美人転校生が俺の隣に来てから女友達がなんだか変
「そう言えば淳平、今日転校生が来るらしいよ」
「は? それどこ情報?」
昨日遅くまで一緒にしていたオンラインゲームの話をしていた咲耶が新しい話題を振ってきた。
「梅原先生が教えてくれたから確かだと思うよ。なるべくまだ秘密にしてくれと頼まれたけど」
「秒でバラしてるじゃねえか」
まあ担任が自分の生徒にわざわざ嘘をつくとも思えないからその情報は信頼できそうだ。にしても高校2年にして転校生が来るとは中々珍しい。
「僕と淳平の仲だから特別だよ。それに淳平は他の人に言いふらすような性格でもないし」
特別って友人関係を意味ありげに言うな。あと人に言いふらす性格じゃないというより言いふらすほど交友関係が広くないだけだ。心の中でそうツッコミを入れているとチャイムが鳴った。そろそろホームルームが始まる時間のようだ。
「時間だね。果たしてどんな子が来るのかな。まあ僕たちには関係なさそうだけど。じゃあね」
そう言うと咲耶は自分の席までさっさと戻っていった。
少しすると梅原先生がやってきて扉を開いた。
「よし、全員いるみたいだな。早速だけど今日は重要な報告がある」
クラス全体がざわつく。なんだろうという声が聞こえるのでどうやら俺と咲耶以外に転校生が来ることを知っている人はいないようだ。
「みんな少し静かにな。なんと今日、このクラスに転校生が来ます!」
一気にワーとクラス中から歓声が上がりお祭り騒ぎである。退屈な日常に突如として発生したイレギュラーなイベントなのでこのクラスの興奮も仕方ないことではある気がする。
「先生、転校生は女子ですか、男子ですか?」
クラスの中でもトップクラスに明るいことで知られる遠藤君が手をあげて質問する。
「それはもう見てもらった方が早いな。転校生そこにいるし。よし、入ってきていいぞ」
視線が一斉に前のドアの方に集まる。少し間があってドアが開いた。そこに立っていたのは黒い長髪が印象的な1人の女子だった。横顔だけ見ても一目で綺麗だと断言できるくらい顔は整っていて、身長は女子にしては長身で170センチくらいありそうだ。彼女は周囲を見回してから先生の方に歩いてゆっくり近づいていった。
「小早川、早速だが黒板に名前を書いて自己紹介してもらっていいか?」
「はい、先生」
小早川と呼ばれた少女はチョークを手に取り黒板に大きく名前を書きやがてそれを終えるとクラスメイト達のいるこちら側へ顔を向けた。
「父の仕事の関係で転校してきました。小早川楓と言います。皆さんと仲良くしたいと思っているのでこれからどうぞよろしくお願いします」
そう言い終えると小早川さんはお辞儀をした。その直後、再びクラスに歓声が上がった。
「お前ら歓迎ムードなのはいいけどあまり小早川を困らせるなよ。あと小早川の席は渡辺の隣だから渡辺はちゃんとサポートしてやれよ」
「へ? は、はい!」
いきなり名前を呼ばれた渡辺こと俺、渡辺淳平は素っ頓狂な声を出してしまった。クラスでまた一笑い起きる。俺の隣の席が空いていたことを完全に忘れていた。俺の席はクラスの一番後ろにあり、その列は今まで俺1人しかいなかった。そこで小早川さんが俺の隣の席に来たというわけだ。そうこう考えているといつの間にか隣の席に座っていた小早川さんが俺の方を見ていた。
「渡辺君だったよね? これからよろしくね」
「う、うん。こちらこそよろしく」
まだこの時は隣の席になっただけでそこまで交流するわけではないだろうと思っていた。
昼休み、俺はいつも通り咲耶と一緒に昼食をとっていた。教室の俺の席で食べているからもちろん隣に小早川さんもいる。先ほどまで授業の間の時間は小早川さんはクラスメイトに囲まれ質問攻めにあっていたが昼休みは一旦みんな小早川さんが食べ終えるまで待つことにしたらしい。ただ今度は教室の外から小早川さんを一目見ようとする群衆が分かりやすくごった返していた。
「大変だね。小早川さんも」
咲耶が小早川さんの方を見てそう呟く。咲耶にしては珍しく同情的だ。
「そんな事ないよ。みんな優しいし、私に興味を持ってくれて嬉しいよ」
咲耶は独り言のつもりだったようだが距離が距離なだけに小早川さんにも聞こえていたみたいだ。
「そ、それならいいけどさ」
「心配してくれてありがとう。えっと……」
「相葉咲耶。相葉でも咲耶でも好きなように呼んでくれ」
「なら咲耶さんでいいかな」
小早川さんが咲耶に微笑みかける。美人は笑顔を見せるだけでも華になるな。
「ご自由に」
そっけない態度で咲耶が返事をする。この態度は小早川さんに対してだけではなく誰にでもそうなのだ。
「ありがとう。そしたら次からそう呼ばせてもらうね」
幸い、小早川さんは咲耶の態度を気にしていないようだったので良かった。心の中で安堵する。
「それで聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「僕に答えられることなら」
「渡辺君と咲耶さんはどういう関係なのかな? もしかして恋人だったり……」
「な、な、なにいってるんだ。僕と淳平はその……なんというか……その……」
なんでコイツこんなにテンパってるんだろう。そのまま見てても話が進みそうもないので横から口出しすることにした。
「俺と咲耶は1年からの友達だよ。咲耶が俺の後ろの席だったから話しかけてそうしたら趣味が合うことが分かって仲良くなってそのまま2年になった今も同じクラスだから一緒にいるって感じかな」
簡潔に言うとこんな感じだろうか。実際は仲良くなるまでに結構時間がかかったのだが。言い終えると咲耶から抗議めいた視線を感じた。なんだ間違ったことは言ってないはずだけど。
「なるほど友達だったんだね」
「……友達じゃない」
咲耶が絞り出すように声を出した。友達だと思われていないのは流石にショックなのだが。
「僕と淳平は友達なんてちんけな関係じゃない。親友、そう大親友さ」
先ほどとは比較にならないはっきりした声で咲耶が答える。若干ドヤ顔なのがちょっと腹立つ。だが、人とほとんど関わろうとしない咲耶が俺のことを親友だと言ってくれたのは結構嬉しかった。
「いいなぁ。私、父親が転勤族だから引っ越しが多くて親友といえるほど仲がいい友達はいないんだよね」
そう言う小早川さんは何処か寂しげに見えた。出会ってから1日も経っていないのでよくは分からないが小早川さんも色々大変だったようだ。その様子を見て咲耶が慌てて声をかける。
「ま、まあ親友は難しいけど友達くらいならなってあげてもいいよ」
偉そうだな、おい。ただ常時人を寄せ付けない精神障壁を張っている普段の咲耶からは想像もできないくらい積極的な発言だった。小早川さんは一瞬あっけにとられた顔をしていたがすぐにクスッと笑った。
「ありがとう。これからよろしくね咲耶さん」
「こちらこそよろしく頼む」
やっぱり偉そうだな。まあこうして咲耶に新しい友達が出来た。俺にはあまり関係ない事のはずだったが人を寄せ付けなかった親友が同性の友人を作るまで成長したことが何故だか少し嬉しく感じられた。
数週間後、小早川さんはクラスにすっかり馴染んでいた。咲耶以外にも友人が出来たようだしクラスの俺以外の男子とも話す機会も少なくなかった。ただ何故か小早川さんは俺や咲耶と一緒にいることが多かった。話を聞くところによると休日に咲耶と小早川さんは一緒に出掛けたりもしたらしい。出不精の咲耶に道案内が務まったのだろうかと心配になったが2人が楽しんでいたらしいと聞き微笑ましい気持ちになった。
「今日も食べてくれ淳平」
「あ、ああ」
この数週間で咲耶にも変化があった。小早川さんと2人で出掛けてからというもの俺に時々弁当を作ってくるようになったのだ。咲耶から受け取った弁当の卵焼きを早速口にする。
「うん、美味しい」
「ふ、ふん。この僕が作ったんだ。美味しいのは当たり前だよ」
咲耶が得意げな顔をする。ここまで長かった。はじめて咲耶が弁当を作って来た時はとてもじゃないが食べれたものではなかった。卵焼きは砂糖入れすぎて殻も入っていてジョリジョリしていたし、生姜焼きらしきものは黒焦げで何か判別することも難しかった。完食したが正直罰ゲームの類かと思ったくらいだ。
「調子に乗るな」
弱めにピンと人差し指で咲耶の額をはじく。俺たちの様子を見ていた小早川さんが隣で笑っていた。
「相変わらず仲がいいね。2人とも」
「し、親友だからね。これくらい当然だよ」
顔を若干赤らめながら咲耶が答える。恥ずかしいなら友達と言ってもいいと思うけど。
「でも親友でもお弁当作ってくるって中々ないよね。どちらかと言えばそれって……」
「僕と淳平は大親友だから! たまにはお弁当くらい作るさ」
咲耶が小早川さんの言葉を遮って主張し始めた。大親友ってそんな関係なのか? そもそも最近まで咲耶料理の経験なんて家庭科の時間くらいだっただろうに。
「ふーん。そうなんだ。咲耶ちゃんのお弁当いいなぁ」
小早川さんがまた笑っている。今度の笑いはなんというかニヤニヤという感じの笑い方だ。
「これは淳平用に作ったものだから。楓の分はないぞ」
「分かってるよ。私だって人の物をとるようなことはしないって」
咲耶が小早川さんを睨み付けている。咲耶は可愛い系の顔をしているから睨んでも別に怖くないけど。小早川さんも特に気にすることなく咲耶の方を眺めていた。
次の休日、俺は小早川さんに駅前まで呼び出されていた。どうやら何か欲しい物がありそれに俺の助言が必要であるらしい。咲耶以外の異性と休みに会うのは久々なので少し緊張しながら小早川さんを待っていた。
「ごめん。待たせちゃったかな」
待ち合わせ時間の数分前、小早川さんが現れた。
「今来たからそんなに待ってないよ」
「なら良かった。じゃあ、早速だけど行こうか」
「そう言えば今日ってどこ行くの?」
ここまで来て聞くのは遅いかもしれないが聞かないよりはいいだろう。
「言ってなかったけ? 今日は咲耶ちゃんの誕生日プレゼント買うためにショッピングモール行くんだよ」
言われてみればそろそろ咲耶の誕生日だったような気がする。
数十分後、ショッピングモールに来た俺と小早川さんはアクセサリーショップで咲耶の誕生日プレゼントを選んでいた。
「これとかどうかな」
小早川さんが数ある中からアクセサリー1つを選び俺に見せてくる。
「どうだろう。可愛いけどあんまりごちゃごちゃしたデザインのアクセあいつが付けるイメージないな」
「なるほど。じゃあまた別の持ってくるね」
「なんか却下してばっかりでごめんね。それにあくまで俺の意見だから咲耶の気持ちとは違うかも」
「大丈夫だよ。それに咲耶ちゃんの好みを渡辺君以上に知っている人なんて他にいないよ」
確かに咲耶とは1年以上の仲だけど普段あまり服装に頓着しない咲耶が装飾品に興味を持つかと言えば怪しいところだ。無難にあいつの好きなアニメやゲームのグッズでも渡せばいいと思っていたが小早川さんは何故か頑なにアクセサリーをプレゼントしたいと譲らなかった。俺の方が先に折れ今に至ると言うわけだ。
「そうだといいんだけど」
小早川さんが再度アクセサリーを探しに行った後、周囲をなんとなく見てみると1つのネックレスが目についた。シンプルなデザインであまり目立たず咲耶が付けても違和感がなさそうだ。値札を見るとそれなりのお値段だがギリギリ買えなくもない。少し悩んだが最近弁当を作ってもらっているお礼の意味も含めて買うことにした。小早川さんは最終的にヘアゴムと髪飾りを買ってその後は一緒に駅まで戻り解散となった。
次の日、日曜で昨日遠出していたこともあり今日はゆっくりしようかと思っているとスマホが鳴った。どうやら咲耶が電話をかけてきたらしい。俺はスマホを手に取った。
「もしもし、淳平」
「わざわざ電話かけてくるなんて珍しいな。どうしたんだ?」
「昨日新しいゲーム買ったんだけど僕の家で一緒にやらないかい?」
「いいぞ、何時からにする?」
「淳平がお昼食べてから来なよ。僕も淳平が来るまでに食べとくから」
「分かった。じゃあ1時頃に行くわ」
「うん、じゃあ待ってるから」
俺は電話を切った。どんなゲーム買ったか聞いてなかったけどまあ例えクソゲーだとしても友達と遊ぶならそれなりに楽しめるだろう。荷物をリュックに入れている時、昨日買ったネックレスが目につきついでにとリュックの中にいれた。自転車をこぎ約束通り1時に咲耶の家に着いた。
「いらっしゃい、待っていたよ」
インターホンを押すと中から咲耶が現れた。何か違和感があると思い咲耶を見るとスカートを履いていることに気づいた。いつもは休日会う時はジーパンを履いているのに珍しいこともあるものだ。指摘しようか迷ったがからかわれそうなので言わないでおくことにした。
「早速だけど中入っていいか。外、夏になってきて暑いから」
「うん。今日は夜まで親もいないし一緒に騒いじゃおう」
ん? 今、親が夜までいないって言ったか? 俺一応異性なのだが親友だから警戒されていないのか、それともヘタレだから手を出さないと思っているのか、どちらにせよ俺以外に異性の友人が出来たら一言言ってやれねばいけない気がする。だが今わざわざ言うことでもないだろう。俺は咲耶に誘われ家に入った。
「あぁ、また負けた」
「ふふふ、まだまだだね淳平」
結論から言うと咲耶が入手したゲームは面白かった。いわゆる格ゲーの一種でキャラクターとその技の種類が結構あり1時間程遊んだだけではどのキャラが強いのか分からなかった。わりと奥が深いゲームだ。咲耶の方は事前に練習していたのか戦い慣れていて1勝することも出来なかった。
「まあ僕が相手だから仕方ないけどね。もう1戦するかい?」
「いや、ちょっと1回休ませてくれ。このままだと泥沼にはまりそうだ」
「しょうがないな。なら一旦休憩にしようか」
コントローラーを床に置きふと咲耶の方を見ると思ったより近くに座っていた。伸びをする際にその肩に触れてしまいそうになり慌ててかわす。
「咲耶なんか今日近くないか?」
「な、なんのこと。気のせいじゃないかな」
目が泳ぎまくっている。どうやら自覚アリの行動のようだ。真意は分からないけど。
「別にクーラーかけてるし近くたっていいだろう」
「いいけどさ、狭い部屋じゃないしこんな近くなくても良くないか」
「淳平は僕とくっつくの嫌なのかい」
抗議の視線を感じる。そう言われるとこちらも弱い。
「嫌なわけじゃないけど……」
「それならいいだろ。はい決まり。それじゃ今日の本題に入ろうか」
今日の本題? ゲームするのが目的じゃなかったのか?
「本題ってなんだよ」
「それはね、昨日の淳平と楓についてだよ」
もしかして昨日の小早川さんと出掛けたの見られていたのか? そう言えば昨日発売のゲームを買っていたのだから外に買いに行って俺たちを見つけた可能性もあるのか。
「どうやら思い当たることがあるようだね。何か申し開きはあるかな」
「確かに昨日は小早川さんと一緒に出掛けたけどそれがどうしたんだよ」
「それがどうしただって? 僕に内緒でデートしていたなんて立派な浮気じゃないか!」
「は?」
何言ってるんだコイツ。主張は分かる咲耶が彼女であるという前提条件が必要だが。
「別にデートじゃないし。というか例えデートだとしても咲耶に言う必要ないだろ」
「親友なら言ってくれてもいいじゃないか」
「彼女でもないのにわざわざ言わないだろ」
「……なら……して」
「ごめん聞き取れなかった。何て言った咲耶?」
「それなら淳平の彼女にして!」
本当にいきなりどうしてしまったんだ咲耶は。でもその表情を見れば本気で言っているのは分かる。
「落ち着け咲耶。理由を教えてくれ。どうしてそういう結論になったんだ」
「それは……」
そう聞くと咲耶はゆっくりとだが説明を始めてくれた。要約すると咲耶が小早川さんと一緒に出掛けた時に俺のことを褒めていたらしい。その時はあまり気にしていなかったが後になって小早川さんが俺に気があるのではないかと思うようになった。そうしたら居ても立っても居られなくなり手始めとして行動した結果があの手作り弁当だった。それで満足していたら昨日俺と小早川さんが出掛けているのを見て頭が真っ白になり今日の告白に至ったらしい。
「怖いんだ。このまま淳平と楓が恋人になったら僕は残されて1人ぼっちになってしまう。だからその前に僕が淳平と付き合ってしまえば僕は1人にならないで済む。楓ともきっと友達でいられる」
咲耶は今にも泣きそうだ。そんな咲耶を見て俺はその額を指で軽くはじいた。
「イタっ、何するんだ淳平。僕は真剣に話してるんだぞ」
「バカ、俺も小早川さんもお前を1人にするわけないだろ。まずあり得ないけど例え恋人が出来たとしてもお前と一緒に遊び続けるわ。俺、咲耶のこと好きだから」
咲耶の顔が真っ赤に染まる。あれ、俺結構恥ずかしいこと言ったかもしれない。
「今淳平、僕のこと好きって……」
「親友としてな! 親友として!」
「僕は異性としても淳平のこと好きだよ?」
「お前、それはずるいだろ」
なんだろう急に咲耶が可愛く見えてきた。いや、咲耶は親友の贔屓目なしに可愛いと思うのだが普段の3割増しで可愛い。
「今回の件で僕は後悔しないように行動することに決めたから。だからもう1回聞くよ。僕を淳平の彼女にしてくれないかな?」
「……正直お前のこと異性としてあまり見てこなかったから」
「大丈夫、意識させてみせるから」
「俺はお前に恋してるわけじゃないぞ」
「それも大丈夫、どんなに時間をかけても恋を教えてあげるよ」
退路は全て塞がれてしまった。なら答えは1つしかない。俺はリュックから昨日の成果を取り出した。
「咲耶、これからは恋人としてよろしく頼む」
俺は横長の小さな箱を咲耶に渡して頭を下げた。
「何これ?」
「開けてみてくれ」
丁寧に包装をはがし箱を開ける。中には昨日俺が選んだネックレスが入っていた。
「昨日小早川さんと出掛けたのはこれ買うためだったんだよ。咲耶そろそろ誕生日だろ」
咲耶は目を輝かせていた。どうやら俺の選択は間違いではなかったようだ。
「つけてくれ」
俺にネックレスを手渡してくる。俺は咲耶の首にネックレスをつけた。
「どうかな」
「いいんじゃないか。似合ってると思う」
「ありがとう淳平。本当に嬉しい」
咲耶が勢いよく抱き着いてきた。急だったのでちょっとふらついたがなんとか受け止めることが出来た。かくして俺と咲耶は親友兼恋人になったのだった。
月曜、俺と咲耶はいつも通り小早川さんと昼食をとっていた。
「咲耶ちゃんそう言えば言ってなかったけどおめでとう」
「誕生日のことかい? それならもう少し先だけどその言葉ありがたく受け取っておくよ」
「違う違う。渡辺君とようやく恋人になれたんでしょ」
咲耶が俺の方を見る。慌てて首を横に振る。まだ俺の方から咲耶と恋人になったことを小早川さんに伝えてはいない。咲耶もまだ伝えていなかったのだろう。
「言われなくても見ればわかるよ」
「楓は怒ってない?」
「なんで? 怒ることなんて何もないよ」
「だって何も言わずに淳平と付き合っちゃって」
「え? 咲耶ちゃんが渡辺君のこと好きなのははじめから分かってたし今更じゃない?」
咲耶は先ほどから開いた口が塞がっていない。俺も小早川さんがそこまで早くから咲耶の気持ちに気づいているとは思わなかった。
「それなら淳平のこといいなって言ったのは?」
「そう言えば咲耶ちゃん焦って2人の関係も進むかなって」
「俺が咲耶のこと拒絶するとは思わなかったの」
「咲耶ちゃん大好きな渡辺君がそんなことするわけないよ」
小早川さんは笑ってそう答えた。どうやら俺も咲耶も小早川さんの計算通りに動いていたようだ。だが不思議と嫌な気分ではない。それは小早川さんが俺たち2人のことを考えてくれていたからだろう。俺はショックを受けている咲耶にどう声をかけるか考えながら咲耶の手作り弁当にありつくのだった。