第3話 魔王、降臨(ただし残念)
ーー2時間後。
「……お待たせ。僕が魔王ルヴァンだ」
重厚な扉がギィィィと開く音とともに、ようやく魔王が現れた。漆黒のマントがふわりと舞い、逆光を背に魔王が立つ。一同が感動とともに振り向いた。
「おお……ついに……」
「我らが主……!」
魔王は俺たちをみるなり、両手を天に向け、口を開いた。
「……ふっ、闇より目覚めし、絶対無敵の存在ーー我が名はルヴァン、混沌の王也ッ!!」
「やっっっっっかましいわ!!!」
スパァァアン!!!
魔王なんて関係ねぇ!!! 思いっきり、会議室のスリッパで魔王の頭を叩く。俺の全力ツッコミが、会議室の壁に反響した。
「くっ……! 脳内神殿に封印していた『真理の扉』が一瞬で軋んだ……この衝撃、まさか制裁の神器(※スリッパ)か?! こんなところにあったとは!!」
「この会議室のスリッパだっつーの!!!」
見た目は美形。黙っていれば確かにそれっぽい。でも、喋ると全部がぶち壊しだ。セリフが痛すぎて、こっちの背中がゾワゾワする。
ふと、魔王の足元を見ると、ピンクのユニコーン柄のスリッパを履いていた。黒で統一しているくせに、なんでスリッパだけピンク!!!
「何故それを履いてきた!!!」
「ん? ああ、これ? ユニコーン柄可愛いでしょ? 魔王城の廊下冷えるからさ」
「可愛さと冷え対策の前に、威厳はどうした?!」
ツッコミ過ぎて、こっちのHPはもうすぐゼロになる……。
「さてと、議題はなんだったかな? 世界征服か。ふっ……世界征服? いいや、これは選定だ。愚かなる人類を選別し、我らの理想郷を創り上げるために粛清しようではないか!!!」
「……お前らに粛清されたら世界は滅びるかもな」
魔王は完全に中二スイッチが入っている。興奮したのか、魔王がマントをバサァッと翻すと、その勢いで後ろの椅子が倒れた。
「ちょ、グランゼルド、早く椅子直して!!」
「魔王様、自分でやってくださぁい☆」
「冷たい~~今日みんなツッコミきつくない?! ボク、傷つくよ?!」
この軍は、全員ツッコミ待ちですか??
もういいわ!! このまま放置したら人類が滅びる!!! こいつらをまとめ上げられるのは俺しかいない!!! ならば、俺のツッコミ力と社会人スキルをフル活用してやるしかない!!!
「いいか、お前ら!! 明日から『世界征服会議』は朝9時、定時スタートだ!! 遅刻厳禁!! そして、魔王様!! セリフの練習は夜にやれ!!」
「ええ~!? ボク、朝弱いんだけど~!」
「黙れ!! 中二魔王!!」
こうして、異世界最強(?)の魔王軍再建が、本格的に始動したーー。
……たぶん。うん、たぶん。たぶんね。