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ロウエストの内幕  作者: 偽師
第一幕 『僕』
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第五話 訓練


和葉「前回のあらすじ!回想!検査!翔が過労!以上!」

怜「俺も何だけど…?」

一颯「それに、短縮され過ぎて内容薄かったみたいじゃないですか…」

詩音「間違っては無いだろ?」

一颯「いや、まぁ…そうですけど……あっ。そう言えば、お風呂、男子が最初だったんですよね。千斗くんは熱いって直ぐに出たから居なかったけど」

怜「そうそう。和葉の心が折れたから代わりに千斗が沙紀とやってたね」

一颯「ほのぼのとしたジャンケンでしたよね。あれ?怜さんは?いつ入るんです?」

怜「俺?俺は掃除担当だからいつも最後だよ。えっ?何?一緒に入る?入りたい?」

一颯「変な事させられそうなんで大丈夫です。それでは、第五話!どうぞ!」

怜「扱い雑だよね。俺って」



「にしても、アイツら全く帰って来ねーな。もしかして死んだ?」


 地下の訓練所で残り2人の帰りを待つ和葉が、皆で柔軟している中そう言った。


「馬鹿。権能の調整で死ぬ奴いないだろ」


「おい!馬鹿って言うなよ!」


「やーい。馬鹿馬鹿!」


「詩音テメェ…!スパーの時に殺す!」


「はい。それ脅迫罪な。他にも訓練と言う私の業務を、暴力的な表現で妨害したから、威力業務妨害罪も追加で。しょっぴかれろば〜か!」


「…成程。懲役5年以下コンボか。中々やるな」


「あはは…」


 詩音と和葉のしょうもない会話。それの解説をする一華。翔は苦笑いでその光景を眺めていた。それについて、沙紀と千斗が物申す。


「詩音ってどうでも良い事だけ覚えてるよね」


「分かる。どうせその時が来ても他の専門の人に任せる様な、自分では使わない知識ばっか」


「はぁ?無駄でも知識があるのは良い事でしょーが」


 沙紀と千斗の会話に混ざる詩音。和葉は端の方で「…俺…捕まるのか…?」と、心を落としている。そんな和葉を怜は慰める。


「まあまあ、執行猶予が付いたら勝ちだから」


「…何で?執行猶予ついても負けだろ?」


「えっ。何。和葉再犯でもする気なの?」


「…?執行猶予って執行されるまでの猶予だよな?」


「そうだよ。その間、悪い事せず普通に生きてたら刑が消えるって言う奴」


「え?執行ってそう言う意味!?」


「他にどう言う意味があるんだよ馬鹿…」


 怜と和葉の会話で出た和葉のおバカ発言に、呆れながらそう言う一華。それを受け、和葉は弁明を始める。


「いや、執行ってあの…刑を発動する的な意味かと思って…それの猶予だから…執行猶予5年だと…「刑を行うまで5年間待ってやるよ。若さを満喫しやがれ!」的な…」


「うーん馬鹿!普通の馬鹿とは格が違う…!コレは真似出来んわ」


「酷い!だってよく考えろ!犯罪犯しといてその間を普通に生活してたら「刑罰無しで〜す」って、それこそ馬鹿だろ!有り得ない!」


 納得がいかない和葉は、更に煽って来た詩音に突っかかる。そんなしょうもない言い合いは怜によって終わる。


「はいはい。分かったからもうちょっと静かに柔軟しよう?一颯が困ってるから」


「…うっす」


「うい〜っす」


 2人は渋々同意する。他人を引き合いに出されたらどうしようもないのだ。


(…俺、上手く利用された?……それにしても、こんな雑にやってても給料が出るのか…特別職の国家公務員って凄いんだな…)


 そんなどうでも良い騒ぎを眺めながら、一颯はそんな益体のない事を考えていた。すると、突然部屋の扉が開き、全員の視線がそこに向く。そこには男女2人が居た。それを怜が迎える。


「おかえり修弥。それに蒼も」


「はい。ただいまです」


「ただいま」


 男女2人は挨拶を返す。その顔にはかなり疲れが見える。きっと、大変な仕事だったのだろう。それはさておき、怜は一颯の為に冗談混じりの紹介を始める。


「じゃ、軽い紹介を。そこの右の金髪の悪人ズラが修弥。そしてもう1人の灰色の髪をした子が蒼ね。そして、この眼帯付けた新人くんが一颯」


「悪人ズラって…やめて下さいよ。悪印象与えちゃうでしょう…」


「修弥。大丈夫!良い悪人ズラしてるよお前は」


「詩音?それ褒めれてないからな?」


 詩音が相変わらずの茶番を始める。詩音が面倒な事をするのは、一颯以外は見慣れた光景である。


「宜しくね」


「宜しくお願いします」


 その間、端の方で蒼と一颯は挨拶を交わしていた。そう対して歳の遠くない者同士、通じ合うものがあるのだろう。


「はい。じゃあ、全員揃ったな?今回の任務について話す。心して聞け」


 突然口調を変え、貫禄を出そうとする怜に、一颯、和葉、詩音が内緒話を始める。


「…なんですかね?この口調」


「…さあ?何かそう言う気分なんだろ」


「…怜さんは結構お調子者だぞ」


「ねぇ。一颯も和葉も詩音も、全員揃って丸聞こえだよ?内緒話はもっと静かにしようか」


 話を聞く気がない3人に怜はそう釘を刺した。一颯以外には刺さっていない様だが、まぁ、言わないよりはマシだろう。


「はい。じゃあ気を取り直して。今回、俺達3Rに課せられたミッションは3つ。一颯の護衛。一颯の権能の護衛。そして、一颯の育成。護衛期間は、育成が終わりエリア0の、レートシステムの中枢がある所までの護送終了。そんなところ」


 軽い説明を挟んだ所で、和葉が昨日の様に元気に挙手した。


「はい!」


「はい。和葉君どうぞ!」


「何で一颯を護衛するんですか!」


「昨日も聞いたけど良い質問だね!」


 ふざけながらも、怜は一颯の詳細を話し始める。


「先ず、一颯の権能はレートシステムの中枢を担う権能の後継なんだけど…レートシステムの権能は人の体。だから、後継も成り行きで人の体になる。此処まで和葉以外OK?」


 その言葉に、この場の全員が少し驚きながらも頷く。そう、和葉でさえも。


「で、あくまでもその人の体って言うのは持ち主依存。持ち主の体を元に、細胞レベルで全く同じに造られてる。持ち主と違うところは、性別と材質だけ。だから、引き継ぎ不完全状態で持ち主が死ぬと、人の体が造れなくなる。つまり、人の体を持つ権能としての出現が出来なくて詰む。という事だね。和葉以外理解出来た?」


「育成の理由は何で?面倒だししなくて良いんじゃない?」


 説明を聞き、そう詩音がどうでも良さそうに聞く。それに怜が答えようと口を開こうとした時、一颯が推察を述べた。


「…引き継ぎと言うのが良く分からないけど、引き継ぐのにF2細胞をそれなりに扱えるとか、身体がそれなりに完成していないといけないとかであれば、権能は持ち主自体の体に完全依存なので今の俺だと引き継げない。という事…ですかね…?」

「正に模範解答!満点あげちゃう!ヒューヒュー!」


 楽しそうにはしゃぐ怜に、全員の冷たい視線が突き刺さるが、怜は全く気にしていない。そんな流れに飽きた詩音は、怜に詳細を聞く。


「それで?必要なのはどんな感じの奴?」


「…コレは…曖昧な回答になるけど、強靭な精神」


「へー。ちなみに強靭ってどれくらい?」


「それは伝えられてないね。これ以上は知られたくないんでしょ。お偉いさん方は」


 怜は上層部の文句を言いながら話を終わらせた。それを聞いていた翔が、別の質問を投げ掛ける。


「精神の育成ってどんな感じになるんです?」


「そう。そこが問題なんだよ。何を何処までどう言う風に育てろって言われてないんだよね。ただ育てろ。とだけ。育ったかどうかは向こうは分かるらしいよ」


「それは…困りましたね。強い精神って曖昧だし…」


「正直、一颯の精神はエリア5でかなり強くなってる筈なんだよ。それでもダメって事はきっと俺達が考えてる物とは別の意味なのかも知れない。それが分からないと無理だね」


 怜はそう簡単にまとめた。要は手詰まり状態だと言う事だ。


「まっ。今ここで幾ら考えても仕方ないし、一颯は明日には書類提出して、正式に平定官として扱うからそのつもりで。多分、班の移動はない。じゃ、訓練に戻るよ〜」


 その言葉で皆は柔軟に戻った。


———

——


 柔軟が終わり、訓練は軽いスパーリングに変わった。今は詩音と和葉が戦っている様だ。


「おらよ!」


 そう言って、詩音は和葉の肝臓のある脇腹に向けて左フックを放つ。しかし、和葉はそれを右手で払い落とし、詩音の顔面に左のハイキックを寸止めで入れた。


「ふっ!雑魚が!」


「払い落として蹴りを入れるだけとか脳筋かよ」


「卑怯だぞ!その筋細胞!身体中に重機積んで!頭悪いだろ!」


「そうだ!そうだ!違法建築だぞ!裁かれろ!懲役3年以下だ!3年以下!」


 煽る和葉を、沙紀と千斗は責め立てる。所々誉めている様にも感じる。しかし、和葉は気付けないので、嘆き始める。


「何で!?何で俺こんな責められてんの!?スパーは俺が勝ったんだよね!?」


「そりゃ、F2細胞での強化無しなら、一番筋トレしてるお前が勝てるだろうが。怜さんくらいだぞ。強化なしで勝てる人」


「…何で俺はこんなに責められているんだ…?」


 和葉はそう言いながら崩れ落ちる。一颯は(今も、さりげなく褒められてたよな…?)と、その光景を見ながら考えていた。


「怜さん」


「…嗚呼。翔か」


 そんなやりとりを部屋の端で眺めている怜に、翔は静かに話し掛ける。


「…何処まで育てれば良いか分からないとか。別の精神とかの可能性があるって言うの。嘘ですよね」


「何の事?」


「惚けても無駄ですよ。私が何年ここに居ると思ってるんです?貴方、レートシステムの代替わり。コレが初めてじゃないでしょう?」


「だから何の事だよ。とりあえず、水分補給でもして落ち着け?」


「…前に言ってましたよね?まだ髪が長かった頃、代替わりの護衛を経験した事があると。そして、そろそろその時期だと…」


 自信を持って問い詰める翔に、怜は観念し、溜め息を吐きながら話し始めた。


「…バレてたか。…はぁ…何でそんな事覚えているんだよ……そう。翔の言う通り、育成がどう言う意味かは知ってる。だけど…あそこで言わなかったのにはちゃんとした理由がある」


「…理由?」


 何処となく聞いてみる、が。怜は言うつもりはない様で、断りを入れた。


「……それは言えないね。どうしても聞きたいなら、力尽くで言わせてみてよ」


「分かりました。大人しく諦めますよ」


「…一応、釘刺しておくけど、この事、一颯には言うなよ?」


「それくらいは分かってます。もう子供扱いはやめてくださいよ」


 そう言い残し、翔は和葉達に混ざっていった。怜は翔が居なくなり、再び溜め息を吐いた。


「ホント。どうしたもんかなぁ…」


———

——


「と言う訳で、今日訓練は終わり。10時にはお店開けるからそのつもりで」


 そう締め括った怜の言葉に、全員が各々返事をする。そして、ゾロゾロと部屋から出て行こうとした時、怜が一颯を呼び止めた。


「あー。悪いけど、一颯は残っててね。教えておきたい事が幾つかあるから」


「…?教えておきたい事…ですか?」


 2人の会話を聞いて、詩音と和葉が怜を茶化す。


「コレ、アレだ。「お前だけ特別授業な」とか言う奴だ」


「うっわ。怠い教師のアレじゃん」


「一颯くんかわいそ〜」


 それを聞いて、怜は詩音達を誘ってみる。


「何?お前らもご一緒したい?」


「いや、興味ないっすね〜」


「俺も〜」


「じゃあ、早く上行け」


「「うっす」」


 怠けた返事を返し、詩音と和葉は大人しく部屋を出た。そんな2人に怜は溜め息を吐きながら、開けっぱなしの扉を閉めた。


「で、教えておきたい事だけど。まぁ、物凄く簡単な事だよ。簡単な事」


 そう言って、怜さんは俺に話し始めた。1つ目は平定官について。2つ目はF2細胞について。3つ目は俺のコレからについて。大きく分けたらこんなところだった。


 平定官についての事は簡単な事ばかりで、こんな俺でも知っている事が多かった様に思う。


 内容としては、自衛官と同じ、国の平和と独立を守る使命の下、領土・領海・領空・レートシステムを守る事。


 自衛官と同じに見えるが、微妙に違う箇所があり、自衛官は国を守護する盾だが、平定官は国に敵対する者をしずめる矛であると言う事だ。


 そして、F2細胞について。コレは人が生まれた時から死ぬ時まで常に存在する人体の保険の様なものらしい。


 人体が持つ全ての細胞に変化する事が出来る特性を持ち、殆どの人は無意識のうちに、テロメアと呼ばれる染色体の末端部にある構造を伸ばし、人の寿命を引き延ばしているらしい。


 もし、そのF2細胞が存在しなければ、人間は今の技術だと100年程度しか生きれないとの事だ。この国の平均寿命の半分程度はF2細胞が頑張っているという事になる。


 平定官はコレを操り、戦闘に活かしているとのことだ。筋トレよりも柔軟を多めにしているのは、F2細胞を一時的に筋肉に変換出来るかららしい。


 そして、権能とはそんな自由な細胞、F2細胞の塊。つまり、その人間の全てが詰まっている。だから物理法則に介入する様な絶対的な力を得れるらしい。


 F2細胞にも血液型の様な概念があり、3つ程型が有るらしい。その為、F2細胞は血液の一種という説があるとも言っていた。


 最後、俺のコレからについて。それは単純で、平定官としての仕事をする事で精神を強くし、権能との同調率を高めるとの事。


 正直、途中から何を言ってるのか分からなかった。俺は変な世界に足を踏み入れたのかも知れない。


 だとしても、エリア5に住んでいた時よりはマシだし、予想していた生活よりもずっと平穏で安全だった。


 とりあえず、しばらくの間は柔軟と筋トレの身体作りに力を注ぐらしい。俺は着いていけるだろうか?


 と、そんなこんなで月日は流れ、一ヶ月程が経過した。俺は未だ平定官らしい仕事を1回もしていない。


 第六話に続く


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