第4話 魔王軍、金欠につき副業はじめました
「では、世界征服会議を、定時に開始します!!」
俺の号令とともに、ようやく世界征服会議がスタートした。なんと、本日初めての定時スタートである!!! これは奇跡だ。もはや、天変地異の前触れかもしれない!!!
だが、議題を読み上げた瞬間、会議室に不穏な空気が漂った。
「さて、次の議題は【軍の財政難について】です」
「ざ、ざいせい……?」
魔王ルヴァンが不安そうに眉を顰める。そう、我が軍は、赤字だ。(悲報)過去の魔王様たちが見栄を張って、金をばら撒いたらしく、長年のツケが今になって、のしかかってきたらしい。
「要するに、お金が足りてませんって話だ」
「ぇええぇえぇえ?!?! 我ら魔王軍が、金欠~~~っ?!?!」
魔王がマントをバサァッと翻し、椅子を倒した。またか。無言で、魔王様の椅子を元に戻す。
「軍の活動費が足りないってどういうこと?! 黒コーデの布代は?! マントのクリーニングはどうなるの?! ユニコーンスリッパは?!」
「そのスリッパは魔王費で落とすんじゃなくて、自分の給料で買ってくれ!!!」
財政報告書を広げながら、ひとつひとつ丁寧に説明していく。この赤字はこいつらが思っている以上に、かなり深刻なものだ。
「このままだと、軍の食事もカットされます」
「なん……だ…と……? オレ…あんぱんと牛乳がないと隠密活動が出来な……」
「刑事の張り込みか!!! あんぱんより朝昼晩の飯の心配をしろ!!!」
叫ぶ俺を無視して、バロン卿が静かに口を開いた。
「我々の予算状況はまさに、資金の枯渇という名の砂漠を、希望という名の水筒ひとつで渡るが如し…えと…つまり…その…金がない」
「長いわ!!! 最初から金がないって言え!! というわけで」
俺は資料を机にドンと置き、ホワイトボードを手のひらで叩いた。
「我々魔王軍、節約と副業を始めます!!」
「ふ、副業~~~?!?!」
会議室が揺れるほど、ざわめいている。いや、揺れたのはグランゼルドが驚いて机をひっくり返したせいだ。何やってんだ、マジで。
「どんな副業?! ねぇっ!! ボクにできる可愛い系とかある?!」
「お前はまず『魔王業』を全うしろ!!!」
魔王業の仕事の半分くらい(むしろほぼ全て)を俺が代理でこなしている。つまり俺は、ただの、社畜だ。ホワイトボードに、いくつか副業候補を綴る。
「まず、魔王軍グッズの販売」
「ほう……マントとか?」
「違う、スリッパだ。君らのボケ頭を叩いたスリッパを【神器レプリカ】として売る」
「マジか!!」
「制裁の神器を売って大丈夫なの?!」
「大丈夫だ、問題ない(スリッパだから)」
下位魔族の魔王ファンなどがきっと買うだろう!!! 低コストだし、売れれば儲けが出る!!!
「さらに、カゲマルの忍術ショー」
「オレの出番ッスか!!! 口から火とか吹いちゃうッス!!」
「えっ、忍って口から火吹けるの?」
「サスケじゃないんだから出来るわけないッスよ~~」
「出来ないんかい!!!」
さも出来るかのように言うな!!! 一瞬でも期待した俺がバカだった!!!
「そしてバロン卿の演説会……は、需要あるか分からんけど」
「需要とは、すなわち時代が私に追いつくか否かの話であり」
「いや、うん、いいよ。結論、需要ないでしょ、知ってる」
議論は思いの外、白熱し、会議室はカオスに包まれた。中々、話がまとまらないそのとき、ルヴァンが静かに口を開いた。
「……僕、魔王カフェ開きたい」
「…………は?」
その、頭おかしい提案(失礼)に全員が固まり、白く濁った目で魔王を見る。お前だけだ、目がキラキラしているのは!!!
「ねぇ、どうかな? 僕が黒エプロンして、『ご主人様、世界征服の準備は万端ですか?』って言うの」
「『一緒に人類を冥土に送りましょう!』ってか!!! やかましいわぁああぁあぁあ!!!」
常備していた制裁の神器(※スリッパ)で魔王の頭を叩く。今日も神器が大活躍だぜ……。
「でもボクがやりたいって言ってるんだから、みんな喜んでやるよね?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
パワハラですか、このやろぉおおぉおぉお!!!!
果たして、魔王軍の副業はどうなるのか?! そして、世界征服は進むのか!? 俺は進まない気しかしない!!!