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ロウエストの内幕  作者: 偽師
第一幕 『僕』
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第二話 自由


一颯「前回のあらすじ!レートの所為で退屈で非情な日々を送っていた空風一颯!」

怜「平定官の鈴音怜との出会いで何かの変わる予感を感じ取っていた」

一颯「一体この先どうなってしまうのか!」

怜「………結構、時間余ったね…一体、何話せばいいんだろう?すこし台本が短過ぎない?」

一颯「まぁ、雑に話してれば良いでしょう。こう…なんて言うか友人と話すみたいに?」

怜「中々難しいこと言うね?そもそも、一颯は友人居ないじゃん」

一颯「結構酷い事言いますね?」

怜「本当の事言ってるだけだよ」

一颯「成程。人の心がないらしい。それでは第二話!スタート!」



「…護衛?俺にですか?」


 怜から飛び出した一言に、一颯は少し時間を開けてしまったが聞き返す。


「そう。君に。……嗚呼そうそう。君に断る事は初めから出来ないから、強制的にでも連行させてもらう」


「…何故俺なんです?」


「君のその赤い右目に用があって」


 怜は一颯の右目を指差した。身長は一颯よりも5センチ以上は低いだろうに。纏う雰囲気だけで、一颯はやや押され気味だった。


「まぁ…彼と理由が似てると言えば似てるよ」


 一颯が気絶させた男に目を向け、説明を付け足す。男がおかしかった事もあり、一颯の中に警戒アラートが鳴り響く。


「まっ。詳しくは移動中にでも」


 そう言い残し、怜は一颯に背を向けた。一颯は風に揺らされる白い髪を眺めながら、仕方なく後に続いた。


———

——


「…何か、久し振りに乗ったな…車」


 閑静な道路を走る車。その後部座席に座り、真っ暗な外の景色を眺めながら、一颯は言葉を漏らす。聞かせるつもりはなかった様だが、怜はしっかりと聞いていた。


「まぁ、そうだろうね。エリア5だとまず間違いなく機会が無いだろうし」


「…あれ?そう言えば、怜さん以外に平定官は来てないんですか?」


 運転しながら返事をした怜に、一颯は質問する。平定官本人が運転している事は、平定官に会った事がない。あまり知らない一颯でも異常だと分かる。それ程、平定官は特別な職業として扱われているのだ。


「当然来てないよ。来る訳がないでしょ?」


「嗚呼…俺がレート5だからか…」


「御名答。平定官は保守派ばかりだからね。殆どの人間が一颯が護衛対象兼、平定官になる事を嫌ってるよ」


「……平定官になる…?」


「うん。…まぁ…それについてはもう少し後で話すよ」


 疑問を抱く一颯に、怜は面倒だったのか後回しにした。


「嗚呼、ちなみにだけど、コレから一颯はかなり面倒な立場になる。俺はそう言うの興味無いけど頑張ってね」


「………」


(…勝手に入れておきながら……)


 あっけらかんとした態度で、無責任、他人事の様に怜は言った。一颯には怒りの様な、呆れの様な、そんな少しの感情が芽生えていた。それと、後回しにされると面倒な事になると悟り、念には念を重ね一颯は聞いておく事にした。



「…やっぱり、今聞いておきたいです。俺が平定官になる理由って何ですか?」


「理由ね…分かったよ。説明するよ。レートシステムはとある『権能』で成り立ってるのは知ってる?」


「…すみません。権能ってなんですか?」


「嗚呼、そうか。そこからか。一颯が12歳で園を出たのを忘れてた」


 1人納得し、怜は権能について簡単に説明を始める。


「『権能』は1人の人間個人に与えられた絶対的な力。与えられたって言っても、誰からかは不明だけどね」


「成程。それでレートシステムを動かしていると…」


(その中枢を担う『権能』って奴を壊す…と言うか、無効化すれば、レートシステムは動かないと言う事か。………それを俺に言うか?…何か引っ掛かるな…)


 一颯は懐疑的な目で怜を見つめながら頭を回転させるが、見るだけで答えが出る訳もなく、返事を返す事もなく、思考に時間を費やす。


(…そもそも、レート5なんて国に不満のある奴の集まりだし、それをレート5の俺に言うって事は「この国を壊して下さい」って、言ってる様な物なんだよな…天下の平定官様がそんな事言うのか?いや、言って良いのか?)


 そう懐疑心が拭えない一颯に、怜が口を開いた。


「安心しても良いよ?俺が居る時点で革命なんて起きないし、起こせないから」


「………突然どうしました?」


 釘を刺してきた怜に、一颯は心が読まれたのかと、焦ったが、何とか冷静を保ち、何の事かと惚けた。怜は仕方なく話を戻した。


「…で、一颯が平定官になる理由だっけ?そのレートシステムを動かす権能は、権能の中で唯一自我と人の身体を持つ。だからこそ、権能であるにも関わらず寿命が出来てしまった。でも、レートシステムを維持する為にはその権能が必要。だから、権能を受け継いでいかなきゃいけない。だけど、誰でも受け継げる訳じゃない。受け継ぐ為の条件が有る。で、それを満たしてるのが一颯だけって事」


「…その条件って?」


 のほほんと話す怜。幾つかそれっぽい心当たりがあった一颯は質問した。


「国の調査では詳しくは判明してないけど、突然、目が赤くなる事とか、反射神経が良くなる事とか?ちなみに、一颯が受け継げると分かった要素はその右目の色だけじゃないよ?一颯、弱視で視力両目とも0.1以下なのに今日は眼鏡かけてないでしょ?条件の1つに視力が10を越えるとかがあるからね」


「どこまで調べたんですか…怖…」


 敬語を忘れてしまう程、怜にかなり恐怖感を覚えた。しかし、怜は口を噤まない。それどころか追い討ちにも近い言葉をかける。


「君が園に入ってから出て行くまでの12年間の記録された情報全て。蒙古斑のあった位置も全て知ってるよ?どう?凄いでしょ?」


「いや、普通に怖いです」


「あっはっは!正直だねー」


 その言葉を聞き、怜は楽しそうに笑う。そんな怜に一颯はかなり恐怖を覚えていた。それと同時に、平定官と言う権力の不平等さを実感し、敵に回すべきじゃないな、と。思っていた。


「でも、まぁ、安心してよ。その権能さえ受け継いだら君は晴れて自由の身。レートシステムの維持に貢献した者として、一生を不自由なく暮らせるから」


「そうですか…それで、今、向かっている場所は?」


「一颯の仮の配属先だよ」


「その配属先って?」


「エリア3のポイントR。略称としては『3R』だね」


 軽く笑う。そして、多少付け足した。


「そうそう。その『3R』俺の班だから」


———

——


「何が良い?値段は気にしないで良いよ」


「…えっ。此処で買うんですか?」


「うん。エリア5を出るまで、後2時間は運転しなきゃだし、補給はしておかないと」


 そんな会話を繰り広げながら2人はコンビニへ入って行く。一颯が空腹に苛まれながらも渋っている理由は1つ。物価の高さだ。


「…流石エリア5と言った感じだね」


 そこら辺の戸棚に置いてあった食品を持ち上げてそう言った。ただの変哲のないパンに着いている名札には600円と記されている。


「コレに税金が付与されると考えると最悪過ぎるね」


 そんな無駄な事を言っても変わらないのにも関わらず怜は愚痴を吐く。更に、意味のない計算を始めた。


「俺のレートは1だから、消費税は5の5倍で1050円。パン1つでこれだから、上位のレートが出入りしない理由が良く分かる」


 そんな事を呟きながらカゴの中にパンを入れる。一颯は自分の所為でもないだろうに、自責の念が募ってしまい、視線を逸らす。


「どう?食べたい物あった?」


「…いや、無い事は無いですけど…出して貰うのはちょっと…」


 物価の高さが分かっているからこその一颯の発言だったが、怜には響かなかったし、全く気にしていなかった。


「じゃあ、後で払ってくれていい。もう10日もすれば給料日だ。その給料から払ってくれたら別に良いよ。利息とかも無しで良い」


 悪くない提案だと一颯は思った。だが、少し疑問も浮かぶ。(例え、今すぐに入った所で、払える程の稼ぎがあるのか)と。だが、コレに関しては杞憂であった。


「ちなみにだけど、平定官って仕事は命が懸かってるからね。給料はそこら辺の中小企業よりは高いよ。初任給でも、時給換算で3000円くらいかな?結構低いけど、30分毎に給料が出るから、仕事してるフリしてるだけでも十分返せる。まぁ、あくまでも特別職の国家公務員だから、今から払う高い税金から来てるけどね」


 そんな冗談を含めながら怜は説明する。だが、その説明は一颯を驚かすには十分な物だった。


「単純計算で10分も働けば、俺の日給より高いと…」


「悲しいけどそうなるね」


「何か、今まで積み上げてきた物が小さく見えてきました。所詮、自分は井の中の蛙だったみたいですね」


 少し…いや、かなり気を落としながら、自分を自虐した。対して小さくもない自分の手が、非常に小さく見える。そんな気分だった。


「別にそう言わなくても良いでしょ。この世で余計な感情なしに、自分を褒め称えてくれるのは自分だけなんだから」


 慰めの言葉をかける。しかし、この言い方だと、怜は自分に余計な感情を抱いているのでは、と。一颯はつまらぬ考察をしてしまう。それ故に、一颯の口から出た言葉には少し棘があった。


「…俺は自分の褒めれる箇所なんて分かりません。あった所で、今更変わる事はできません。思うのは後悔だけです。知りたくありません」


 決意に満ちた様な頑固さが見える顔の一颯。怜と出会ってからの中で1番感情を表に出している様に感じる。


「とりあえず、パンと飲み物だけ買っておきます」


 そう言い残し、一颯は飲料コーナーへ歩を進めた。


———

——


 アレから暫し時間が経過した。未明の少し明るくなった街、周りの配色はガラリと変わり、ビルもチラホラと見える。しかし、見えるのはビルだけ。と言う訳ではなく、平屋の建物等も見受けられた。それ故、まだ完全には都会とは言えない。


「…ん?……はぁ…面倒な事を…」


 何も普通な道を運転している中、怜は気怠そうに溜め息を吐く。そして、車を道端に停車させ、外へ出る。一颯は夢の中でその事には全く気付いていない。


「用があるなら俺が聞くよ」


「ガキに用はない」


 怜の言葉で居場所がバレたと悟ったか、自分から姿を見せる、フードとマスクを着けた怪しげな男。流行りなのかは分からないが、その手にも武器が握られている。ただ、剣などの古の武器ではなく、今の時代に合ったメカニカルな拳銃であった。


「で?用は?さっきの、質問の答えになってないよ」


「…そこの少年を殺しに来た」


 怜は至極怠そうに相手をする。その舐め腐った態度に男は苛つきを覚えたか、声のトーンが下がっていた様に感じる。


「あっそ。車でも撃ってみる?損害賠償はキッチリ請求するけど良い?」


「…ガキが。粋がりやがって」


 文句を口から垂らし、拳銃を車に向けた瞬間、男はその場に倒れる。いつの間にか怜が男の近くに移動していた。


「おめでとう。ガキで粋がってる奴に負けれたね。きっと、今日は君の人生で忘れられない1日だろう。とりあえず、拳銃だけは回収しといてあげる。君には全く似合わない。斧でも振ってる方が良いよ。その方が似合う。きっとそうだよ。そうに違いない」


 なんて皮肉めいた事を夢見る男に投げ付ける。そして、男を目覚めさせるエンジン音。その音は、眠気の抜けない。いや、痛みで動けない男から距離を取っていく、男が自由に身体を動かせる頃には、その音はとっくに昔の物となっていた。


 第三話に続く


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