第三話 『Equality』
一颯「前回のあらすじ!已む無く平定官になる事になった空風一颯!」
怜「平定官になる理由を知り、危ない思考をする一颯」
一颯「なんかとりあえず笑っている怜!3Rと呼ばれる場所とは!?」
怜「うん。笑い過ぎだね俺」
一颯「まぁ、笑顔なのは良い事ですよ。それ程人生を楽しめているって事です」
怜「そうなら良いんだけどね」
一颯「それでは普通のあらすじでした。第三話どうぞ!」
怜「あらすじってそう言う物だよ」
朝日が眩しく輝く。ビルが立ち並ぶエリア3に差し掛かったそれは、ビルに反射したりと全てを明るく照らす。そんなエリア3のとある路地裏に入った所にある5階建くらいのビル。その1階にある喫茶店。名前は『Equality』
喫茶店の前には、クローズと書かれた板が掛けられた看板が置かれている。店員達が準備でもしているのだろうか。店内はかなり騒がしい。
アンティークな店内、そこにカンカンカンと、何か削られた様な音が響く。すると、音の発生源であろう男が口を開いた。
「どうよ!このナイフ投げる技術!」
店内の壁に書かれた、歪な円のダーツの的の様な物。そこにナイフを3本投げた、明るい茶髪に黒い目の男。和葉。彼は子供の様にはしゃぎ、ナイフの刺さった的を指差している。
「やるじゃん。馬鹿の癖に」
厳しい辛辣なコメントを投げたのは、ピンクではない薄い赤色の目と髪を持つ少女。沙紀。身長の低さ故に、椅子に座る彼女の足は宙ぶらりんとしている。
「ナイフ投げは筋肉だけだもんな!」
沙紀に続き、和葉を脳筋と馬鹿にするのは、薄い青色の髪と目を持つ少年。千斗。背もたれのない椅子で行儀悪く座っている。
「投擲技術って言葉も知らないのかお前」
強気な口調で言うのは赤いメッシュが入った黒髪が特徴的な、男勝りな性格の女性。一華。やれやれと頭を抱えている。
「うーん。まあまあって感じ」
全く興味無さそうに棒読みしたのは、赤色の髪と目を持つ女性。詩音。カウンター前の椅子に行儀悪く足を乗せて座っている。
「興味な〜い」
最後にそう気怠そうに締め括ったのはピンクの明るいふわふわの髪と黄色の目を持つ女性。陽奈。詩音の前のカウンターでゴロゴロ寝そべっている。
「お前ら酷!」
満場一致で馬鹿にされた和葉は、子供の様に不満を叫ぶ。5歳児でも相手にしている様だが、身長は一颯と同じくらいなので、流石に16歳は迎えているだろう。
「…子供か?一応、絶対に認めたく無いけど、今、此処に居る中で一番歳上…なんだよな?」
「まあまあ、そんな事言わないであげてよ〜和葉が泣いちゃうでしょ」
「それは面倒〜」
一華、詩音、陽奈の3人は目を合わせながら、自分達だけでそう会話をしていた。陽奈の体勢と言うか、居る場所が場所なだけに、少し異様な光景である。
「……さっきから何を騒がしくして…」
謎の騒ぎを聞き付け、カウンターの中にあるバックヤードへの扉から、黒髪黒目のいかにも優しそうな男がやってきた。
「あっ。翔じゃん」
「どう?コレ。凄くね!」
「えっ。何が?」
詩音に翔と呼ばれた男は和葉が指差した的に顔を向ける。翔の視界に的が入った瞬間、溜め息を吐き、いつもの事の様に呆れていた。
「和葉…やるなら地下でやって欲しかったかな…此処、お店」
「え。すまん」
「ブハハ!!和葉怒られてやんの〜!」
「うるせー!」
和気藹々とする店内。そこにカランカランと扉に着いた鈴が店内に響く。扉から誰かが入ってきたのだ。
「ん?敵襲か!?」
それを聞き、和葉が反応する。それを見て、翔は更に呆れながら口を開く。
「そんな訳ないで——」
「死ねぇ!」
しかし、遮られては意味がなかった。開けた人物へナイフを投げ付けていた。
「「え」」
「「あーあ」」
「流石馬鹿!最高!満点上げちゃう!!!アッハッハッ!!!」
「うわ〜死んじゃうよ〜」
和葉の行動に殆どの人が困惑や自分の心配をしていたが、詩音と陽奈だけはかなり楽しそうにしていた。そして、そのナイフが飛んだ先には、扉を開けたばかりの一颯の姿が見えていた。
「初めまし……て!?」
一颯は顔に飛んで来たナイフを、驚きながらも軽々と避ける。そして、一颯が避けたナイフは道路に飛び出す前に怜がキャッチした。
「危ないなぁ。死ぬのかと思った…」
ほっと一息吐く一颯。怜は和葉を責め立てる。
「…何でナイフ投げたのかな。和葉?」
「えっ。何でって敵襲だと思ったからですけど?」
「当たり前の事見たいに言うな…よ!」
今度は怜がナイフを投げる。和葉はナイフを避ける事が出来ず、肩に深々と突き刺さった。投げ返すと思っていなかったのも、当たってしまった理由の一つだろう。
「いっ!たいなぁあ!?怜さんっ!?何で投げるんですぅ!?」
「和葉が馬鹿やったから?」
和葉の文句を怜は軽く流す。一颯は(別に慣れてるから良いんだけどな)と呑気に静観に徹していた。
「一颯、ごめんな?馬鹿が馬鹿して」
「はぁ…まぁ、別に死んでないし、慣れてるんで良いですけど」
一颯は大人しく怜の謝罪を受け取った。流石、エリア5に生きていただけあって、コレくらいは何ともない様だ。
「だってよ!怜さん!許してくれてるよ!」
「和葉…反省くらいはしようよ…」
反省の見えない和葉の肩を手当てと言う名の『ナイフを引き抜いて、傷口を確認するだけ』を、しながら翔は和葉を諭す。効果は薄そうだ。
「新人くん良いね。和葉と同じで狂ってる予感がする」
「そう言うアンタも十分ヤバいよ。詩音さん」
「歳上?」
「そうみたいだね」
陽奈を除く残りの4人は、自由に感想を言い合った、きっと、常識や倫理なんて物はこの場に居る人には無いのだろう。
「…まぁ、此処にいる人全員と、居ない2人。それが一先ずの一颯の同僚って事になるね。仲良くしてね。とりあえず、自己紹介からかな?」
そう怜が言った後、皆が軽い自己紹介を始める。自己紹介と言っても、下の名前と年齢くらいだ。
「俺は一颯。レート5。多分17歳」
「さっきはすまんな!一颯!俺和葉!21!」
「私、詩音。19歳。盛っていいなら18な?」
「千斗!15!」
「沙紀!15!」
「…馬鹿がすまんな。アタシは一華。20歳。一応、馬鹿と同級…認めたくないけど」
「私からも謝るよ。ごめんね。私は翔。23歳」
「陽奈」
「コイツは多分私の同期」
名前のみの陽奈の自己紹介に、詩音が軽く付け加えた所で全員の自己紹介が終了した。
「ま、今の所はこんな感じか。じゃ、そろそろお店開けようか。一颯はどうする?移動中、車内で寝てたとは言え、眠いでしょ?休む?」
「合計で5、6時間は寝てるんで大丈夫ですね」
「えっ。そう?なら良いけど。とりあえず、裏にでも行ってこの服に着替えて来て。いつまでもボロボロの服は着せられないよ。上の栗饅頭が「平定官の癖に云々かんぬん」って煩いからさ」
そう言いながら怜は服を一颯に投げ渡した。丈はあっているが、ウエストが合ってないので結構ブカブカになりそうな予感がする。
そして、軽く一颯をバックヤードに案内した後、店の外のクローズと書かれた板をひっくり返し、オープンと書かれた面にした。
「じゃあ、喫茶店『Equality』開店!」
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「はい。ご注文お伺いします」
「…あれ?新しく入った人?」
すこしゆったりした服を着て、オーダーを聞きに来た一颯に、常連らしき若い女性がそう話し掛けた。友達か同僚か分からないが2人組で来ている様だ。
「そうです。今日入ったばかりですね」
「やっぱり〜!初めて見た顔だからさ〜」
「結構若いね〜。何歳?名前は?」
「空風一颯。多分17ですけど…」
女性の質問に一颯は平然と答える。この街に居る時点でレートが上なのは殆ど確定しているのだ。レートが上の相手に拒否や嘘は出来ない。普通に答える。
「ウッソ!?17!?」
「15くらいにしか見えないんだけど?」
「えっ?レートは?」
「5ですね」
「めっちゃ低い!?」
「空風くん度胸あるね〜。相手によっては蹴られ殴られなのに」
そう軽く言い放つ女性2人。一颯がレート5である事を、全く気にしていない様だった。
———
——
—
「はい。ご注文お伺いします」
「…新人さん?レートは?」
「5ですね。はい。今日入ったばかりです」
今度は別の常連さんの様だ。頑固そうな強面の中年男性と言ったところである。何か文句を言われるだろうなと一颯は覚悟する。
「若いのにレート5…中々大変そうだね。いつものって言おうと思ったけど…新人さんなら分からないかな」
「…あっ。すみません」
「あ、いいよ。気にしないで。普通に頼むから」
「ありがとうございます」
彼もレートの事を全く気にしていない様だった。
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——
—
「どう?常連さん凄いでしょ?」
手持ち無沙汰になって、カウンターの前にぼーっと立つ一颯に、コーヒーを淹れている怜が自分の事の様に誇る。その言葉に一颯は思わず本音を漏らす。
「…こう言うのは悪いですけど変ですね。このお店」
「まぁ、実際変だよ。レート無視のお店とか普通は存在しちゃいけないからね。此処まで持っていくのは結構大変だったよ。主に上の説得に」
「怜さんがこうしたんですか?」
「そうだよ。でも、まだまだだね。常連さんの殆どがレートシステムにトラウマ持ってるから理解されてるだけで、トラウマとか持ってない人は来ないどころか、この店に嫌悪感しか抱いて無いんじゃないかな」
あっけらかんと話す怜。先を見据えている様な、目をしていた。それを見て、一颯は疑問を持った。
「怜さんは何を目標に?」
「全ての人が不自由なく暮らせる事かなぁ。まぁ、今のままだと不可能に近いけど」
「そうですか」
「あれ?案外興味無さそうだね」
「そんな事ないですよ」
「そう?まぁ…いいけど」
怜がそう締め括った瞬間、お客さんからの呼び出しが入る。ちなみになのだが、一颯と怜の他に従業員は翔と一華だけ。それ以外は平定官の仕事。又は、2階でサボっている。
「それじゃ」
「はーい。いってらっしゃい〜」
———
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「そろそろ締めようか」
「よっしゃあ!」
午後6時を指す時計を見て、怜がそう呟いた。それを聞き、何処から帰宅してソフトドリンクをガブ飲みしているだけの和葉がはしゃいでいる。
「ふぅ…ゲームで目が疲れたぁ…でも、今日は結構人少なかったね」
「まぁ、平日だし仕方ないだろ」
「え〜仕事が無くて私は楽だから嬉しいけどな〜?」
「一華はともかく、詩音と陽奈はシフトに入ってから言えよ!」
「…そう言う和葉もね」
今日の感想を話す詩音。一華。陽奈。和葉。翔。その5人の会話を聞いて、一颯は(少なかったのか…)と営業していた時の事を少し思い出していた。
「はいはい。片付けが終わったら一颯も来たし、恒例のアレ。するよ」
「アレってまさか!」
「そう。ア・レ」
怜の一言を聞いて、一部を除いた人が盛り上がる。一颯はその様子を不思議そうに眺める事しか出来なかった。
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「怜さん。一颯くんは何で此処に来たんですか?」
バックヤードでお店の片付けをしている怜に、翔が話しかけた。翔も片付けを手伝っているのだろう、程よく筋肉の付いた腕には段ボールが置かれている。
「色々だよ。色々。その内説明する」
「はあ…。彼、見た感じ権能すら持って無さそうですけど…」
「その点は大丈夫。キッカケが有れば発現する」
「キッカケ?」
思わず聞き返す。自分が発現した時を覚えていないのか、はたまた、自分の時はキッカケがなかったのか。そんな物必要あったかな。なんて事を考えている。
「そうそう。キッカケ次第。例えば…絶対絶命の時とか」
「死に掛けるの必須って、ちょっとあり得なくないですか?」
「流石に冗談だよ」
そう笑い飛ばして、怜は立ち上がる。
「多分、急にポンって出てくる。寝起きとか、食後とか、気を抜いてる時にでもね。…後、翔は誰に対しても平等に接し過ぎ。上に嫌われるよ?」
「…分かってはいますけど…」
視線を逸らしながらそう言う翔。
「お人好しなのは良い事だよ。だけど、翔はお人好しが過ぎた所為で此処にいる。もう少し、意識改革した方が身の為だよ。他の皆を見たら分かるけど、平定官は自分勝手で自分至上主義であればある程生き残り易いからね。平定官は翔に合ってないよ」
「……そう…ですかね」
「まっ、あんまり気にせずやっていきましょーよ。一颯も来たし楽しくなるでしょ。とりあえず、俺や和葉みたいに自分最優先の楽しい人生を楽しもう?それじゃ、お先!」
そう言い残して怜は部屋を後にした。翔1人の部屋を静寂が包む。そして、それを翔がそれを破る。
「……貴方、どちらかといえば、他人最優先でしょう…」
———
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「それではご注目!恒例のアレを始めます!」
そう言って、怜はカウンターの中から、空白が目立つ当番表の様な物が書かれたホワイトボードを取り出す。横の欄には曜日。縦の欄には洗濯担当、掃除担当等色々書かれている。
「当番表ですか?」
「そうそう。家事は分担するのが一番楽だからね」
「ちなみにどんな方法で決めるんです?」
「そんなの決まってるでしょ」
「え?」
その一言で、一颯以外の皆は目を合わせ、雰囲気を変える。店内には何かの前兆の様な、張り詰めた緊張感が流れる。一颯はそれについていけず、かなり困惑している。
「ジャーンケン!」
「えっ?ジャンケン?」
「「「「「ポン!」」」」」
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「流石馬鹿。相変わらずジャンケン弱いよね〜」
「和葉は出すのが単純なんだよ。チョキ、グー、パーの順番でしか出してなかったらそりゃ、そうなるよ」
「言っても改善されないの流石馬鹿」
殆ど全てが和葉という文字で埋まる当番表を見ながら、詩音と怜は話す。その近くの地面には野垂れ死ぬ和葉がいた。千斗と沙紀が和葉を慰めている。
「まぁまぁ、そんか落ち込むなって!この当番表なんて、誰にも守られないし」
「そうそう。大抵はてんちょーと翔くんが頑張ってくれるから」
内容は酷い物だが、言い方からして、いつもの事なのだろう。何の為にやっているのか。
「それはそうなんだけど…やっぱり負けるのは辛くて…」
「…分かってるならちょっとはやって欲しいな……負けてるんだから」
「ぐふぅ…」
和葉の折れた心は回復しなかった。それどころか、翔の追撃が入り念入りに折られる。バキバキのボキボキである。
しかし、追撃はまだ終わらない。此処ぞとばかりにこの機会を待っていた。
「はい。じゃあ、お風呂入るよ。男子と女子の代表同士で順番決めのジャンケン宜しく」
「だってよ馬鹿。名誉挽回のチャンス到来だな」
「…いつもの流れじゃん……」
「そうそう。いつも此処で負けるんだよな。お前」
「何だ!何か悪いのかよ!」
「いや悪くねぇよ?ただ有難いなぁって」
「一華!テメェ!」
そんな事を言い合いながら、和葉と一華は戯れ始める。沙紀と千斗はそれを見て、一華の応援をしていた。初めから和葉の味方など居ないのだ。
上記の行動も、これは慰めないと面倒な事になりそうだ、と。でも考えたのだろう。
「…どう?騒がしいでしょ」
「そうですね」
「でも、これが良いんだよ」
「そうですか。それは何よりです」
一颯と怜の2人だけでそう話していた。怜の穏やかな顔を見て、一颯は眩しいな、と。考えていた。
第四話に続く