第8話 MAOU CAFE、天界にバレる
ーーそして数日後。
「慎さぁああん!! また事件ッスよぉおお!!」
開店準備中の『MAOU CAFE』に、カゲマルがバタバタと走り込んできた。もう「また」の一言で胃がキュッと痛くなる。
「何が起きた……今度は誰が火をつけた……?」
「いや、そうじゃなくて!! 視察? らしいッス!!!」
視察? 誰が?
「天界の査察官が来るらしいッス!!! 『MAOU CAFE』が天界の調和を乱してるって、クレーム来たってぇえ!!」
「天界からクレーム!?!?」
確かに、混沌すぎるとは思っていたが……まさか上から苦情が来るとは!!!
「っていうか、なんで天界にまでバレてんの?!」
「SNS(※スピリチュアル・ネザー・ストリーム)ッスよ。あそこ、界を超えるんで……」
「スピリチュアル・ネザー・ストリームっ……!!!」
その時、カフェの扉が静かに開き、ぴかぴかの金髪に、目が痛くなるほど白いローブを着た男性がカフェに入ってきた。
背中には眩しすぎる羽根が二対生え、誰が見ても天使……というか、絵に描いたような天界人で、直感で『あ、やばい』と思った。
「失礼する。私は天界査察官・エゼリオ。天の調和を乱す存在があると聞いて、参上した」
「こ、この人が天界の査察官……?! 潔癖そう……」
「ご来店ありがとうございます☆ お席はこちらです☆ 今すぐ闇のスモークスフレ焼いてきますね☆」
「そんなものは望んでいない。私はこの店が世界の調和を乱すかどうかを判断しに来ただけだ」
そう言いつつも、グランゼルドに案内されるまま、エゼリオは席に着いた。とりあえず、珈琲でも淹れるか……。ティーカップに珈琲を淹れ、テーブルに置く。
ガチャガチャとうるさい、店の外が気になるのか、エゼリオがちらちらと、窓の外を見る。うるさいのも、それはそうだ。
店の前には、今日も開店前から長蛇の列が出来、露店も増え、ライブパフォーマンスや即席のファンアート展示会まで開催され始めていた。
このままだと、城の周囲がフェス会場になってもおかしくない。魔王の悲鳴のような歓喜が響き渡るほど、ガチャガチャしている。
まさに異世界カルチャー革命だ。
そんな状況でも、表情ひとつ変えずに、エゼリオがティーカップに口をつけ、口を開いた。
「『MAOU CAFE』の営業停止、命じます」
「ぇえええええええ?!?!?!」
「貴店における営業活動が『天界法第666条:過剰な混沌の撒き散らし』に抵触すると判断します」
エゼリオの言葉に、その場の空気が凍りついた。
「え……天界って、カフェ営業の監視とかするの……?」
「むしろ、それだけで一部署あるらしいッス……」
な、ん、だ、そ、れ!!! なんでそんな重要情報先に言わない!!! しかもこのエゼリオ、喋り方こそ丁寧だが、表情が一切動かない。どんなギャグにも微動だにしない。(?)
ツッコミを一切受け付けない、真の天然要塞である。
「こちらに、営業許可証は……ありますか?」
「……そ、それは……えっと……そもそも営業してたつもりじゃなくて……あの、文化交流? みたいな?」
「無許可営業ですね。罰則対象です」
くっ……!!! そんなものうちにはない!!! だって、魔王軍だぞ!!!(※言い訳)しかもなにこの、異世界の税務署みたいなやつ!!!!
「本日中に閉店しない場合、天界より『封印の光』が発動されます」
「はぁあぁああぁあぁあ?!?!?!」
「うちのカフェ、封印されるの?!?!」
「魔界グルメフェス、初日で終了ぉおおお?!?!」
ーーというわけで。
我々、魔王軍は今、天界の査察官をなんとか帰らせるべく、魔王は今、営業許可証をでっちあげるために、全力で写経している。
さて、それで騙せるかどうかは知らん!! 以上!!!
(To be continued…)