第八話 権能
一颯「前回のあらすじ!…と、行きたいけど、メチャクチャ痛いので誰か代わりにお願い」
和葉「えぇ…。相手本気にして、自問自答した!」
怜「概ね合ってる。と言うか満点」
和葉「やはり天才だったか!」
怜「それはない。安心しなよ」
詩音・沙紀・千斗「笑」
和葉「はぁ!?そんな事より、俺は怜さんみたいな、レイモドキに足止めされてたんだけど!?どう言う事よ!」
怜「生物みたいな名前付けないであげてよ」
和葉「知るか!八話GO!」
詩音「もしかして。キレ症」
茨が一颯を貫こうとしたその時、一颯を庇う様に目の前に女の子が出現した。
自分の腰…いや、それよりも長い髪を持っており、5歳児の様な見た目をしている。少女はプラチナブロンドの髪に、一颯の右目と同じ、赤い両目を持って居て、異質な雰囲気を纏っている。いや、そう見えるだけかも知れない。
異様な雰囲気に見える理由を上げるとすると、色々と言葉は出てくるが、1番は全裸だからであろう。とても11月にする様な服装では無かった。
しかし、そんな事お構い無しに、すべての茨は速度を緩める事なく少女に激突した。
体を突き抜け、血飛沫が舞う…かと思われたが、茨は彼女にぶつかった瞬間、ぶつかった衝撃の所為か、形を維持出来ずにバラバラの黒い塵へ崩壊した。
「アガ!?ガギゴガ!?ガガァ!?」
突然の崩壊に驚く女の意識の事なんて露知らず、一颯はゆっくりと立ち上がる。先程したばかりの怪我から血が滴る事はない。完全に治っていた。そして、少女に一言命令する。
「殺して良いよ」
命令を受け、少女は小さいその右手に、一颯が怜から貰った権能を取り出し、剣先を空に向けた。
「アバパ?アガゴク?」
女がその行動に困惑した瞬間、女の子は剣を真っ直ぐ振り落とした。女との距離は離れ、振り落とす速度は非常に遅い。
「アガ?ギ——」
風一つ吹かず、何も起きないと思われたその時、発言中の女は、奥のビルや、空に佇む雲こど真っ二つに切り落とされた。
それを確認した女の子は後ろで倒れる一颯の方に体を向け、笑顔でこう言った。
「おはよう!一颯!」
———
——
—
「——って事があったんだよな」
「それで僕の方に…」
店の地下。診察室にも検査室に見えるその場所で、和葉、一颯、怜は今回の任務について話し合っていた。怜は和葉の報告を聞いて、後悔を連想させる様な苦い顔に浮かべる。
「成程。俺に似た誰か…ね。嗚呼…放置するべきじゃなかったかなぁ…」
「…?どう言う事だ?」
「いや、昔…確か…今から数年くらい前、エリア1の園で、脱走事件が有ったんだけど知ってる?」
「脱走ですか?」
「そう。レート未確定の子供が2人ね」
そう軽く説明した後、怜はその事件の詳細を語り出す。
「当時、10歳だった2人は片方が虐められていた事に耐えられずに脱走。脱走者は首謀者と予想される白雪奏。そして、虐められていた桐生渚。この2人が脱走したんだけど…レートがまだ付けられていなかった事、行動原理があくまでも人情と言う事で、納得はいかないけど大事にはならなかったんだけどね…」
昔を思い出しているのか、遠い目をしながらそう言った。
「納得いかなかったってどう言う事だ?」
怜のその言葉を聞いて、和葉は何かに引っ掛かったらしく、怜にそう質問した。怜は更に苦い顔をして、回答を述べる。
「……白雪奏。彼は俺と同じなんだよ。だから野放しには出来ないと言ったんだけどね…上は放置を貫いてたよ。一度出した結論を撤回したくなかったんだろうね」
「ん?同じって一体ど——」
更なる質問を重ね様とした時、扉が開いて、翔が入って来た。その手には紙が握られている。
「結果出ましたよ」
「おっ。どうだった?」
興味津々で翔から書類を受け取る。その血液検査の書類のF2細胞量の欄には132と書かれていた。怜はそれを見て、翔に意見を求めてみる。
「うーん。どう思う翔?」
「…どうって、流石に低過ぎると思いますね。前回は500程度だったのに今は100程度」
「そう。まぁ、分かってた事だけど…権能が発現した事で細胞の数がかなり少なくなってる。平均値以下。一般人よりも少ないのは流石に看過出来ないかな…」
椅子の背もたれにもたれ掛かり、グルグル回転しながら頭も回す怜。外見からは予想出来ないが、かなり焦っている様だ。それを受け、一颯があの時の少女を出しながら聞いた。
「それは、楓の所為。ですかね?」
「私関係無い!少な過ぎて力出てない!一颯が悪い!」
一颯の発言に、楓は全裸の全力で反論する。流石に全裸はよくないと「服は着ようね」と。一颯が自分の着ていた上着を着せた。一颯の身体に合わせたオーダーメイドの為、案の定、楓の手は袖から出てくれない。非常に不服そうな顔をしている。
「まあまあ、落ち着いて。悪いのは持ってない一颯だからさ」
宥めるにしては失礼過ぎる一言。当然、一颯が小言を漏らす。
「…普通。遠慮って有りますよね」
「一颯には要らないもん!」
「えぇ…」
しかし、楓は怜側に着いた様だ。一颯は困惑を顔に浮かべ、翔が思わず困惑を漏らした。そんな取り返しのつかない流れになってきた為に、怜が話を戻す。
「まぁ、どちらにせよ。今のまま任務に行くと、F2細胞が少な過ぎて攻撃1つで間違いなく死ぬね。肉体的な強化が必要だと思うよ」
「筋トレ?筋トレ?なあなあ。筋トレすんの?」
「まぁ、そんな感じ」
筋トレの話が出てきた事で、先程まで何とも言えなかった和葉はテンションを上げた。怜は和葉に曖昧な丸を付ける。完全回答と言う訳ではなさそうだ。
「…まぁ、筋トレしつつ、F2細胞に頼らない戦い方。武術や剣術を習得しようって話だね」
「でも、一朝一夕では身に付きませんよね…」
「当然でしょ。簡単に身に付いたら敵が強くなって俺が困る」
「一颯弱い!」
怜はそんな冗談を含めながらそう言った。一颯は楓の発言を無視し、楓を締まった後、更に質問を重ねる。
「怜さんに習うんですか?」
「俺?まぁ、それでも良いけど…権能が壊されたって言ってたから、剣術よりも武術を鍛えた方が良いと思うよ。その場合、俺はあまり教えられないかな」
そんな曖昧な回答に、和葉が結論を求める。考えたくないのだろう。そうに違いない。
「…その場合どうなんだ?」
「別の平定官に依頼して、研修的な要領で泊まり込みで習うと思うけど…」
「残念だけど、引き受ける奴なんて居ないよ。レート5なんかと関わりたい奴居ないもん」
「残念だったなー」
「言い返せない…」
翔の濁した発言など全く気にせず、椅子でクルクル回りながらハッキリと言う怜。そして、質問した側の癖に乗っかる笑顔の和葉。一颯は正論を受け反論出来ないでいる。
「なら、どうするんですか?」
「まぁ、アテがない事はないんだよ?でもなぁ…アイツに任せるのはなぁ…」
「…?あの…アイツって誰ですか?」
「そりゃ、アイツはアイツだろ」
「和葉。少し静かに」
知力の低さ故なのか、ただただ馬鹿にしているだけなのか、それとも、ふざけたいだけなのか。場の空気を乱す和葉を怜は黙らせる。和葉は渋々頷いた。
「まぁ、アイツってのは神倉風和の事なんだけど…誰か分かる?」
その言葉に、和葉と一颯は全く知らない様で疑問を浮かべる。翔は知っているがだけに、怜を止め始めた。
「…一颯を殺す気ですか?」
「えっ。死ぬんですか?」
「南無!」
直球過ぎる質問に、一颯と和葉が反応する。和葉に関してはただの煽りだが、そんな事気にも止めず、怜は弁明を図る。
「違う違う。アイツだけなんだよ。レートで判断しない奴。後、F2細胞に頼らない様な奴ね。俺自身も実の所はF2細胞に頼るスタイルだし、他の受けてくれそうな奴等も、F2細胞依存だから教えられないの。それにコレは最終手段。使うつもりは全くないよ」
「絶対嘘だ。使うだろ」
「この流れだと使いますよね?」
怜の言葉を聞き、和葉と一颯がそう断言する。怜は相手取るのが面倒になったのか、はたまた、相手したくなかったのか、2人の発言を無視した。
「まっ。頼むなら他の誰かも連れて行かせようかな」
突然、良い事を思い付いた様にそう言う怜。何かを企んでいる様なその笑みが翔の不安を煽る。
(多分。連れて行かれるのは詩音だろうなぁ…)
翔は遠い目でそう考えていた。
「いや、無視すんな!」
無視された事に、1人遅れて気付いた和葉の怒声が響く。
———
——
—
翌日。地下の訓練所で、怜と一颯の2人がいた。一颯は制服を着ている。それに重ね、赤黒い権能を構えている。
「とりあえず、テキトーに攻撃してきてよ」
ポケットに手を突っ込んだまま、一颯を誘う。一颯は仕方なく怜に戦いを挑む。ただ愚直に怜に向かっていく。
「はい。単純」
しかし、怜の軽い蹴りで尻餅をつかされてしまった。ポケットから手は出ていない。手は要らないと言う事だ。
「…流石に無茶ですよ」
「やってみなきゃ分かんないでしょ。俺が避けるのミスって転けて、一颯の攻撃が良い感じに頭に命中する可能性もあるし」
「…人生で何回攻撃させるつもりですか……」
運が幾ら良くても有り得ない確率を上げる怜に、一颯に諦めが浮かぶ。
「まあまあ、早く起きて。もう一回やるよ。とりあえず、手を使わせたら勝ちね」
「…ポケットから出したらでお願いします」
「じゃ、それで」
怜の了承を得た瞬間、一颯は楓を出した。全裸なのは分かっていたので、上着を予め投げ付けておく。
しかし、その行為は徒労に終わった。何故なら、楓は服を着ていたからだ。一体から持ってきた服なのだろうか。それを気付かせてくれる様な一言を怜は放つ。
「半裸でやるの?痛いよ。絶対」
「えっ」
当然、楓は一颯から出ているので出る時に奪えるのは一颯の服だけだ。楓は一颯のインナーを着ていた。黒いハイネックのノースリーブである。
お陰で、一颯は半裸にアームウォーマーと言う変態の様な格好をしている。
「何でインナー!?」
「上着、袖邪魔!」
「正論だぁ…」
楓の一言に反論出来ず、一颯は仕方なく楓に渡した上着を着る。
「じゃ。何処からでもどうぞ」
この後、2人はボコボコにされた。
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——
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「もっと、連携取ろうね」
「一颯寝てるよ?」
「楓に言ってるんだよ」
打撲で内出血ばかりで気絶した一颯の周りで、そんな会話が繰り広げられていた。
第九話へ続く