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第二話「百十字軍軍団長」

ここは…どこだ…

身体が感じるのは無数の砂の感覚。次に感じたのは熱さ。火傷しそうな熱が脊髄せきずいを中心に襲ってくる。

確か…僕は…

僕こと小田切おだぎり信幸のぶゆきは第十二都市西小学校を卒業したばかりの十二歳。

黒色の癖毛に三白眼が特徴的だとよく言われる。

卒業式帰りのため、窮屈きゅうくつなスーツ姿の至って普通の男子高校生だ。

卒業式の帰り道、突如車道に飛び出した猫を助けようとして…そこから記憶がない。

まさか、死んだのか?

ここは天国…いや、それにしては暑すぎる。

所謂いわゆる、飢餓地獄ってやつに落とされたのか?

現場確認するため起き上がって辺りを見渡してみた。

十時間睡眠をとった休日の時のように頭が痛い。

「…ッ!」

言葉にならない声が漏れる。

陶器のように滑らかな砂漠

拷問の如く照りつける太陽

雲一つない吸い込まれるような蒼穹

ここは…エジプト??

しかし、現実とは程遠い情報が目に入ってきた。

尖った耳が特徴的なエルフ

濁った緑色の体躯を持つゴブリン

滅びたはずの竜の頭を持つ竜人

アニメや漫画でしか見たことがない人種(?)に唖然とせずにはいられない。

「ここは…異世界?転生したのか?」

知らぬ間にどこかに飛ばされた=転生と思い込む少年が多いのもネット小説が普及し過ぎた影響だろう。

転生…?で、でも、なんで俺が…

頭の中がハテナマークでいっぱいになる。

混乱状態を解けないでいると、ふと、目の前に汚らしい中年男が現れた。

「だ、誰だ…?」

「よう!少年、迷子か?」

顎に髭を蓄え、ハエがオーラのように飛び交っていてもおかしくない程の悪臭を放つ男に自然と危なさを感じる。

「…」

「…そ、そんな怖がんなよ」

相手も警戒していることを察したのか、口元に不自然な笑顔を浮かべる。しかし、その笑顔に騙されるのは小学校低学年までだ。

重い足を動かし、いつでも逃げれるようにする。だが、一歩遅かったようだ。

「どわぁっ!」

と、助けを求めるような声をあげようとしたが、不発…

紅白で装飾されたカプセルをモン〇ターボールのように投げ付けられ、視界が真っ白に変わる。

薬品のような嫌いでもない香りが鼻を付き、鼻腔をくすぐる。しかし、全力疾走しているのか無重力空間のようで大変酔う。

ピカ〇ュウも入りたがらないわけだ。

「な、何を…」と叫ぼうとするが、声が出ない。

また、催眠スプレーが流されたのか、意識が朦朧もうろうとしていく…



そして、現在俺は謎の美少女の胸の上にいた。

少女漫画のBOY MEETS GIRLは曲がり角で食パンを加えてぶつかるのが鉄則だが、ライトノベルは一味違う。

「お、お前…な、何してくれてんだぁ?!すぐにどけぇ!」

「す、すいません」

ラッキースケベがヒロインとのコミュニケーションに欠かせないのだ。許してくれ

恐らく、地の文で綴る謝罪の「しゃ」の字も伝わらないが、「ごめんなさい」と口にし、急いで二つの山から身をどける。

顔を紅潮させながら、体についた砂を払う少女をゆっくりと起き上がりモデルもライバル視する程のスタイルを見せつけた。

鋭いエルフ耳に紫紺色の綺麗な髪が降りていた少女に見とれていると、淡い赤のリップが引かれていた小さな口が俺を目掛けて動く。

「お前、名前なんてんだ?」

「え?何で?」

「名乗れと言っているんだ…

「小田切信幸です!」

これ以上黙認を決めると手に持っていた血塗れの刀身を振り回されてしまう未来を読めた俺は素直に名前を名乗る。

「そうか、小田切信幸…お前一緒に来い」

「来いってどこに?」

「『スフリーマントル刑務所』にだ…」

「け、刑務所!?嫌ですよ。そんなとこ」

胸と顔が接触したハプニングを怒っているのだろう。紅潮した頬は怒りか恥ずかしさか…兎に角、彼女は鋭い視線を送ってきた。

異世界は少年法適用されてないのか?!

「ま、待って下さい…僕は被害者なんですよ!?この…男の人に…

と、言いながら視線を人攫いに落とす…

血の花が咲き誇った男の死体を見つめ、顔がどんどん青ざめていくのが自分でも分かる。

「な、なんだ!こりゃ!人が…し、死んでる!?」

初めて見た死体は生々しく、鉄分臭く…そして、呆気なかった。

しかし、少女は虫けらを見るような目で見下すと、退屈だったのか、話題を戻す。

「そうか、お前こいつに誘拐されたのか」

「いや、まぁ、はい…というより、この人どうするんですか?」

「ん?数分すれば〝ヤツら〟が処理してくれるよ」

〝ヤツら〟という言葉に違和感を感じたが、すぐに判明する。今は頭の片隅にでも置いといてほしい。

「はぁ…まぁ、いいや。さっきのことは忘れてやる。お前どこの子だ?私が送ってやるよ」

腰に手を置き、信幸の出身を聞き出そうと、口元を凝視した。

「ぼ、僕は転生してきたんです!」

「て、転生?」

突如、吐かれた二文字を聞き返す少女。これから説明が始まるのか…えっと、確かあのラノベは…

と、転生もののファンタジー小説の説明を思い出すがその必要はなかったらしい。

「転生か…パニック状態の時に人攫いにあったのか…それは災難だったな」

「はい…」

少女の口元に慰謝の色が浮かぶ。同情してくれているのか、二人の間になんとも言えない空気が流れる。

「と、ところで、名前は」

いつまでも少女少女と表現するのもあれだったので、名前を尋ねてみる。すると、思いがけない単語が流れてきた。

「沖田総司だ」

「お、沖田…新撰組の?」

「あぁ、よく知ってるな。本当に転生したのか?」

彼女は現実世界できょうかに載っていることを知らないみたいだ。

疑いの目を向けてくる。

「本当ですって…

訂正に入ろうとすると、ふと、刀剣少女…総司の真後ろに人影が現れた。近づいてきたのではなく、ワープ能力を使ったかのように一瞬にして現れたのだ。

異世界慣れしていない僕は当然目を白黒させる。

俺の異変に気がついた総司は慌てて背後を振り返った。紫紺の髪が弧を描く。

「団長…」

傲慢な彼女には似合わない緊張感が口調の端々に現れていた。

団長と呼ばれた男は三十後半ぐらいの細い身体を持っていた。異世界には毛染の技術が発展してないのか金髪の色が落ちてきている。

目元はサングラスで覆われており、どこを見ているのか分からない。

いやいや、そんなことを記述している場合じゃない!

男は竜のような牙・爪・尻尾を持っていた。

人攫いに連れていかれる前に見た龍のような種族と同類だと思うがはっきりと言える彼らとは違う。

本物の龍を従える脅威がそこにあった。

「総司…任務は終わったのか」

「は、はい。団長」

焦りに駆られて飛び出た声は見事に裏返っていた。

話したことも気も感じれないが、なんとかなく分かる…団長こいつ…ヤバい。

心の声を読まれたのか、ふとサングラスの先の視線が僕をさした気がした。

腰にぶら下がっている拳銃で心臓を打ち抜かれても文句を言えないほどの殺気だ。

緊張のせいか笑顔が引きる俺に男は低いトーンでこう言う。

「何だ…人間種ヒューマリアンか」

「ひゅー?まりあ?」

人名か?マリアン…女性名か?

頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、ご丁寧に説明をしだした。

「お前転生者だな…この世界には十つの種族が存在するのさ。

竜人族ドラゴルニア

魔人族マジリア

天使族エンジェルア

悪魔族デビア

妖精族フェンリー

魚人族マーメルド

死人族ゾソビ

機械族ロボテクス

吸血族ヴァンパニア

…そして、人間族ヒューマリアン


因みに俺は竜人族ドラゴルニアだ」

やっぱり、竜の血が混じっているのか。

ゆらゆらと子犬…にしては痛々し過ぎる尻尾を左右に振りながら、男は口を開いた。

その言葉に俺は人生を変えられることとなる。


「気に入ったぞ。お前『百十字軍』に入るか」

読んでくれてありがとうございます。

ブクマよろしくお願いします。

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