第七話「星の港ホルトー」
「お前達に任務を与える」
保護隊らしい言葉で僕を初めとするアイザ・シュタイン・シュペーラー・ゲオルク。
団長…ではなく副団長の沖田総司により与えられた任務は「星の港ホルトーの警備」だ。
第二地区に位置するカロンヌ川沿いに発展した港町であり、今夜世界中から貴族が集まり年に一度のパーティが開かれるという。
「なら、その人達を警護するんですか?」
緊張感漂う任務命令時、空気を読まず気ままにキャキャと遊ぶゲオルク。彼を胸の内にシュペーラーがそう言った。
そんな答えの分かりきったことをなぜ聞くんだと思ったが、沖田さんの口から零れたのは180度真逆の言葉だった。
「いや、その人達から街を護るんだ」
「ま、街を護るのか…??」
理解が追いつかないと頭上に?を浮かべるシュタインに説明が投げられる。
「魔人族の貴族は乱暴な者が多いのはお前達も知っているだろう」
…知らなかったんですけど…
「で、でも貴族って…「分かったわ(*´・∀・)*´-∀-)ウン貴族を殺せばいいのね(∩´∀`∩)」
でも、貴族って下手に手を出すと政府とかを怒らせてしまうんじゃ…と言いかけたが僅か五文字でアイザに言葉を覆われてしまった。
側の林檎もプレゼントをもらった子供のように右へ左へ揺れる。
「じゃあ、皆移動を開始してくれ!」
「どうしたんだ?ノブユキ?」
任務を受け、第二地区の星の港(目的地)に行くため僕らは列車の駅前に来ていた。
龍・狼・豚・鳥などここは竜人族
・魔人族が主に生息するらしい。
中には高級そうな衣装を身に纏う者も多く、星の港ホルトーが目的地なのだろうか?
息苦しい程の人混みが右往左往する中、僕はキャンディーを口にするシュタインに尋ねられた。暗い顔色がへばりついていたらしい。
「え?…い、いや…なんでもない」
本当のことをいうとなんでもないわけない。
その原因となった事件は瞳を閉じなくても思い出せる。
「あっ!生きてたのね…!信幸くん…!」
「え…」
事は転校初日。隣の席の少女…ムーン。その名に相応しいブロンド髪の美少女だ。
そんな美少女忘れるわけがない。嫌なことをされても一度すれ違っただけでも、脳裏に根強く残っているだろう。
しかし、初対面であるはずの少女はこんなことを言ってのけたのだ。
「生きていたのね」と
転生する前の友達で偶然僕と同じ世界に連れていかれたという説もあるが、ムーンなんて名前の少女見たことも聞いたことも無い。
また、後から分かったのだが、僕が転生者であることを話すととても驚いていた。
そして、とても悲しんでいた。
まるで、僕が探し人とは違うかのように…
「それってノブユキのドッペルゲンガーと知り合いだったんじゃないのσ( ̄^ ̄)?そのドッペルゲンガーは命の危機に陥っていたんだよ( *๑•̀д•́๑)̀」
と、同時にアイザの林檎が僕の方に近づいてき、同意を促すかのようにこくりこくりと体を動かした。
「…やっぱり、僕のドッペルゲンガーか…って、ドッペルゲンガーって何人もいるの?」
沖田さんや団長に出会ったレインボーストーン国立公園にて現れた僕の分身…
フードを被り怖い顔色の彼は呆気なく団長に殺されてしまったが。
「そーですよ!僕も自分のドッペルゲンガーを二人ほど見たことありますよ!」
「俺は一回だけど学校の友達は四回見たって言ってたぞ!」
ゲオルクを胸に抱くシュペーラーと相変わらずマシュマロを口に放り込むシュタイン。
レインボーストーン国立公園で見た僕と姿形全てが同じ少年。あれが後数人いると考えただけでも恐ろしい。
ここで汽車の汽笛が響く。
ネガティブに支配されそうな思考が一旦途切れた。
「早く\(・Д・)/汽車出ちゃうよ(屮゜□゜︎)屮」
「早く乗ってください!」
一足先に汽車に飛び乗ったアイザ達が思考停止した僕を手招く。
「分かった。今行くよ」
目的地『星の港ホルトー』に着いたのは二時間後。
戦隊モノのようにいつもは専用のヘリや飛行機などで現場に向かうらしいが、今回は団長とフレミングが別件で携わっているようだ。
子供は大人しく子供料金で星の港(目的地)に向かおう。
「わぁー…スゴ───(〃'艸'〃)───ィ豪邸ね( 。º﹏º。 )」
アイザの言う通りカロンヌ川が作る水鏡には黄金色に輝く港町が映り込んでおり、幻想的な気分にさせてくれる。
ワインの名産地として知られるこの港にはおめかしをした魔人族が多く見受けられた。
「バブバブッ!」と幼児ゲオルクもご機嫌だ。
「で、パーティってどこで行われるんだ?」
さっそく店先に並ぶ菓子を口にシュタインはシュペーラーに話しかける。
「ちょっと待ってくださいね」
アイザちゃん、ゲオルク君持ってて下さい。と幼児を手渡すと大きな鞄から地図を取り出した。僕も覗き込む。
「今日は年に一度のホルトー港の創設記念日だそうですから、多くの魔人族がいますね。ここは魔人族の地元ですから、里帰りする人も多いようですね!」
当たりを見渡すとやはり二足歩行する狼やら豚。人間族・天使族・魚人族・悪魔族ゲオルクが目立つ中、同(魔人)種族のシュタインは馴染んで見える。
「シュタインは星の港出身なのか?」
「ん?俺は第五地区出身だぞ?」
第五!?一体どれだけ地区があるのだ。どうでもいい疑問が脳裏を掠めた瞬間、刹那、耳を蝕むような女性の悲鳴が鼓膜を殴る。
そして、大勢の悲鳴や不安げな足音が響くと、人々絵に描いたようにパニックに陥った。
「な、何?(・ω・*≡*・ω・)?」
アイザと林檎が周囲を見渡す。突然の轟音に彼女に抱かれたゲオルクもわんわんと涙を流し始めた。
「何があったんでしょうか?」
「さぁ?見てみようよ」
まだ屋台に並ぶ菓子を買おうとするシュタインを引っ張りながら、着いた場所は記念パーティが行われていた会場。
黄金色のライトが照らすのは真っ赤な血液だった。
「!?」
ち、血…
現実と変わらず真っ赤に僕は目を白黒させる。
目の色が赤になってしまいそうな程、真っ赤な血液が広がるステージに言葉を失ってしまった。
血を口から垂れ流すのは虎の頭を持つ魔人族。高価な宝石を手にはめ、有り余る程の財力が感じられる。彼らは…そう、僕らが戦うはずの貴族。
しかし、惨状を引き起こしたのは貴族ではなく一人の悪魔だった。
これは比喩ではない。黒い角に黒い羽黒い手。ゲオルクも悪魔だが、可愛らしい幼児とは違う…本物の悪魔。
艶やかな銀髪が補色となって漆黒な角を目立たさせる。タトゥーが刻まれた右腕は獣のような手を持っていた。
男は細い手で虎の首を軽々と掴んでおり、見せつけるように死体となった虎を客席にほおり投げた。
客席には観客はいなかったが、どよめきが聞こえる。
「あ…ぅ…あぁ…」
まだ、死んでなかったのか。
呻き声をあげる虎の魔人族。
意識は天国へと足を踏み入れてもおかしくないような出血量だが、魔人族の体力は人間と同じものさしでは測れない。
人間離れした体力で何か言いたげに口を動かす。
すると、二足歩行の虎が寝転ぶ観客席に犯人である男はステージからの鮮やかなジャンプで男の近くに着地した。
「五分だ…五分以内に言わないとお前は死ぬ」
「死ぬ?はなから助ける気などないくせに五分延命するだけだろう!ラッセル!」
その言葉にラッセルと呼ばれた男の口元が歪む。それに合わせて悪魔の羽も広がった。
バートランド・ラッセル
能力名『世界五分前仮説』
説明…世界の時間を五分戻すことができる
「『 説築家』だわ((( ´; Д ;` ;))))」
「説築家?」
聞き馴染みのない言葉に僕はアイザに聞き返した。林檎も空でブルブルと震えている。それほど恐ろしい人物なのだろうか。
「説築家とは仮説を操る人物の総称で、この世界の闇を暴こうとする探偵記者『ヴェルフェム社』所属の人達ですよ!」