第九話 大掃除
一颯「前回のあらすじ!」
楓「私が頑張った!」
怜「そんな感じだね」
一颯「身体も治してもらって本当に助かった」
和葉「おい!俺との対応の差!俺よりあらすじ酷かったろ!?」
一華「大人の癖に子供と比べられて良いのか?お前は」
和葉「嗚呼!?馬鹿にすんなよ!」
一華「してない」
和葉「した!」
一華「してない」
和葉「し——」
一颯「これ以上は長くなりそうなんでまた今度で。第九話どうぞ」
和葉「まだ話してんだろ!!」
12月13日。地下の訓練所。そこに3Rの全員が揃っていた。
「…さてと。今回集まって貰ったのには理由があるんだけど…分かる人ー?」
「はい!」
「和葉くん!どうぞ!」
「一颯の事!」
「ざんね〜ん!違いま〜す!」
「え〜!違うのかよ!ブーブー」
不貞腐れ、怜にバッシングを飛ばす。そんなしょうもない流れに付き合いきれず、一華が話を戻した。
「で?何の為?」
「…和葉の任務で、一颯をボコった奴居るじゃん?」
「…あー。あの代償喰らってた馬鹿か!真っ二つに捌かれてたな」
少し心当たりがあった詩音が、回答する。
「そう。ソイツソイツ。で、ソイツがさ新しく出来た反社会的組織の人間って分かったんだよね」
「…つまり?」
「大掃除イベント開催!」
怜がそう言った瞬間、場が大きく盛り下がる。
「メンド」
「ダル」
「勝手にしろ」
「俺、パス。欠席で」
「私も」
「…やる気無いね。他の人は?」
返事をしなかった5人に質問する。何となく答えの想像はつくが、念の為だ。
「私はどちらでも問題ないです」
「俺もどっちでも良いわ」
「僕もどっちでも良いです!」
「アタシも」
「僕もです」
「…成程。皆やる気無いんだね」
怜は返事を聞いて、そうまとめた。
「でも、コレは強制参加なので、そのつもりで、日時は年末を予定してるから宜しく」
全員参加であるにも関わらず、何故、怜は参加するか否かを聞いたのか、一颯は不思議に思った。恐らく、一華や翔、蒼とかも思った。すると、和葉と詩音が不満を漏らす。
「…年末って事は…1…2…後一ヶ月無いのかよ!」
「急ぎ過ぎだろ!過労で死ぬぞ!平定官ってクソだな!年末に働かすな!」
さっきまでの沈んだ空気は何処へ行ったのやら。訓練所は非常に騒がしくなっていく。
「だって!上が!上が煩いんだもん!俺じゃねーもん!仕方ねーもん!」
「何がもんだ!もんもんうっせぇんだよ!悶絶してんじゃねぇ!そんな煩いなら殺せよ!」
「そうだ!殺せ!殺せ!」
そう詩音の言葉に乗る和葉。結構危ない発言な為、一華や翔、蒼が肝を冷やしている。それは怜も例外では無い。
「分かった!分かったから落ち着こう?それ以上は死ぬ。俺が死ぬ」
「別に良いけど?困んないし」
「俺も、どうでも良いや」
「…お前ら…食事洗濯掃除治療訓練その他全てをやってくれてる相手によくそんなに威張れるな」
「「………」」
何一つ響いていない2人に、修弥がツッコミを入れる。ご尤もな発言に、2人は何も言い返せない顔で押し黙る。
「ありがとう修弥。少し面倒だったから助かった。と言う事で一回切り替えて」
怜は説明を始めた。出来てで結成から少ししか経っていない組織であり、リーダーも未熟。足跡残りまくりで誘ってるのかと言えるレベルの拙い物と言う事。
出来たばかりや拙い事から、全体的に年齢層が低めと予想されているが、資金面では他組織を逸脱している。そう言える程に豊かである事から、偽札を作っている可能性もあると言う事。
コレは重要で、構成員の中に権能持ちが多い謎の組織でもある。と言う事。
「…と。まぁ、そんな所。部下に調査させた警察上層部は証拠も揃って居るから早く壊せと煩いよ。あ〜耳が痛い」
「拙い…未熟…俄然、やる気が沸いて来たぁ!!!」
「俺も!!馬鹿どもにお急須据えてやろうぜ!!!」
「…お灸だよ和葉」
「馬鹿どもにお灸据えてやろーぜ!!!」
組織の情報を聞いて勝ちを確信した詩音は闘志を漲らせる。和葉も翔に助けられており、不安感を煽るが闘志は漲らせていた。その光景を見て、千斗、沙紀、陽奈が欠席宣言した。
「店長と詩音。馬鹿の3人が居たら大丈夫そうだし、俺は流石にパスでいい?」
「私も千斗と同じでパスが良い」
「私も〜」
「うーん。まぁ、良いんじゃない?翔も置いて行くからお店頑張ってね」
「俺行く」
「私も」
「私も〜」
しかし、怜の一言を聞いて考えを改めた様だ。
「…まぁ、残るのはいつもの面子だな。一颯はどうするんだ?」
「残念。強制です」
「だ、そうです」
一華の質問に怜が代わりに答えた。一颯はなんとなく分かっていた様で大人しく従う。
「よし。決まったね。参加者は和葉。修弥。一華。詩音。千斗。沙紀。陽奈。蒼。一颯ね。了解。上に提出しておくね」
筆を走らせながらそう言った怜。そして、数秒が経ち、走らせる手を止めた怜が、別の話題を変える。
「…うん。全員集まってるから一颯の権能についても説明しておくね。と言う事で出して一颯」
「あっ。はい」
そう返事して一颯は少女を出す。前回同様、黒いハイネックのノースリーブを着て居る。
「と言う事で、護衛対象の楓くんで〜す。権能だけあって身体が物凄く硬く、釘くらいなら指弾きで簡単に打てます」
怜がそう紹介した後、メンバーがジロジロと観察して居る。突然出された事もあり、楓は少し戸惑っている。
「前髪めっちゃ邪魔そう」
「ハサミ入らないから切れないんだよね」
詩音の話に怜が答える。事実、ハサミの刃は通らなかったし、切ったら切ったで権能を壊した判定で再び出す時に復元されるのでは?となり、切るのを諦めたと言う背景があった。翔はその話を聞き興味深そうにしている。
「成程。戦闘中、F2細胞で身体を硬化してるから単純な刃物じゃ切れないみたいな感じですね」
「そうそう。でも権能と同じで結晶化をしてる訳だから、それよりも更に硬いよ」
「硬いのにちゃんと靡く髪すげ〜」
「デコピンで人の骨折れそう」
「殴り殺すの上手そう」
「銃弾をノーガードで受けてそう」
「人間砲弾したら強そう」
と、詩音達からは様々な感想が飛び出てくる。まぁ、殆ど詩音が言っているのだが。
「ちなみに、ちゃんと意識も感情もあるから普通の人間と同じだよ。自己紹介でもしてみたら?」
「え!俺、和葉!宜しく!」
「うん!パスタみたいな人!」
楓がそう言った瞬間、和葉の頭に全員の視線が集まる。そして、意味を理解してしまった詩音と千斗、沙紀が笑い声を漏らす。
「ンフフッ。た、確かにパスタだわ。色、光の反射具合。どれを取ってもパスタ。フフッ」
「笑うなよ!パスタじゃねーし!?」
反論して騒ぎ出す和葉達。一颯はそれを眺めながら怜にこう言った。
「…確か、楓は僕の記憶を全部見てるんでしたよね。自己紹介する必要性は無かったのでは?」
「……まぁ、その通りだけど、面白いから良いでしょ」
「このまま放置してたら編み込みとかして、エビフライとか言い出しそうですよ?」
「…笑わせにきてる?」
一颯の発言に、怜は質問する。しかし、一颯は止まらない。
「戦闘後で血を被ってたら「ナポリタンじゃん!」とか言い出しますよ?」
「…受けて立つよ」
怜は身構えた。一颯は決めきろうと、連続して攻撃を喰らわせる。
「黒髪にしてイカ墨パスタとか、白髪にして素麺とか、色を濃くして焼きそばとか、風呂上がりとかで、髪が纏まってる時はマカロニとか言い出しそうですよ?」
「…分かった分かった。これ以上は恥ずかしいから止めてくる」
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「と言う事で、楓の紹介終わり。今日はもう、皆好きにして良いよ」
その一言で、皆がバラバラに部屋を出て行ったりしている。詩音は楓の服問題に興味を持った様で、怜に質問している。
「なぁ、楓ってパンツ履いてんの?」
「詩音?好きにしても良いって言ったけど、そこまでして良いとは言ってないよ?」
「まぁ。直接見りゃ良いか」
そう言う怜の静止を振り切り、詩音は楓の服を捲る。
「ほぉ〜、履いてんだ。白色で可愛いね」
「詩音。それ以上はやめてね。護衛対象にして良い事じゃ無いから」
「この下もちゃんと再現されてんのかな?」
更なる警告でも、詩音は止まらない。
「一颯。戻して良いよ」
「了解です」
怜に命令され、詩音が悪ふざけをする前に楓を戻した。他の部屋に居た皆は巻き込まれない様に、とっくに部屋を退出している。
「…チッ。……アレ?服何処いった?」
「元々、服は一颯の奴を着てるから一颯に戻るよ」
「つまり、今、一颯はあのパンツ履いてんの?」
その質問に、一颯が答える。変な勘違いは早く解いておいた方が良いのだ。
「大抵、ポケットに入れられてますね」
「つまんな」
「…一颯、先上がってて良いよ」
「あっはい」
怜の怒りを感じ、それ以上は何も言う事も無く一颯は部屋を出た。謎の轟音が響き、怜が上がってきたのは一颯が部屋を出て十数秒後の事だった。
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「…腹が痛え。何で、たった一発で人を吐かせられるんだよ…」
「今回は詩音が悪いよ」
「…少しは慰めても良いんだよ?翔?」
「ごめん無理」
医務室。そこでそんな会話が繰り広げられていた事を知る者は少ない。
第十話へ続く