Episode『結局アレってどういう違い?』
本日2話更新
こちら1話目
※断章は、最悪読まなくても大丈夫なお話達です
それを頭に入れた上でお読みくださいまし
「そういやメウラくんに聞きたい事があるんだけど、ちょっと良い?」
「作業しながらで良いなら聞くぞ」
「良いよ良いよ」
私が今居るのは、メウラのマイスペース。
彼が基本的に装備類の製作や整備などを行う本拠地だ。
このマイスペース内は人を呼ぶという事を想定していないため、今回のように私が暇潰しに訪れた際は漂っている紫煙を使って勝手に椅子を作り出すのだが……今回は、適当に空気中にハンモックのようなものを作り出して寝転がりながら話をしていた。
「ほら、私達が戦った『黒血の守狐』って居たじゃん?アレ、ダンジョンの方と外界に居た方だと戦う場所が違ったというか……ダンジョンの方があの黒狐に合わせた環境になってた気がするんだよねぇ」
「あー……成程?どうして外界とはそこが違ったのか、って所か?聞きたいのは」
「そういう事。実際なんでなのか知ってる?ほら、前に倒した『樹葬の宿主』に関してはちゃんと周りを自分のフィールドにしてたじゃん。そことの違いが気になってさ」
『黒血の守狐』と『樹葬の宿主』。
この2体のボスの違いは、イベントで出てきたかそうでないのかの違い程度しかない。
変わる所があるとすれば……『黒血の守狐』は最悪1人でも倒せるのに対し、『樹葬の宿主』はレイドボスだったという点くらいだろうか。
「そこら辺はこのゲームのストーリーとかを齧ってりゃある程度は把握できるんだが……まぁ簡単に話してやろう」
「ん、良いの?作業」
「これはお前が渡してきた3体のボスの検証品だからな。遅れたくらいで困るのはお前くらいだろ?」
「あは、言うねぇ」
メウラは手を止め、こちらを見上げる。
一瞬何をやってるんだという目で見られたものの、自身の工房の現状を見て空中に居るしかない事に気が付いたのだろう。
申し訳なさそうに少しだけ自身の周りを片づけ始めた。
ちなみに、彼の従者……私のルプスのような存在は、現在マイスペースに設置された鉱脈の方で炭鉱を行っているらしい。
相応のゲーム内通貨を支払ったそうだが……マイスペース内に居るだけで鉱石が入手できるのは中々に良いものだとこの前語っていた。
「まず最初に、このゲームにおけるボスってのは2種類に分けられる」
「あー……えっと、人型かそうじゃないかって感じ?名前の付けられ方的にも」
人型……パッと思いつくのは、『信奉者』や『人斬者』、『酒呑者』のような名前の後ろに者が付くボス達。
今回の話題として挙げた『黒血の守狐』や『樹葬の宿主』とは明確に違う命名規則であると考えられるだろう。
……過去事変の方は……まぁアレもアレで少し違うだろうし置いとこう。
彼女らは彼女らで、自分で戦いやすいフィールドを展開していた節がある為、今回とは少し違う流れを汲んだボスだと考えておいて良いはずだ。
「そうだな。基本的にレラが言った通り、人型かそうじゃないかで分けられる。そのそうじゃない連中基本的には動物型になるわけだが……動物型のボスに関してはちょっとした共通の能力があるとされていてな」
「共通の能力?」
「あぁ、自身の存在する周囲の環境を、自身が過ごしやすい領域に改変していくっていうな。それなりに時間が掛かる代わりに、改変が終わった後は中々に手が付けられない厄介さになるみたいでなぁ」
思い浮かぶのは、『樹葬の宿主』周辺の環境だ。
討伐後、篝火によって全てが焼かれていたものの……『樹葬の宿主』がアレらを全て作り上げていたとしたら。
当時は伽藍ドゥ達の慌て方が良く分かっていなかったが、今この話を聞いてやっと理解出来た。
あれだけ自身の領域を広げたボスは厄介を通り越して面倒だろう。
「で、だ。その領域が完全に広がっている世界がダンジョン。門の奥ってわけだ」
「あー。いわば、完全に準備出来てるか否かって感じか。外界だったら他のボスも居るから縄張り争いとか起きてそうだしね」
「実際起きてるみたいだぞ?俺らはまだ遭ってはねぇけど、他のプレイヤーが見かけたのは動画サイトに挙がってたはずだ」
弱肉強食の世界。
それはプレイヤーだけではなく、ボス側にも適用されているようだった。
……『樹葬の宿主』の厄介さがもっと上がったなぁ……あのタイミングで倒せてて良かったって考えるべきなのか否か……。
『樹葬の宿主』自体がエデンから見てどの辺りの外界に居たのかは今となっては分からない。
しかしながら、あのボスが更に領域拡大していたら……少し前にあった襲撃イベントのように、エデン内でプレイヤー達が総出で防衛戦……なんて未来もあったかもしれない。
「あれ?そう考えると……『樹葬の宿主』みたいなボスって絶対他にも居るよね」
「……居るな」
「プレイヤーが発見出来てないだけで、『樹葬の宿主』以上に領域を広げてる奴も……いるよねぇ」
「いる、だろうなぁ……」
嫌な想像をしてしまったが故に、この話題はここまでとなり。
私達はお互いの作業に戻る事になった。
しかし、本当にそんなボスが居るとしたら……どのような相手になるのだろうか。
ほんの少しだけ心の中で好奇心の芽が出るのを感じていた。