Episode23 - B1
本日2話更新です
こちら1話目
レビュー頂いていたみたいです。ありがたい
今一度準備が終わっているかを確かめた後、私は扉へと触れる。
すると、だ。
【この先は3層へと繋がっています】
【特殊なエリアとなっている為、セーフティエリアが存在していません】
【開きますか?】
とログが流れ、私の目の前には是非を決める為のウィンドウが出現した。
しっかりと準備も終え、手斧も手元にある現状で尻込みする意味もなく。
私はすぐにそれを承諾し、扉を開く。
ゆっくりと開かれた扉の先は、今まで見たどのフィールドよりも暗く灯りもない。
それでいて、霧が薄くかかっているようで……普通に進めば変なものにつっかえて転んでしまうだろう。
しかしながら、私の身体は既に私の意志とは関係無く動き出していた。
ボス戦前にあったムービー処理のようなものだろう。
暫く暗闇の中を進んで行くと、不意に開けた場所に出たと分かる。
空気の流れ方が変わったのだ。
それと共に、周囲に火が灯っていく。
――――――――――――――――――――
暴け。
霧に包まれたその内情を。
発け。
その身体に隠された心情を。
心情は力となり、内情は武器となる。
何者でもあり、何者でもない私はそれを望む。
嗚呼、世界よ、我が刃となれ。
煙を切り拓く力となって。
安心すると良い。
長い戦いもここで終わりだ。
少なくとも3人よりは短いだろう。
――――――――――――――――――――
霧が薄く足元を漂う、満月の見える闘技場の中心にソレは居た。
今までのボス達のような、明確に人であるような見た目ではなく。
黒い靄が集まって人のような形を模っているいるだけのソレは、右手にナイフのような刃物を持っている。
『――』
ソレはこちらへと一回頭を下げ……次の瞬間、その姿を消した。
耳元のピアスが甲高い鈴の音を響かせると同時、私は咄嗟に前へと跳びながら後方を確認してみれば……そこには刃物を振り下ろそうとしているソレの姿があった。
【『切裂者』との戦闘が開始されます:参加プレイヤー数1】
あちらは言葉を紡ぐ為の口が無い為に、私は言葉を発する余裕が無い為に。
言葉はなく、戦闘は始まった。
昇華煙、具現煙を過剰供給する事で薬草の生えた人狼へと変化していきつつ、『切裂者』の攻撃を防いでいく。
上から振り下ろされた刃物を手斧で弾き、蹴りを入れようとした所で既にその場に『切裂者』が居ない事に気が付いて……身体を回すように背後へと手斧を振るう。
その結果か、金属同士がぶつかり音が周囲へと鳴り響いた。
力自体は人狼と化し、【過集中】等のスキルを発動させている私の方が上なのか、押し切ろうとすれば難なく押し切る事が出来るだろう。
だが、そう簡単にはいかなかった。
力を込め、無理矢理に手斧の刃を靄の身体へと届かせようとした所で、不意に『切裂者』が力を抜いた。
瞬間、受け皿が消えた私の身体は、力を込めていた方向へと流れてしまい……身を横に逸らしてそれを避けた『切裂者』へと大きな隙を晒してしまう。
いつの間に持ち替えたのか、刀のような形状へと変化した刃物を上段へと構え首へと振り下ろそうとしている姿を横目で見つつ、周囲の紫煙を全力で操っていく。
相手の動きを止める為ではなく、私の動きを補助する為に。
流された身体を更に大きく動かそうと、身体の要所要所を紫煙の手によって思いっきり押す事で一気に横へとスライドさせ、
「くっそ……ッ!」
刀は振り下ろされた。
だが、その刃の行先は当初狙われていた首筋ではなく、私の右肩へと変わり……そのまま断ち切られてしまう。
HPが大幅に減ったのは別段良い。具現煙の過剰供給中なのだ、STさえあればすぐにでも回復出来る。
だが、右手に持っていた手斧を地面に落としてしまったのは大きなミスだ。
手斧の自動回収能力は、投擲によって発動するものなのだから。
体勢を整える間にも、耳元のピアスが鈴の音を鳴らし続けている。
目の前に『切裂者』が居るというのに鳴り続けているそれは、焦る思考を加速させていく。
……五月蠅い。
それだけ危険という事なのだろう。
闘技場全域がそうである、とは思わないものの……瞬間移動を多用しているようにしか見えない相手だ。
逃げ場がない、という意味では間違ってはいないはずだ。
血が流れる。
デバフの欄に血のようなマークが出現しているのが分かる。
だが、駆ける。紫煙によって紫煙外装とほぼ同じ手斧を作り出し、左手に持ちながら。
私の紫煙外装の元から動かない『切裂者』の元へと駆け寄り、距離を取らせる為に振るう。
上段からの一撃を――受け流され、返す刃で頬に傷がついた。
胴体への横一閃を――一歩引く事で避けられ、胴体へと三回の斬撃を叩きこまれる。
逆袈裟のように振り上げて――左腕へと先んじて放たれた一刀が、腕を斬り飛ばす。
紫煙を操り様々な形状の武器を降り注ぎ――その全てを弾かれ、砕かれる。
「はは、凄いじゃん」
思わず笑みが零れてしまう。
ここまで手が出ないとは思わなかった。
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