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三題噺もどき4

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくはちじゅうさん。

 




 どこまでも青い空が続いている。

 時刻はとうに夕方を過ぎていると言うのに。

 昨年のこの時期はまだ、もう少し陽が落ちるのは早かったように思うが……記憶も曖昧だからあてにはならないな。

「……」

 いつものように、決まった時間に目が覚めて。

 ぼさぼさになってしまった頭を軽くなでながら、煙草を片手にベランダへと出てきた。

 最近気づかぬうちに鍵をかけられていて、何のための技術を磨いているのだろうと時折疑問に思う。それで、掛けたことを忘れて朝食づくりをして、私が戻る時の音で気が付くのだから、もう無意識に掛けているんじゃないかと思っている。

「……」

 青い空に、まだ星は見えない。

 端の方に、白い三日月は浮かんでいるけれど。

 あの月も、案外雲がたまたまその形になっているだけだと言われたら納得できそうなほどに、ぼやけて白くて存在感がない。三日月だから尚更。これが満月だったら、まだアレは月だろうよと言うやつが居るだろうけど。

「……」

 その眺めていた月に被るように、煙草の煙が視界をかすめる。

 今日はすこし風が強いな……。雨が降っていたわけでも曇っているわけでもないのに、少々肌寒く感じてしまう。体感気温はかなり下がっているんじゃないだろうか。

 まぁ、格好が格好だからというのもあるだろうけど。

「……」

 寝ている間はどうしても寝苦しさが勝ってしまうので、そうならないように夏の装いになっているのだ。

 半袖にハーフパンツを着て、さすがにベランダに出るときは何か羽織るように気にはしているが、今日は寝ぼけて忘れていた。

 すこし袖が長く二の腕がほとんど隠れるくらいの半袖に、ひざ丈のハーフパンツに、裸足にサンダルをひっかけているだけじゃぁ、冷えるに決まっている。

「……」

 私は、目が覚めるから丁度いいくらいに思っているのだけど。

 ベランダに出た矢先に鍵を閉めるアイツが、風邪をひくと面倒なので、最近はかなり気にしていたのに。完全に失念していた。……鍵を閉めなければ、気づいてすぐにでも取りに行くが、まぁ、それはそれで面倒でそのままの格好でここで煙草を吸うのが分かっているので鍵を閉めるんだろう。いや、そもそも閉めるなという話だが。これもある意味ルーティーンと化しているからどうにもならない。

「……ふぅ、」

 そしてこれもルーティーンのようになりつつある。見知らぬ少女とのにらみ合い。

 いい加減にやめてくれたらいいのだけど……アイツも色々と気にし始めているから。

 どうしたものかなぁ。

 あまり気にしないようにしたところで、視界に入ってくるのだから面倒だ。いっそ蝶々みたいな綺麗で美しいものだったら大歓迎だったのに。

 ―そんなどうにかなりそうでどうにもできないことを考えていると。


 ガシャン―――!!!


「……、」

 と、すぐ下の方で大きな物音が響いた。

 何かと視線を動かせば、マンションの入り口辺りで小学生が何やら落とし物をしたようだ。

 よく見ればそれは、色鉛筆だった。小学生くらいの子達ならだれでも持っていそうな、アルミのようなケースに入った12色くらいの色鉛筆。

 あの墓場の子供も同じようなものを使っていた。

「……」

 想像よりも大きく響いて本人たちも驚いたのか少々茫然としていたが、はたと気づきいそいそと片付け始めていた。低学年から中学年あたりの子供だろう。

 辺りにいたらしい大人たちも少し気にかかって見に来ていたが、すぐに音の正体がわかり帰っていった。

「……」

 その音に気を取られている間に、見知らぬ少女はこちらに背を向け帰路についていた。

 全く何をしたいのかが分からなさ過ぎて、さすがに気味が悪くなってきた。吸血鬼の癖にというのは言わないで欲しい。

「……」

 手に残った煙草を、灰皿に押し付ける。

 火が残らないようにしっかりと消し、窓に手をかける。

 ……まぁ、案の定開きはしないのだけど。





「そういえばさっきの音は何だったんですか」

「あぁ、子供たちが下で落とし物をしただけだよ」

「そうですか。」

「何か気になる事でもあったか?」

「いえ、何もないならいいんですよ」













 お題:蝶々・星・色鉛筆

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