ルームメートの柳です。
遠距離恋愛中の彼氏のアパートに行くと、見知らぬ男が彼氏のベッドに寝そべり漫画を読んでいた。
男は私と目が合うと張り付けた様な笑みを浮かべ立ち上がり私を見下ろした。
「初めまして。佐藤君から話は聞いています」
「はあ」
「佐藤君のルームメートの柳と言います。大分年上です。よろしくお願いします」
「はあ」
って、ルームメートが出来たなんて聞いてない。
「お二人に迷惑はかけませんので存分にイチャイチャしてください」
え?何?ずっといるの?
私泊まりに来たんですけど。
夜になったら出てってくれる感じ?
それとも私達二人に出かけろってこと?
「えっと、悠一は?」
「ああ、何か電池買いに行きましたよ。買い置きがなかったみたいで」
「あ、そうですか。あの、柳さん、ルームメートっていつから?」
「一週間くらい前です」
「そうですか、あの、柳さん大分年上ってことですけど、おいくつですか?」
「いくつに見えますか?」
「二十代後半、ですか?でもそれなら大分年上ではないですよね?」
「まあ、そうですね」
「あの、失礼ですけど、ご職業は?」
「無職ですけど、でも安心して下さい。俺お金いらないんで」
資産家の息子、または貢いでくれるマダムがいる、とか?
「俺幽霊なんで、飯いらないんですよ。だから安心してください」
「は?」
「幽霊なんです。大分前に死んでて、生きていたら、まあざっと二百超えてます。最近こっちの方に来て、何故かこのアパートから出られなくなってしまったんです。すみませんね」
「はあ」
「お二人に迷惑はかけません。美形な空気だとでも思ってつかの間の逢瀬を楽しんでください」
嫌、楽しめないでしょ。
何それ、ちょっとさっさと帰って来てよ悠一。
「何でこんなことになったのか、何故かこの部屋から一歩も出られないんです。出ようとすると見えない力で押し戻されるんですよね」
「いえ、その、幽霊って、冗談ですよね?」
「冗談じゃありませんよ。ほら、足ないでしょう?」
ホントだ。
何で気づかなかったんだろ?
「こんなこともできますよ」
自称幽霊柳さんはふわりと浮いて天井に描かれる龍のように壮大で華麗に漂ってみせた。
これ、お金取れるかも。
「俺はテレビのチャンネル権だけで十分です。漫画とテレビしか楽しみがないので。美由紀さん料理上手だそうですけど、何故か玉ねぎが目にしみますので、できれば使わない料理でお願いします」
めんどくさい。
もうさっさと帰って来てよ、悠一。