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ロウエストの内幕  作者: 偽師
第一幕 『僕』
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第六話 初任務


和葉「前回のあらすじ!なんか色々!以上!」

一颯「やっぱりやる気ないんですか?」

和葉「ない!」

怜「正直だね。真面目くんもビックリ」

和葉「当たり前だろ!俺は真面目な天才だからな!」

一颯・怜「それはない」

和葉「精神的ダメージを喰らいました。休みをください」

怜「いつも休んでるじゃん」

和葉「怜さんに比べたから皆休んでる事になりますけど!?」

一颯「もういいや。第六話。どうぞ」



 11月18日。


(…肉。付いたな)


 早朝。起きたばかりの一颯が、顔を洗う為に洗面台の鏡の前に立ち、そう考えていた。実際、ガリガリで骨だけだった身体は少し、痩せ型の人、程度には肉が付いている。しかし、その殆どは贅肉ではなく筋肉である。


———

——


「そろそろ良いかもね」


 カウンターに立ち、洗ったばかりのグラスを一個一個拭きながら怜がそう呟いた。


「…?何がです?」


「えー?一颯の初任務。付き添いアリなら大丈夫かなぁって。力も付いてきたし?」


(それに…本格的に鍛えなきゃだしね…今のままじゃ、いつまで掛かるか分かったもんじゃない)


 グラスを拭く手を止めず、怜は一颯と話しながら、さりげなくそう思考した。


「ねぇ。今日、軽い任務の人って誰か居る?一颯が同伴しても大丈夫なくらい」


「私無い」


「僕は無理です。ちょっと荷が重いですね」


「俺は沙紀と合同でやっとだから無理だな!」


「アタシは今日ねぇから無理だな」


「私も」


「な〜い」


「俺のは結構楽だと思います」


「俺も〜」


 怜の質問に全員が答える。「大丈夫」と言ったのは、修弥と和葉の2人だけだ。怜はその2人に質問を続ける。


「任務の推定レートはどれくらい?」


「俺は7ですね」


「俺は6以上だわ。珍しく負けた」


「別に競ってねーよ」


 修弥と和葉はふざけながらも追加の質問に答えた。それを受け、怜が頭を働かす。


「…うーん。微妙だなぁ…蒼達のは?」


「僕も7です」


「俺達は8」


 皆の回答を受け、再び怜が思考を始める。


(修弥が安定だけど…安定じゃ駄目だし、蒼達だと死にかねない。か……此処は無難に和葉に賭けるしかないかな…)


「OKありがとう。一颯には和葉に着いていって貰おうかな。とりあえず、制服着て来なよ」


「分かりました」


 返事を返し、一颯はバックヤードに入って行った。その場に残る怜に詩音が質問する。


「ちなみに、怜さんは?」


「俺?俺は10だよ」


「あっはっは!!!文字通りレートが違ぇ〜!10って言ったら組織殲滅くらいじゃないっすか〜!」


 そう言いながら、怜の回答に高笑いする詩音。それを受け、怜は一言返した。


「そうは言っても、ただの解体作業でしょ」


———

——


 テナント募集と書かれている、ビルのとある階層。そこの窓から向かい側のビルを双眼鏡で和葉と一颯は覗いている。


「あの建物に住んでいるらしい。出てくるの待つぞ」


「了解です」


 返事を返した一颯は、出発前の怜との会話を思い出していた。


———

——


「今回の和葉の任務は特殊殺人犯の拘束。又は、無力化。最悪殺しても良いよ」


「殺しても。って…」


「…?殺すのは嫌?なら、頑張って拘束するしかないね。特殊殺人犯という事は権能使ってくるから気を付けてね。結構キツイと思うよ」


———

——


 怜との会話を振り返った一颯は、意を決して、和葉に話し掛ける。


「……あの…今回の任務。どうやって遂行するんですか?」


「…?どうやってって…殺すだけだけど?殺してOKなら殺すだろ?普通」


 さも、当たり前かの様にそういう和葉に一颯は衝撃を受ける、が。今はそれどころではない。


「…拘束はしないんですか?」


「あのなぁ…拘束って簡単に言うけど、一体どうやるんだよ?」


「…どうって…縄とかで縛り付けたり…」


「相手は特殊殺人犯だぞ?細胞で強化してくるから縄なんかじゃ先ず無理。無理じゃ無かったとしても、そんな事したら難易度が跳ね上が……って、やべ!気付かれた!?」


 そう言った瞬間、和葉が一颯の服の衿台を掴んで、窓から離れる。その瞬間、和葉達の居た場所が、轟音と共に弾け飛ぶ。


「え?」


 1人、引っ張られ、置いてけぼりの一颯は、ただ轟音を鳴らしながら弾け飛ぶ風景を眺める事しか出来なかった。


「おいおい。何か推定レート6以上だよ…馬鹿。どう見ても、7は軽く越えてんだろ…!」


 安全な場所で球の形に開いた、このビル全ての階層を繋げる様な大きな穴を見て、和葉はそう口角をあげながら愚痴を吐いた。


 その穴には、所々に人と思わしき赤い肉塊が散らばっている。ぐちゃぐちゃだ。


「一颯!お前に伝えておく事が2つ!1つは、お前を守る余裕はない事!もう1つは、最悪の場合、俺とお前はあそこの肉片と同じ末路という事だな!まぁ、そうならん様に神に祈っとけ!何人も居たら1人くらいは聞いてくれるだろ!」


 謎に高笑いしながら、最後の一言ではどうしても拭えない様な不安感の残る事を言い放つ。


 そして、不安感が抜けない一颯を無視して、和葉はその場にゆっくりと立ち上がる。そして、何もない場所から手中に剣を取り出し、笑いながらこう呟いた。


「説教確定だな!」


———

——


 一颯達の居るビルから数100メートル離れた上空。雲に手が届きそうな…そんな場所に白髪の誰かは宙に立ち、一颯達の騒ぎを静かに眺めている。


「…さて、どうなるかな?」


———

——


(っと、威勢の良い事を言ったが…流石にこっちが不利過ぎるんだよな。未だ相手の位置が掴めないし、流石にさっきの奴、連発はないと信じるが…)


 そう考えながら、和葉はビルに開いた大穴から顔を出す。そして、辺りを見渡すが、いかんせん、民間人が多く、未だ敵の姿形を見極めれずにいた。


 そんな和葉に1人の人物が引っ掛かる。視界に捉えたとかではなく、感覚的に引っ掛かった。


「……1人。物凄い速度で騒ぎから離れて行く奴が居るな?車…では無さそうだ…」


 だが、和葉にはそれで十分。それを理解した瞬間、和葉はその人物の場所へ向けて、勢いよく跳んだ。蹴った地面が少し崩れるくらいには強い力が込められている。


「……俺、どうやって降りるんだ?」


 1人、静かなビルの中で佇む一颯が呟いた。


———

——


「…クソッ!クソッ!何であれを避けるの!?コレが平定官の力なの!?」


 物凄い速度で地面を走る女。吐き出る愚痴は誰に聞かれる事もなく、無意味にこだまする。


「でも…!アジトまで戻れば…まだ可能性が——」


「取引しませんか?」


「!?」


 突然、聞こえたその声に、女の逃げ足が止まる。そして、女はその声の主に視線を向けた。


 そこに居たのは、白髪に金の目を持つ子供。成長期の途中くらいに見えるその子供は辺りの人の全ての視線を奪う。


 その姿はまるで、鈴音怜の様だった。


 しかし、普段の怜とは打って変わり、穏やかさがあり、謙虚に見える。それ故、少し弱々しく感じてしまう。見た目の年相応と言った感じだ。


「……誰かしら?」


「そんな事が気になるのかい?……そうだなぁ…信用して欲しいし、本名で良いや。僕は白雪奏。少しの間宜しく」


 彼はそう名乗った。女は疑いの目を向けながら更に質問をする。


「…取引って?」


「対価は払うから、少し手伝って欲しい」


「手伝う?」


「そう。さっきビルで奇襲した平定官2人。彼等と戦って欲しい」


 そんな要求を持ち掛ける奏。女は奏に対して持つ感情を、疑いから軽い敵意に変えた。


「一応、対価は聞いておいてあげるけど、冗談じゃないわ。あの明るい茶髪が居る時点で不可能よ。不意打ちすらさせてくれないもの」


「対価?対価は望む物なら何でも。それにあの茶髪が無理なら、僕が茶髪を足止めしても良い」


(…悪い取引…って訳じゃないわね…このガキに何が出来るかは分からない…けど。手を借りなきゃ、あの茶髪達には勝てない…!どちらにせよ平定官にはバレてる。あのレベルの奴は殺しとくのが安定…)


 奏のその一言で、女の抱く敵意は過去の物となってしまった。そう、全て奏の筋書き通りに。


「…受けるわ」


「なら宜しくね」


 奏はそう言い残し、一瞬で姿を消した。女は懐疑的になりながらも、重い足取りで通った道を辿り始めた。


———

——


「…後戻り?クールタイム終わったか?」


 ビル群を跳びながら女を追う和葉が突然、此方側に戻ってくると言う行動を受け、普通のビルの上で足を止めて言葉を漏らす。


(…いや、俺から逃げてたって事はあれが最大火力なのは確定…例えクールタイムが終わったとしても、向かってくる事なんて出来な——)


 そう考える和葉の前に、突然奏が姿を現す。そして、怜と全く同じ様な雰囲気を纏い和葉に話し掛けた。


「和葉、元気?」


「あれ?何で怜さんが此処………お前誰だ?」


 奏は”普通”なら怜と心から信じきってしまう程に、そっくりになっている。見分けは全くつかない。


 しかし、3Rの人は例外なく”普通“では無い。実の所、あそこは防衛省が手に負えない。そんな奴らの集まりである。


 その証拠に、3Rとは担当地区の略称だけじゃなく、リデュース、リユース、リサイクルの略称。つまり、3Rに居る人間はこの組織にとっての産業廃棄物という事になる。


 だからこそ、3Rに常人は居ない。


「…気付いちゃったか。なら仕方ない」


 バレた為、奏は変えていた雰囲気を全て元に戻す。その光景に和葉は気持ちを悪くする。


「うわきっしょ。目の前で雰囲気変えられると結構気色悪いんだよな。翔の時も中々慣れなかったしなぁ…」


「…成程。良い事知れたよ」


「そんで?そんな事はどうでも良いんだよ。それに、お前と違って平定官様は忙しいの。用がないならガキはどっか行ってろ」


 そう奏を馬鹿にしながら雑に扱う和葉。それを奏はただ真顔で見ていた。それに和葉は違和感を感じる。


(…何か変だ。おかしい。コイツ(偽物)は何がしたいんだ?敵意はない訳ではないんだけど…薄過ぎないか?攻撃する気がないだけなのか?)


「少し、話を聞いて欲しくてね。どう?聞いていくかい?」


「…聞かないと言ったらどうする?」


「さぁ?死ぬんじゃない?」


「だよなぁ…クソッ。怠いタイプの任務じゃんコレ」


 表面上は余裕を醸し出す和葉。しかし、その内心はとても、余裕のある物ではない。大事である。


(多分、本気でやり合ったら俺が死ぬのは確定だな。とりあえず、時間を稼いでコイツの情報を探る!)


 この瞬間、2人の目的が一致した。


 第七話へ続く


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