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ロウエストの内幕  作者: 偽師
第一幕 『僕』
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第七話 囮作戦

一颯「前回のあらすじ!初任務で和葉の同行をする事になった一颯!」

怜「予想を超える推定レートの高さに2人には緊張感が走る」

和葉「一体、2人はどうなるんだ〜!?」

一颯「…推定レートってなんなんです?」

怜「犯罪者レートの推定だよ。通常レートの下。6から10があって、その犯罪者の実力、罪状によって数字が増える」

和葉「大抵、通常レートに相対する実力だと思ってれば良いぞ。レート1に相対するのは10。2だと9」

一颯「8越えって事は…3?和葉って4だったよね?」

和葉「…あー。すまん。通常レートっていうのは一般人向けの説明だった。内部レートだと思ってくれ」

一颯「…内部レート?レートの種類多過ぎません!?もう面倒臭いです!早く第七話始めちゃって!」

怜「一颯。後で、お勉強しようね」



「何とか、降りれたけど…どうした物か…」


 ボロボロに破壊されたビルを見て、一颯はそう呟く。隣の方では救助隊等、騒ぎを聞き付けた様々な職員が忙しなく動いている。


「…とりあえず、和葉を追うか」


 大量の死人に吐き気を催しながらもそう考え、和葉が飛んで行った方向に歩みを進めようとした時、一颯の背後で轟音が鳴り響いた。


 音を聞き、振り向いた一颯を出迎えたのはこのビルの様に球の形で弾け飛ぶビルの破片だった。しかし、弾け飛んだ大きさはさっきの半分程度である。


(…!?和葉が追ってた筈じゃ!?何で此処に!?此処も射程範囲内なのか!?)


 そう思考しながら、飛んで来た瓦礫を避ける一颯。さっきと違い、攻撃までの猶予があった為、軽々と避ける。


 しかし、周りに集まっていた観客はそうは行かず、瓦礫に潰されたりと大惨事である。


(…うっ……落ち着け…落ち着け…何かおかしい。さっきよりも威力が弱いし、俺を狙っていたとしたら狙いがアバウト過ぎる。…相手が狙って居るのは…)


 更に気分を悪くする一颯は、こだまする悲鳴と、逃げる人混みに揉みくちゃにされながらそう考え、1つの結論を弾き出す。


(一撃目のブラフで気を引いて、二撃目で決着を着ける、囮作戦…!多分、相手はこの人混みの中の何処かで俺の隙を窺っている…!)


 そう考察した瞬間、一颯は人混みから外れ、まだ無傷のビルの中に入って行く。


(多分、出せる攻撃の大きさと回数には限界が有る。一番最初の攻撃が最大火力で、さっきのが通常火力と予想。人混みに紛れてた間、俺に攻撃しなかった事から、連発は不可能と言った感じか?)


 そう考えながら、一颯はビルの階段を急いで上がって行く。そして、ビルの真ん中くらいの階層に着いて足を止めた。


(通常火力で狩る場合、相手は俺を殺す為に、直で当てに来る筈。だから、そこを狙う…!怜さんに貰ったこの権能で…!)


 階段を上がったすぐそこで、一颯は和葉と同じ様に何も無い場所から剣を出現させた。禍々しいその黒剣は少しだけ赤みを帯びている。


 コレは、今現在一颯が権能を持たない為に、怜が用意した権能。権能は発現者の人生の全てが詰まる。その為、例え使用者が死んだとしても、偉人の功績が伝承される様に、権能はこの世界に残る。


 そして、F2細胞を結晶化して出来た権能は、使用者は好きな様に出現、解除が出来る。解除だけはどんなに離れていようとも思い通り。そして、使用者以外には絶対に解除出来ない。


 しかし、使用者本人が死んでいた場合や、使用者本人が譲渡した場合のみ、使用者以外でも解除ができ、解除した人間はその権能を自分の物にできる。


 つまり、問題となる2つのルールに目を瞑れば、実質的に相手の権能を自分の権能にする事が出来るのだ。


———

——


 一颯の入ったビルの前、そこで、女は静かに思考していた。


(…考えたわね。私の権能は連発出来ない。だからこそ、不意打ち等で一撃で仕留める必要がある。通常火力でもそれなりの火力の所為で狭い場所の戦闘には向かない…弱いなりに頭は回してるらしい…)


「でも、それは私が通常火力で放った場合の話。もう、F2細胞は十分に戻った!コレで終わりよ!」


 決め台詞を叫び、女は不敵な笑みを浮かべながら、何もない場所から手に狙撃銃を取り出し、銃口をビルの真ん中に向けた。


 そして、狙いを定めて銃弾を放った。それが壁に着弾した瞬間、弾を中心に大きく炸裂し、ビルには大きな穴が空いた。そして、女を砂埃が包む。


(あのガキの所に戻るか)


 そう考え、再び踵を返そうとした瞬間、


「…ゴフッ…!?」


 女の胸を貫通する様に剣が突き刺さる。一颯の赤みを帯びた黒い剣。それが女の胸を通り、天に向かって剣先を向けて居る。


 そして、当然の様にその剣を握っている一颯も居た。


「な…どうやって…!」


 女は驚愕を滲ませながら質問する。その無意味な質問に、一颯は答える。


「…どうって、攻撃された瞬間に、砂埃に隠れて後ろから刺しただけ。貴方は俺が5階に居ると思っていた筈だ。だけど、実際に俺が居たのは1階の南側。残念だけど、攻撃の範囲外」


「でも!F2細胞は5階に集中していた!」


「嗚呼、5階には居なかっただけで、権能自体は5階に置いてた。俺はF2細胞数が結構少ないから。まんまと罠にハマってくれたね。もう良いだろ?それ以上抵抗しないでくれ」


 一颯の剣に刺されたまま、もがく女に一颯はそう言う。その脅しを受けても、女はもがくのをやめない。一颯はそんな女に焦りながらも言葉を掛ける。


「おい!マジで暴れるな!俺は殺す気ないから!ちょっとは落ち着けよ!」


「多分、どちらかの最後だから教えてあげる」


「…は?何を?」


 権能は、使用者が死んでも世界に残る。そして、F2細胞を扱う練度にもよるが、大抵の攻撃では絶対に壊れない。例え、壊れた所で新しく何回でも顕現出来る。


「…当然!面白い事よ!」


 だが、権能は完全に壊せない訳ではない。使用者本人のみ。権能を完全に壊す事が世界に許される。


 そして、権能を壊した者には、その権能がこの世に生まれると同時に発現者から奪ったF2細胞、そして、権能の力を扱う時に消費したF2細胞全てを破壊した使用者に譲渡する。


 奥の手、切り札にも近い、実質的な保有F2細胞数の底上げである。


「さぁ。2回戦よ」


 背中から胸に掛けて突き抜ける剣を力尽くで折った女が、笑みを浮かべながら一颯にそう言った。


———

——


「うんうん。良い感じだね」


「…全く良い感じには見えないんだが?お前、目が腐ってるんじゃないか?夏の昼間に外でほっといたチーズみたいに」


 離れたビルの屋上で一颯達の戦闘を眺める奏と和葉。和葉は時間稼ぎを止め、この場から離れようと、権能まで出し必死になっている。


「まあまあ、落ち着きなよ。僕は一颯の味方だし。和葉の味方でもある」


「もしかして、味方の意味知らないな?間抜けが。国語辞典でも読破してから来いよ。待っといてやるから」


「君も時間稼ぎするつもりだったんでしょ?今の状況は嬉しくないの?」


「お前、「だった」って今は思ってないって知ってんじゃねーか!」


「ふふっ。相変わらず面白いね」


 落下防止のフェンスに腰掛けて余裕そうに笑う奏。和葉とは結構な距離を取っている。


「はぁ…お前だけ楽しむなんて狡いぞ。俺も楽しみたい」


「なら楽しみなよ。戦うよりも観戦してる方が楽しいでしょ」


「…いや…まぁ…否定はしねぇけど…」


 和葉は目を逸らしながらそう言った。


———

——


「…死んだか…?」


 禍々しい黒いオーラを放つ女を見て、一颯はボヤいた。その右手にはさっきまで女に刺さっていた為に血で濡れている権能が、刃を折られた状態で握られている。


「…元の50倍には成ったかしら?発現した時みたいな万能感!最高だわ!」


「何処がだよ…最悪だよ…」


「貴方はね!」


 そう言って、女は一颯の顔面に蹴りを入れる。


「あがぁっ!」


 一颯は両手を使い防いだが、あまりの重さに吹き飛び、ビルの壁をも貫通して吹き飛ぶ。


 まるで、ボールの芯をバットで捉えて打ち上げた様な、曽てない爽快感が女に込み上げる。


「アッハ!アッハハハハ!!!さいっこう!!!」


 天を仰ぎながら高笑いをする女。その身体には権能には成れない、F2細胞を結晶化した黒い何かが鋭い棘の生え、茨の様な形をして、服を突き破って唸っている。


「……さいっあくだ…」


 壁にめり込み、沢山のビルの破片が突き刺さる身体から、真っ赤な血を垂れ流す一颯はそう呟く。黒い髪も、黒い制服も、何もかもが赤く染まる。そんな血でぐちゃぐちゃの顔からは感情が何一つ読み取れない。


「…痛え」


「アガッハハ?ハ!ハハハ!!?」


「……痛えよ…」


 助けを求める様に、何かに縋る様に、痛みに支配された身体から出るその悲痛な声を聞く人は、誰一人として居ない。


「ガァ!ガハガ!カワイソ!!ガハハ!!ウラサイ!!イタミ!ナグズヨォォヨォォォ!!!」


 そう言って、ゆっくりと立ちあがろうとする一颯に、黒い茨だらけの女は茨を勢いよく一颯に向けて伸ばす。


 それを、赤い鮮やかな右目で見た一颯は、1人、静かに死を確信する。そして、死に際に現れる美しい景色に走馬灯を感じた。


———

——


 ——思想を植え付ける花園。そこで、とある人物に会ったのが、この人生の始まりでした。


 あの人はこの国の思想に染まらず、自己を確立していました。そんな人に感化された私は、その人と同じ道に進み始めました。


 しかし、今になって考えれば、染まった思想が違うだけで、私もあの人の思想に染められた事に気付きました。


 きっと、周りの人間は初めからその事に気付いており、どうせ染まるのなら、自分の立場が有利になる思想に染まろうと考えたのでしょう。私が馬鹿なだけでした。


 でも、それに気付いた時にはもう遅く、死に際で何とか気付けただけに過ぎませんでした。痛みと感傷に浸るだけで、もうどうにもならないので、私は数え切れない後悔を残し、この世界を去るでしょう——


「…コレが俺の人生。ダメな俺の人生。どうしようもない俺の人生。俺の。俺だけの物語」










「……嫌だ。まだ終わりたくない」


(…怜さんは、僕の事を強くなってる筈って言ってくれたけど、僕は決して強くない。寧ろ物凄く弱い。それは肉体的にも、精神的にも)


「まだ…何も出来てない」


(エリア5での生活で、それは更に顕著になったと思う。僕はエリア5で、感情を押し殺してた)


「俺は後悔しか残せない。駄目だ。駄目なんだ」


(誰の所為だろう?いや、僕の所為ではあるんだけど…それはとても——)


「受け入れられない」


(僕も平定官なんだ。平定官になってしまったんだ。ごめん。悪いけど、恨ませて貰います。恨みは人間を動かせるから)


「死ねない。死ねない。死ねない。死ねない」


(嗚呼…思想に染まってる僕は醜いね…人に言われただけの事をして生きていく。自分で考えないなんて、生きている意味がないじゃないか)


「殺す。殺す。殺す。殺す」


(今までありがとう。気付くのが遅れてごめん。コレから空風一颯は、俺じゃなくて、僕だ。僕は自分の為に生きる。誰にも邪魔はさせない)


「『楓』」


(僕の権能。レートシステムの中枢。—の遺産)


「起きて。出番だよ」


 彼の物語(人生)の2章の緞帳が上がる。


———

——


 ビルの屋上。奏と和葉は先程までと違い火花を散らしている。


「おい。退けよ。これ以上は死ぬ」


 謎の茨様な物が街をぐちゃぐちゃに包み込んでいるのを指差しながら、和葉はそう言う。


「大丈夫。死なない」


「何でそう言える?」


「それは言えない…と思ったけど…もう良いか。行きなよ。行っていいよ」


「はぁ?…分かんねぇ奴だな」


 そう言い残し、笑みを浮かべる奏を横目に、和葉は一颯の居る場所に向けて跳ぶ。奏はそれを何もせずに見つめていた。


「大丈夫。もう、目的は達成した。後は…鈴音怜(お父さん)に任せよう」


 そんな言葉が誰の耳に入ることも無くこだましていた。


 第八話へ続く


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