第1話 会議が始まらない件について
「……って、誰も来ねぇじゃねーか!!!」
ここは城の最上階。重厚な扉の奥に設けられた、魔王軍最高会議室。そこに、ひとりスーツ姿で座っているのが俺、長谷川慎。
俺は転生して、魔王軍参謀という肩書きになった。ふっ…俺も異世界に来て、出世したものだ……じゃなくて!!! 参謀って何?! 部署で言えば、経営企画?! 社畜ポジ再臨?!?!
「それって出世してないやつ……っ!!」
時刻は既に10時をまわっている。会議開始時刻は9時半。つまり、開始予定時刻より30分オーバー!! 社会人としては致命的な遅刻だ。
ま、ここには俺以外、誰も来てないけどな!!
「俺は一人でタイムカードを押してんのか?!」
ガチャリ。ようやく扉が開く。銀髪に赤眼のイケメン、魔王軍四天王・破壊将軍グランゼルドが悠然と入ってきた。
「やぁ。おまたせ☆ いや~~イケメン過ぎて寝坊しちゃった☆ ごめんね☆」
黒いコートをひらめかせて、会議室に入ってくる。見た目は冷酷系イケメンだが、口を開くと、ただのナルシストバカである。
「うちの軍に“☆”をつける文化はねーから!!!」
「この僕に“▽”でも付けろって言うの?」
「お前は真顔で何を言ってるの?!?!」
どこにぶつけたらいいのか分からない怒りが、喉まで上がってきたその時、ドンッ!! と音を立て、忍者のような格好をした男が天井から落ちてきた。
「オレ! カゲマル参上!! 遅刻は忍だけに忍びねぇッ!!!」
「黙れ!!! 忍のくせに誰よりもでかい音出してんじゃねぇ!!!」
履いていた会議室のスリッパを脱ぎ、カゲマルの頭を叩く。
スパァァアン!!!
「痛いッす!!! そのスリッパ履いて、足がスッキリッパーー」
俺は白く濁った目で、カゲマル頭を魔王城のスリッパでもう一度叩いた。
……もうだめだ。
幹部はボケしかいない。それに、まだ全員が揃う気配はない。しかも肝心の魔王様が来ていない。異世界転生して手に入れたのは、やっぱりブラック会議室だった。
頭を抱え、しゃがみ込む。はぁ~~っ。
「……詰んだわ」
異世界転生、やり直し人生、魔王軍幹部。全て、聞こえは良い。でも現実は、ボケの集団に囲まれた唯一の常識人=参謀で。つまり俺の胃袋は今日も犠牲になるのだ。
ーー俺の胃に平穏はない。




