第11話 天使、今日も検証中
ーー次の日。
開店準備をしていると、俺はカウンターの隅に違和感を覚えた。いや、違和感というか、確実にいる。そこに、あの人(?)が!!!
「……おはようございます、エゼリオさん」
「本日は気温18度、湿度60%。スモークスフレの仕上がりに適した気候だ。検証に最適と判断し、開店一時間前に来た」
「いや、開店前に来るなよ!! 完全に常連の空気出してる!!!」
朝の光に白いローブがまぶしい。真っ黒な店内に対する異物感がすごい。魔族しかいないこの店に、天界のビジュアルが全く馴染んでいない。
というか、なんでローブの袖にチョコついてるんですか。食べこぼしたでしょ、絶対。
「今日のスフレは『濃度レベルD4』を超えることができるか、注目だ」
「闇スイーツの味、数値で見てるの? この人。しかもなんの数値……」
店の裏から、いつもの陽気な声が響いた。
「おはようございます☆ 今日も混沌レベルMAXでいきましょう☆」
「混沌の定義とは?!?! エゼリオと波長合わせるのやめて!!!」
「でも店の中が静かにざわめいてる感じ、なんかイイですよね☆」
「こっちは朝から胃がざわめいてるっつーの!!!」
厨房からはデスドラゴン(見習い)がエプロンをつけて出てきた。チーズケーキ、真っ黒なんですけど!!!
「本日ノおすすめ、黒炎バスクチーズケーキ、焼キ上ガリマシタ……」
「いや、焼き上がってるのコイツのブレスのせいでしょ?! ガチの黒焦げ!! 提供しちゃダメなやつ!!」
このままでは本当に、天界から突っ込まれるのは参謀の俺じゃないかと錯覚する。でも、俺、みんなの面倒そこまで見切れないよぉおぉおお!!!(心折れ)
そして、そうこうしているうちに、エゼリオはいつの間にか新しいスイーツに、手を伸ばしていた。
「……このチーズケーキ、表面に『業火属性』を帯びている……検証の必要がある」
「やっぱり食べる気満々じゃねぇかあぁあぁあぁあ!!!」
エゼリオがチーズケーキを食べている(検証している)間、俺はカフェのカウンターでエゼリオ専用スイーツメニューを考案していた。
「……って、何してんだ俺はぁああぁあぁあ!!!!!」
「慎さん、ご注文入ったら動きましょうねぇ☆ あとエゼリオ様には『堕天パフェ・超濃厚闇チョコ追加ver.』を持って行ってください☆」
「そんなメニューあったっけ?! 俺の知らないうちに新作が増えてる!!!」
「彼なりの愛情表現です☆」
「しかもエゼリオが考えたメニュー!!!」
出来上がった『堕天パフェ・超濃厚闇チョコ追加ver.』をシルバーのお盆に乗せ、店の片隅に居座る天使へ持って行く。相変わらず、無表情でスイーツを見つめている。
「はい、お待たせしました。エゼリオ様。『堕天パフェ・超濃厚闇チョコ追加ver.』です」
「……ふむ…対象物、外観は正常……香りは……甘味レベル7.2、魔力濃度12.4%……よし、検証開始……」
「いただきますって言おうね!! せめて人として!! いや天使か!! どっちでもいいけど!!」
あまりの堂々たる『食べる気満々スタイル』に、俺のツッコミも虚しく消えていく。いや、違う、俺は本来魔王軍の参謀であって、カフェの運営責任者じゃない。
「はぁ……俺、なんでこんなことに……」
「そうですね、前世の行いですかね☆」
「何も知らないくせに適当なこと言うな!!」
「でも参謀がいないと、この店一週間も、もちませんでしたよ☆ 魔王様も、みんな感謝しています☆」
「なんだよ、急に……やめろよぉおぉ」
「参謀のこと大好きッスよ!!」
あはは、と笑い、魔王軍四天王のメンバーが俺に抱きつく。くそがぁああぁあ!!! こんな時だけ!!! そんな中、エゼリオがふと顔を上げ、口を開いた。
「……参謀」
「……はい?」
「この『堕天パフェ』、次回は……ベリー系の酸味を加えると、感情値により刺激的な変化が出ると推測される……」
「いや真顔で新作要望すなぁぁあぁああ!!!」
「……検証のためだ」
「お前の心がいちばん混沌としてるわ!! この店より!!」
こうして、今日も『MAOU CAFE』には天使と魔族と元サラリーマンの三重奏が響くのであったーー。




