第12話 天使、お迎えが来る
ーーそれは、エゼリオが『スモークスフレの味覚検証(?)』を開始してから、数日後のことだった。
その日も、彼はいつものように店の隅で、無表情にスイーツを食べながらメモを取っており、「エゼリオ様、今日は『塩と闇のモンブラン』です☆」とか言って、新作を出しているグランゼルドを肘を突きながらカウンターから、遠目で眺めていた。
そんな喧騒の中、カラン、とドアの鈴が鳴った。
「……いらっしゃいませー。ただいまの時間は~~うわっ、まぶしっ?!」
突然、店内に逆光のような光が差し込み、誰かが一歩、足を踏み入れてきた。
白銀のローブに身を包み、鋭い目をした人物。さらさらとした長い銀髪、冷静な瞳、背筋の伸びた立ち姿。そして、背には六枚の真っ白な羽。
まさしく、天界から来た『ガチ』の査察官に見える。元サラリーマンでも分かる。こいつ、ただ者ではない。
「ーーエゼリオ。……いい加減にしろ」
その人物はエゼリオの席へ一直線に向かい、目も逸らさず、淡々と言い放った。
「……クローディア上官。天界より、直々にお越しとは何事ですか」
「当たり前だ。お前が提出すべき査察報告書が、スイーツの評価記録で埋まっていたからな。一体、どこのカフェ誌の取材だ?」
「誤解です。これは純粋なる魔界スイーツの魔力的検証であり……」
「……で?」
「…………」
エゼリオが無言でスプーンを置いた。これは、上司が迎えに来たということか!!! 俺は久しぶりに、胸がときめいた。
クローディアは一息つくなり、俺の方に視線を向け、口を開いた。
「エゼリオが世話になった」
「い、いえ! そんな!!(早く連れて帰ってくれ)」
「君の噂はかねがね聞いている」
「え……?」
噂? 俺の?? どこにどんな噂が流れているというのか!!! 誰が流してるの?! 怖いんだけど!!!
「君が『参謀』だろう? まぁ確かに妙な雰囲気だと思えば、妙な雰囲気だな」
「そ、そうですかね? 完全なる魔族ですよ(?)」
今更だけど、俺って何?
転生したものの、転生前の人物と同じですよね? 何も気にせず、魔王軍の方々は受け入れていらっしゃるけど、この体は人間なの? 魔族なの? なんなの?
場合によっては何かに引っ掛かるのでは?? 少し、不安になる。
「……参謀、お前を中心に、すでに混沌指数が限界を超えている。『魔王軍』というより、ここは『スイーツ研究所』に近いな」
「お、俺を中心に?? ど、どういうこと……??」
転生者だから……? 更に不安が自分の中で募る。
「その回答は今は出来ない。また、私たちはここに来ることになるだろう。では、エゼリオ。帰投するぞ。既に君の『スモークスフレ報告書』は天界資料室にて『B級グルメカテゴリ』に分類された。もう、みな、君の報告書には、お腹一杯だ」
「っ……それは……名誉査察官としてのプライドが……!」
「プライドがあるなら仕事しろ」
クローディアの一言が、エゼリオの心にクリティカルヒットしたのか、エゼリオは机に顔を伏せた。だけど、同じように、俺の心にも深く突き刺さっていた。
これは魔王様に相談しないといけないかもしれない。
「……しかし、折角来たのだ。帰る前に一度、この新作を検証するとしよう。『塩と闇のモンブラン』か。塩分濃度と甘味のバランスが絶妙だな」
「なんか無表情で食べてるんですけど」
「……検証だ」
冷静を装い、グランゼルドの新作に微かに頬を緩めるクローディアに疑問を抱きつつ、早く連れて帰ってくれ、と心の中で願う。
しかし、そんな願いとは裏腹に、また一人、『魔界スイーツ』の虜が、増えてしまっただけなのであったーー。




