第九話「修行開始」
「どうしたんですか?アイザちゃん」
背中からでも伝わってくる違和感にシュペーラーがゲオルクをあやしながら言葉を投げた。
相変わらずサングラスがあってもなくても無表情な男にアイザは真剣味を増した表情でこう言うのだった。
「ま、まさか…Σ(・ω・ノ)ノ偽物((( ;゜Д゜)))」
「…」
無言で返事を返す団長(偽物)はアイザを真っ直ぐ見つめる。
「アイザちゃん、なんで分かったんですかっ!?」
意識不明の僕の脇を抱えながら言葉を投げた。
「違う(( ¯-¯ )( ¯-¯ ))私には分かるの( ´◉ω◉` )σ」
後から聞いた話だとサングラスの奥に潜む目の色が違うらしい。本物はもっと優しい色をしているようだ。僕から言わせてみれば、冷酷な男にしか見えないのだが…
「に、逃げるぞ!アイザ!何かヤバいぜ!」
貴族から町を護るはずが、団長のドッペルゲンガーに出くわすとは…
これ以上は任務範囲外だ。シュタインは逃げるように沈黙したままのアイザに言葉を並べる。
「う、うん( ; ´ω`)))))三で、でも…待って٩(•∞•;٩)三」
と、言いながらアイザは危険の匂いしかしない団長に歩みを寄せた。
「お嬢ちゃん、やめときな」
「危ないわよ」
「戻ってきなさい」
シュタインやシュペーラーだけではなく星の港の住人(魔獣)も引き止めようとする。
しかし、彼女の歩みは止まらない。
「団長…あなたは私の知るガオスよね( '-'* )?」
「…」
「偽物とか本物とか私は気にしないヽ(○︎´3`)ノ一緒に暮らしましょヾ(・ω・)ゞガオスが何人居ても構わない( ˶ˆ꒳ˆ˵ )」
微笑みを作り団長に近づいた。しかし、
「(´・ω・`Ⅲ)」
彼女の願い叶わず、団長は胸の内ポケットから拳銃を取り出した。血を吸い取る蚊のように真っ黒な銃の照準にアイザを迎い入れる。
「…ガ、ガオス( ˙-˙ )」
顔が真っ白になる。側の林檎も真っ黒に腐敗していく。
「ガオス、待って…(((≫_≫)))」
「団長ぉ!」
「団長さぁん!」
アイザら三人が心から叫ぶ。まるで、団長を本物に戻すかのように。
しかさ、ドッペルゲンガーとは当人の同じ姿形を持つ全くの別人だ。記憶を改造されたとかではない。
「…」
無言のまま引き金に手をかけ、そして…
パァン!
身体の中が耐え難い熱に犯され、血の染みが衣服を征服していく。
真っ赤な液体を見せつけるように口元から垂らすと、人々は思い思いに悲鳴・怒号をあげ絵に描いたようにパニックに陥った。
「アイザちゃん!?」「アイザッ!」
シュペーラー・シュタインだけでなく幼児ゲオルクもまた涙の豪雨を流した。
前のめりに倒れ、魂が吸い込まれていくみたく瞳から光が無くなっていくアイザを軸に大勢の悲鳴や不安げな足音が逃げていく。
「団長ぉ!なんてことするんですか!」
「見損なったぞぉ!」
瞳に涙の粒をため、仲間の死を悲しむ二人に団長は言葉をかけた。
「待て」
うわぁぁん!と悲鳴のような涙を流す三人に敵の声は届かない。
「待て、俺は偽物じゃない。本物だ」
「え?」
「騙されるな!シュペーラー!こいつは偽物だ!」
希望の光が差したように顔をあげるシュペーラーに対し、信じ難い様子のシュタイン。当たり前だ。同士が死んだのだ。だが、そんなシュタインをも頷かせる光景が展開された。
「ア、アイザ!?」
すると、団長の長い足の後ろからひょっこりと死んだはずのアイザが顔を出す。
双子!?…そんな現実的な概念を抱くものは異世界にはいない。
「ま、まさか、死んだアイザちゃんは偽物だったんですか!?」
その言葉に団長のズボンを掴むアイザはこくりと頷く。顔には恐怖の色が張り付いており、その理由は…
「…誘拐されてたの((;゜Д゜)」
大きな双眸に水晶のような涙を貯め、事の経緯を話す。
どうやら銃で打った団長は本物のようで、アイザはダイイム決戦時の夜から入れ替わっていたのだという。サクラファミリアの談話室のロッカーに口にガムテープを貼られ、拘束されたアイザを見つけた団長が助けに来たらしい。
「はぁ…良かった。アイザちゃん、僕は本当に死んじゃったのかと思いましたよ」
「俺もびっくりしたぜ」
「バブバブ〜」とゲオルクがシュペーラーの胸からアイザに抱きつこうと手を前に出す。
「( ͡ ͜ ͡ )」
久しぶりの仲間の顔にホットしたのかアイザは団長の足から二人に近づいた。
「ノブユキは大丈夫なの?」
「あ、あぁ…シュペーラーが治癒魔法を施したから止血はできてるぜ」
シュタインの肩に手をかけている僕を心配そうな顔で覗き込んだ。
そして、翌日。
「えーじゃあ、全く覚えてなかったんですか!?団長の偽物が現れたりアイザちゃんが死んだり大変だったんですから」
「当たり前でしょ(♡`ω´♡)ノブユキは気を失っていたんだから(。>_<。)」
本拠地の食卓を囲むのは団長・沖田さん・フレミングさん…を初めとする『百十字軍』のメンバーだ。ダイイムや星の港と試練を乗り越え、欠員はまだいない。
「そんなに大変だったんだ」
後半意識不明だった僕は朝食であるパンを口にしながら言葉を放った。アイザやシュタインは「ゴブリンのジャム」などという物騒な液体をパンに塗りたくっているが、現実離れできていない僕はパン本来の甘みだけで食していく。
「そーだぜ…お前とアイザが死んだ後、次は俺が殺されるかと思ったもんな」
「でも、二人から聞いたよ(๑❛ᴗ❛๑)私を護ってくれたんだってね⸂⸂⸜(രᴗര๑)⸝⸃⸃…まぁ、偽物だったけど(๑•́₃•̀๑)」
顔を紅潮させながらゴブリン付きのパンを齧るアイザ。確かに、僕が意識不明となったのも彼女を庇ったからだろう。
「僕はもっと強くならなくちゃ」
「それは良い事だ。百十字軍全体の貢献にもなる」
すると、子供達の会話に沖田さんが言葉を挟んだ。「そーですよ、ノブユキくんも剣術を教えて貰ったらいいんですよ!法則者じゃないんですし」
「剣術?」
そう言えば沖田さんと言えば長剣を扱う剣術を得意とする僕と同じ『百十字軍』に少ない非法則者だ。
参考としているキャラクターも新撰組の一番隊隊長の沖田総司だし、剣術については信頼出来る人物だろう。
「人間の僕でもできるんですか?」
「当たり前さ!剣術はいいぞ!法則に頼らずとも使える武器さ!」
法則者に恨みでもあるのか、ミルクを飲み干した後、そう言うのだった。
「やってみようかな…」
「頑張って下さい!応援しますよ」
「俺もたまにお菓子分けてやるよ…たまにだけどな」
「私も戦闘の基礎を教えてあげるわ((o(。>ω<。)o))」
そんなこんなで僕と沖田さんの剣術修行が始まったのだった。
「ふー終わった…」
剣術の修行を初めて数ヶ月後…ある日、僕は衝撃的なものを見るのだった。
「ん?」
目にしたのはドアの隙間から見える団長ガオスとアイザの会話。西日が降りる談話室で二人は会話を重ねる。
珍しいな…仲がいいのか?
二人の関係性に不思議に思いながらも僕は会話を聞かせてもらうことにした。
「はい(*´∀`*)ノこれ、今月分のお薬ね(´∀`)ノ」
お薬?体でも悪いのか?
「…」
しかし、団長は無言。表情一切変わらず談話室のソファーに腰掛け、緩やかな日常を楽しむ。
「最近暑いね〜(๓´罒`๓)♪♪ガオス〜(*≧∀≦*)」
無言を貫く団長に微笑みかける。
…というかアイザの名前呼びは許されているのか?
「*。٩(ˊvˋ*)و✧*。」
無言で返されても俄然笑顔を保ったままのアイザは足をパタパタさせ二人の空間を楽しむ。
「(*˘︶˘*).。.:*♡」
「…」
「(* Ŏ∀Ŏ)・;゛.:’;」
「…」
「❀.(*´▽`*)❀.」
「…ありがとう、〝姉さん〟」
……え?