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ロウエストの内幕  作者: 偽師
第一幕 『僕』
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第四話 化け物


一颯「前回のあらすじ!『3R』と呼ばれる班に配属された空風一颯!」

怜「一颯を迎えたのは、店内でナイフを投げ遊ぶ馬鹿。和葉!」

一颯「権能も何も知らない一颯は平定官として生きていけるのだろうか?」

和葉「おい!馬鹿って言うなよ!」

詩音「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い!」

沙紀・千斗「バ〜カ!」

和葉「煩え!馬鹿馬鹿言うな!馬鹿って言う馬鹿が1番の馬鹿なんだぞ!この馬鹿!」

一華「お前が1番馬鹿って言ってるぞ。馬鹿」

翔「やめよう?和葉。これ以上は聞いてるこっちが恥ずかしい」

一颯「…まぁ、それはどうでも良いんですけど…人が多い!」

怜「凄く分かる。後、尺的に厳しいんで第四話。どうぞ」

和葉「アレ、陽奈は?」

怜「サボった」



「ふぅ〜生き返るぅ…」


「何かおっさんくさいぞ翔」


「何を。私はまだまだ若いよ」


 湯煙が立ち込める浴場で、一息吐く翔に、和葉がツッコミを入れる。一颯はその様子を見ながら、和葉の肩をぼーっと眺めていた。


「どうした一颯?なんか変な所ある?」


「えっ。いや、肩治ってるなぁ…って」


「…?あの程度の怪我なら普通だろ」


「和葉は怜さんに感謝してよ?治りやすい様に大事なところは避けてくれてたんだから」


「わーてるよ」


 その会話を聞いて、一颯は(レート5じゃない人は回復力も高いのか。成程)と1人納得した。間違っている事は言を俟たない。


「身体と言えば、一颯くんの身体って案外筋肉付いてるよね」


「そう、ですかね?」


 そんな事を言いながら一颯は自分の身体を見るが、骨ばかりでとても筋肉がついている様には見えない。それどころか、肋骨が浮き出たりとかなり貧相である。実際、怜に渡された、一颯とほぼ同じ身長の和葉の服も、着たらゆったりしていたりと、貧相なのだ。


「贅肉がないだけだろ。見ろよこの脚。詩音より細いじゃん」


「まぁ、そうかも知れないけど…腹筋が見えるの凄いなぁって。それよりも和葉。その発言は詩音の前ではしない様にね」


「その…翔さんとか和葉さんの筋肉に比べたら…貧相としか…」


 2人の身体を見つめそう言った。翔は程よい筋肉の付いた細マッチョといった感じ。和葉は格闘家の様にしっかりとした筋肉が付いている。


「俺は戦う為に鍛えてるからな!腕相撲強いぞ!多分、班の中でトップ3には確定で入れる!後、さん付けはやめろ。ゾワゾワする」


「私も一度は戦闘部隊を目指してたんで…その名残りで筋肉が落ちない程度に鍛えてるからかな」


「…俺も平定官になるのなら、最低限鍛えるべきですかね…」


「知らねー。好きにすれば良いんじゃね?鍛えてる奴はまず居ねーぞ」


「まぁ、鍛えておいても損は無いけど…それよりも柔軟の方がオススメかな。筋力があった所で動けなければダメだし、筋力は幾らでも補えるから」


「だな」


 多少引っ掛かる翔の理論に、和葉は同意の声を漏らす。きっと、平定官には平定官なりの常識があるのだ。変に首を突っ込まなくてもいつかは分かるだろう、と。一颯は詳細を聞く口を閉じる。


「あっ。そう言えば、一颯の権能ってどんな感じなの?俺はこんなか——」


「和葉。風呂場では取りださないでよ」


「…残念。まぁいいか」


 相変わらずの会話を見ながら、一颯は権能という物がどんな物なのかを考えていた。


「多分、権能は…無いですね。イマイチどんなのかも分かってないです」


「…分からないかぁ…確か、12歳で金蓮花園出たんだっけ?…まぁ、簡単に説明すると、権能はね、人間個人に与えられた絶対的な力だよ。誰が与えてるかは諸説有るから分からない。大抵は何かの形をしてる感じかな」


「ちなみに俺は剣!翔はペンみたいな形してるよな!覚えてないけど」


「まぁ、私のは戦闘系じゃ無いから平定官の権能としては微妙な物だけどね」


「へぇ〜」


 一颯は感嘆の声を漏らし、軽く形を想像してみるが、よく分からないまま終わる。見た事が無いのだから想像のしようもないのだ。


「ちなみになんですけど。どんな感じで出すんですか?」


「…うーん?どんな感じ…難しいなぁ」


「俺は何か出ろ!って感じで出してる。出ろ!って言いながらすると初めのうちはやり易いな」


「和葉は天才肌だからとして、普通の人は原理を知ってると出し易いね」


「どんな原理なんですか?」


「ちょっと待ってね」


 翔は一颯が分かり易い様に言葉を選び始める。そして、数秒と経過した頃、翔は言葉を選び終わった様でゆっくりと説明をし始めた。


「……先ず、人の血液にはF2細胞って言う、生命力の籠った不思議な細胞が点在しているんだけど、権能って言うのは、そのF2細胞って言うのを集めて結晶化させた物だね」


「…つまり、その細胞をどうにかして感知して、体外で結晶にすれば良いんですね?」


「そうだね。理解が早くて助かるよ」


「何回も聞いた説明だけど全く分かんね!」


「あはは。相変わらずだね」


 和葉の自信に満ちた発言に、翔は苦笑いで返す。その様子を見ながら一颯は物思いに耽ていた。


「一応、補足すると、和葉の怪我が早く治ったのはそのF2細胞が怪我した部位に成り変わったからだよ。F2細胞は人の体のどんな細胞にもなれるから、それで傷を埋めたって訳だ」


「成程…少しだけ理解出来ました」


「そう?なら良かった」


 翔が一颯の言葉にそう返して、少し考え事を始める。


(体の中にある変な細胞……分からないな)


———

——


「あっ。出たんだ」


「やっとか。長かったな馬鹿」


 風呂上がりの一颯達を共有スペースで迎える怜と詩音。風呂上がりのデザートでも食べているのだろう。詩音の手にはフルーツたっぷりのパフェが握られている。


「何か悪いのかよ?」


「いや全く?ただ長えーなーって」


「知るか。風呂ぐらいゆっくり入らせろ」


「どうぞって。ただ長いなぁって思っただけだから」


「こいつ、うぜー」


 そう意味不明な言い合いをしながら、和葉は空いている怜の前のソファにドスンと勢い良く座る。


「怜さん。俺も何か食う」


「詩音と同じ物だけど、どうぞ」


「あざーす!」


 和葉は怜からパフェを受け取る。今し方冷蔵庫から取り出されたそれは非常に冷たそうだ。


「翔と一颯は?食べる?」


「大丈夫です。要りません」


「私も」


「あっそう。まぁ、とりあえず座りなよ」


 怜は2人をソファへ案内する。すると、タイミングを見計らい、一颯達の座ったソファと背中合わせのソファに座る一華が怜に質問する。


「そう言えば、一颯って仮とは言え、何でこの班に?レート5である事を除けば、普通ですよね?」


「レート5の時点で普通じゃないって、話は置いといて…真面目に答えるとすると、一颯は栗饅頭が定めた無期限の護衛対象者だからだよ」


 一颯には伝えられた事は彼女等には伝えられて居なかった様で、翔と一華の2人にちょっとした激震が走る。千斗と沙紀。陽奈は自室に戻っている為、此処には居ない。


「「!?」」


「護衛対象?…え?守んの?一颯を?」


「そうそう。命懸けでね」


「護衛ね…苦手なんだよな。私」


 気楽な態度な怜。自負する詩音と同様、とても護衛が出来るような人間には見えない。見えないだけで、道中、十二分にしていたのだが。


「あの、余計に意味不明なんですけど?レート5なのに護衛される側?する側じゃなくて?」


「えー。それ聞くのー?聞いたら面白くないでしょ〜。だから問題!何でか分かる人ー?」


 一華の質問に面白さを求めた怜は、この場に居る全員に問題を投げ掛ける。それに、和葉が元気に答えた。


「はい!」


「和葉くんどうぞ!」


「スゲェから!」


「正解!」


「よっしゃ!」


「「………」」


 はしゃぐ2人。怜に理由を説明する気は無いようだ。質問した一華が、話を聞いていた翔と一緒に呆れている。


「…って、言うのは冗談ね。ちゃんとした理由が有るし、それを知る権利が皆には有る。だけど、今、この場では言えない。メンバーが揃ってないのもあるけど、何処で誰が聞いてるか分からない。そうでしょ?」


「…じゃあ、いつ言うんです?」


「明日の朝6時。訓練の時、その時に上から伝えられた事を全て話すよ。じゃ、風呂掃除行って来まーす」


 そう言い残し、怜は軽快なステップでバックヤードに入って行った。ホールを少しばかりの静寂と呆れが包んだ。


———

——


 翌日。10月17日。


「あっ。おはよう」


 左目を掻きながら階段を降りる一颯に、翔が挨拶をする。テーブルを拭いたりと開店準備をしている様だ。


「…あっ。おはよう御座います」


「早かったね?まだ5時も来てないし、もうちょっと寝てて良いよ?昨日忙しかったんでしょ?」


「…いや、いつもこのぐらいの時間なので大丈夫です」


「そう。なら良いけど…」


 未だ左目を掻きむしる一颯を見ながら翔はそう言う。かなりの時間を掻いているので気になっている様だ。


「どうしたの?左目」


「…いや、何か痒いんですよ…」


「ゴミでも入った?洗ってくる?」


「いや、いいです」


 そう一颯が言った時、階段から人が降りてくる。寝起きでだらしなく、長い髪を纏めていない一華だった。


「あっ、おはよう一華」


「…うお!?なんだ。翔さん居たのか…一颯も居るし…びっくりした…」


「何かすみません」


「いや、良いよ。戦闘中心に生きてる癖に、気配も察知出来ない様なアタシが悪い」


 正直に謝罪する。和葉には辛辣なだけで、結構素直な性格なのかも知れない。


「…にしても、一晩経って思うけど、アンタって結構大変だよな。12の時にレート5になるだけでも大変なのに、平定官にまで…」


「…いや、そんなに…でも、レートに関しては結構心当たりは有ります」


「心当たり?」


 一颯の言葉を疑問に思った様で、そう聞き返す。それに対し、一颯は平然と答えた。


「はい。俺、園の授業と試験。途中から全部サボってたんですよね」


「はぁ!?」


「えっ!?」


 一颯の発言に静かだったホールが過去の物となる。なんて言ったって、金蓮花園は大事な物で、一般常識から、工学系、理数系と様々な分野を学ぶ。サボるなんて言語道断である。


 そして、レートは12歳の時に技能試験の結果を元に決められる。審査項目としては、発想力と計算力。記憶力等があるが、コレについてはまた今度。


 レートは12歳の時に決められる。そして、決まった後は変動する事は基本的に無い。一生自分について回るレッテルであると言う事だけ覚えていたら良い。


 当然、授業をサボると言う事は、自分の未来を投げ捨てる様な物。そんな事をする人間は余程の馬鹿でも無い限り、有り得ない。


 まぁ、長々と話したが、何を伝えたいかと言うと、金蓮花園の授業や試験をサボるという事は、和葉以上の馬鹿に等しい行為という事である。


「…サボるって…一体何で?」


 驚きを隠せない一華がそう聞く。


「…それが…全く覚えて無いんですよね。ただ、誰かと会っていて…黒髪だったのは覚えてるんですけど…顔とかぼんやりで、年齢も性別も分かんないんですよね。なんせ、眼鏡が無いと、生きていくのも難しいくらいには目が悪かったので」


「…?覚えてないのは昔だから兎も角、昨日、余裕でナイフ避けてただろ?それに今も眼鏡すら掛けてないし…」


「嗚呼、怜さんの言ってる事が正しいのなら、昨日から右目だけ視力が10を越えているのでもう要らないんですよね。一応持ってきては居ますけど」


「…昨日からって、アンタ、本当に色々凄いな…」


「F2細胞による強化無しで10…」


 一颯の回答に一華と翔は、引き気味の感嘆の声を漏らす。その回答で一華は何かに気付いた様で、追加の質問をする。


「…右目だけって事は左目はあまり見えてないのか?」


「…多分。恐らく右目のワンオペ状態なので」


「まぁ、気になるなら怜さんの話の後、一颯くんの身体検査をするからその時に分かると思うよ」


 そう翔が言った瞬間、お店の入り口から怜が入ってくる。噂をすれば影がさす。と言う奴だろう。


「おっはよ〜!元気してる〜?」


「…朝っぱらからテンション高いっすね怜さん」


「何?一華は俺が元気なのが不満?」


「じゃあ、何でもないっす。忘れてください」


「ははっ。つれないね〜」


 やれやれと言った感じの仕草を始める。中々の苛つきが襲ってくる。そんな怜に、翔が質問を投げ掛ける。


「仕事。ですか?」


「そう仕事仕事。でさー!聞いてよ〜!ベットでゴロゴロしてたらさぁ!急に電話が掛かって来てさぁ!今の今までガチンコの殴り合いだよ〜…」


「本当、いつも大変ですね。にしても…ただの殴り合いにしては長かったですね?」


「だって、アイツら、権能まで出して来て本気だったんだもん。こっちはこっちで権能使えないし色々大変だったんだよ?」


 防衛省の上層部に愚痴を吐きまくる怜。結構な暴言で、聞く人によれば一大事が起きるレベルである。


「…そんな事よりも、こんな大変でお疲れ様な俺を、もっと心配してくれても良いんだよ?」


「大丈夫。心では心配してますよ」


「はっはー!言わなきゃダメでしょ!」


 そう言って、ケラケラと笑う怜。


(…一昨日から無睡って化け物か?)


 その間、一颯は笑う怜に失礼な事を考えていた。


「ん〜。6時まで暇だなぁ…仕方ない。一颯が起きてる事だし、先に身体検査済ませますか。じゃ、地下にレッツゴー。あっ。一華はどうする?一緒に来る?」


「どっちでも良いっす。でも視力とかちょっとは気になるっすね」


「じゃあ、来なよ」


 怜は皆を引き連れ、バックヤードに向けて歩き出した。


———

——


「はい。コレ、結果。まぁ、エリア5に居たから仕方ないね」


 検査が終わり、怜はそう言って、一颯に身体検査の書類を渡した。


空風一颯(17歳)

身長172cm。体重48kg

視力。右10.5。左0.1以下

聴力。問題無し

貧血。低血糖。低血圧。

血液内F2細胞数560(1mg当たり)


 他にも色々と書かれているが、軽くまとめるとこんな感じである。


「そして。コレ」


 更に、怜は黒い物を一颯に渡す。


「…コレは?」


 怜に手渡された黒いソレを見て一颯はそう聞いた。ソレの名称が分からないとかではなく、ただ渡された理由が知りたかったからだ。


「それは眼帯。一颯は右と左で視力差が激しい。最悪、生活に支障が出るし、そのままにしてると、これ以上悪くなるかも知れない。それに、弱視だから左目を矯正した所で、1.0に持ってくのも無理。だから、諦めてコレ着けて生活してね。って事」


「…分かりました」


 渋々返事をして、一颯は渡された眼帯に目を向ける。視力が良くなったのにも関わらず、まだ眼鏡等、制限が必要と知り、少し複雑な気分になる。


「嗚呼、分かってると思うけど、左に着けるんだよ?」


「…馬鹿にしてます?」


「気の所為だよ。善意善意」


 その気分をぶち壊す様に、明るく振る舞ってそう言う怜。一颯は呆れながらも左目に眼帯を着けた。


「うん。こう見たら左目が見えないただの赤色の目の人だね。コレは良いカモフラージュにもなる。天才的な案だったか…!」


「それはないな」


「一華?何か今日酷くない?」


「気の所為だろ」


「…気の所為って便利な言葉だな…」


 と、怜は一華の返しにぼやく。あくまでも、悪いのは空気を読めない怜なのだ。因果応報である。


「それにしても…此処凄いですね。地下にこんな施設があるなんて」


 話を逸らそうと一颯がそう言う。言われてみれば、こんな検査機器など普通のビルの地下に置く様な設備ではない。色々気になる点はあるのだ。


「まぁ、平定官は職業柄、怪我しやすいからね。拠点に治療施設は絶対に設置しなきゃダメなんだよ。規則って奴。他にも、医療知識がある人も1人は班に必要だったりするよ。こう見えて、俺手術出来ます」


「まぁ、その怜さんが大抵、居ないから翔が代わりに頑張ってるけどな」


「だって俺。忙しいんだもん!」


 機嫌を取り戻し、ケラケラと笑う怜。その小さい身体にどれだけの情報を詰めているのか。一颯は再び失礼な事を考えていた。


(…やっぱ、化け物か)


 ちなみに、翔は時間通りに来ないであろう他の人を起こしに行ったので不在。怜程ではないが翔も多忙なのである。


 第五話に続く


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