言えば俺は従えない。

 しかし、馬鹿が多い。

 七歳が当主となれば、家臣団の武士は年齢だけで頼りなしと寝返る。

 自分の損得を重んじ、立身出世を夢みる。

実績とか、合理性など見向きもせず、戦に勝てると根拠などなく戦いを挑む。

 他国から見れば、誘惑し放題となる。

 これは戦国時代の武将が馬鹿だからではなく、前世も同じであった。

 味方を鼓舞し、味方の支持を得る為に無益な戦争をする。

 ある書物には、『馬鹿の壁』などと表現していたが、“馬鹿”ではなく、“感情”の壁がある。

 俺には、論理的でない“感情の壁”が見えない。

 彼らには“論理の壁”が見えないから、負けると考えずに戦いを挑む。

 合理的に考えれば、戦争は起きない。

 しかし、合理的に考えられる人間は少数であり、感情的な人間が多数を占める。

 どんなに優秀な独裁者であっても戦争や反乱を止められない。

 感情で動く民衆の支持を得る為に発した言葉が自らを縛り、失望を招かない為に戦争へ行き着く。すべて感情で動いているからだ。

 況んや戦国時代は力の強い山猿がのさばっている。

 彼らこそ、感情の生き物だ。

故に、七歳が当主というだけで侮られる。

自分の方が強いと、感情的に反抗する数は信長兄ぃの比ではない。

 その反乱の鎮圧にどれほど無駄な労力を払うのか。

 そんな困難が待ち受けていると判って当主などなれない。

 そもそも俺は城の中に引き籠もりたい。

 できれば、何もしたくない。

 富も権力も要らないから誰かに俺の傀儡になって欲しいと切に願っている。

 だが、いないのだ。

 信勝兄上、馬鹿な家臣団の載せられる馬鹿であり、馬鹿では傀儡は務まらない。

 信光叔父上、へそ曲がり。

 勝幡城主の信実(のぶざね)叔父上、俺を当主にさせたい。

 その他の親族は、高齢か、信勝兄上より馬鹿だ。

 信長兄ぃしかいない。

 しかし、信長兄ぃは傀儡になるような器ではなく、俺と反目する未来しかない。

 前途は多難であった。

 これから忙しそうなので、日々を書いた日記を止めることにした。


「なりません。毎日は無理でも日々の行動を小姓に書きとどめさせなさい。そして、暇な時に思い出して書き綴るのです。それができぬ魯坊丸ではないでしょう」

 

 母上に告げると反対された。

 秘書の千代女、侍女長のさくら、楓、紅葉が書いている業務日誌を読み直しながら暇を見つけて書くことにした。

 ホント、暇じゃないんだよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ