3 東の海 あずまのうみ
東の海 あずまのうみ
四季姫が海が見たいというので、みんなで海を見に行くことになりました。
その日は、とても良いお天気の日で、海は穏やかで、空は青色に晴れ渡っていました。
「うわー。お兄様。海ですよ! 海です!」と四季姫は海を見ながら、大きな目をして言いました。
藍は四季姫にひっぱられるようにして、白い砂浜をゆっくりと(砂の上にあしあとを残しながら)歩いていました。
大きな海から、緩やかに波が押し寄せては、ひいていき、空は晴れていて、青色の空と白い雲が、まるで鏡で写したように、とても海に似ていました。
風は弱く、遠くで海鳥が鳴いています。
それはどこか、夢のような、なんだか幻想的な風景のように思えました。
「とっても大きいですね。ずっと先まで海で、どこにも地面が見えません。どこまで海は続いているのでしょう」
楽しそうにはしゃぎながら四季姫は言いました。
「本当だ。どこまでだろうね」
優しい声で藍は言いました。
とても暑い日だったからでしょうか? 遠くの海の上には、蜃気楼のような、靄のようなものがゆらゆらと見えます。
その靄の中に、藍は遠い都での日々を写し見るようにして、思い出していました。
白い砂浜の上の、大きな木の木陰になっているところで、おつきの八重が朝、お屋敷で作ってくれたお弁当の準備をしてくれています。
八重はとても暑そうにしていて、お屋敷に帰りたそうな顔をしていました。
そんな美しい東の海の風景を、小咲姫はじっとなにか遠いものを見るようなぼんやりとした瞳で、見つめていました。
「海はとても美しいですね」
藍がやってきて、小咲姫に言いました。
「ええ。本当に」
小さく笑って小咲姫は言いました。
白い砂浜の上には、みんなの足あとが残っていました。
ざー、という波の音が聞こえます。
それは、とても美しい音でした。
でもなぜか、今日の小咲姫の耳には、とても悲しい音に聞こえていました。