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祝福は降り注ぐ

 魔族との戦いは3日間に及んだ。王都に王国の兵力を全集中させて迎え撃つ総力戦で戦いを挑んだが、準備をしてきた最新鋭の魔法兵器があっても一進一退の攻防が続いた。それでも王国軍の奮戦で、なによりアルバートの部隊が魔王を討ち取ったことによって指揮系統を失った魔族の軍は崩壊し、徐々に王国軍に討伐されていった。

 そしてーー




「さあー!! 祝勝会ですよー!! 今日は飲みまくります!」


 などど私のとなりで大喜びしているのはミーナである。

 私達は現在、王城にある私の個室で二人で飲んでいた。魔族の討伐から半年経ち、いろいろ落ち着いたため、国を上げて盛大なお祭りが行われていた。私も女王としての挨拶や式典の出席を終えて、今はミーナと二人で部屋でゆっくり飲んでいるところだった。

 この子も素のところは昔と変わらないなあなどと思いながら私はグラスを傾ける。


「ミーナ、あなたも女王付きの女官になったんだからそういう素を出すといろいろまずいのんじゃないの?」

「今この部屋はお嬢様と二人なんですからバレませんよ。それに今日ぐらいいじゃないですか。 せっかくお嬢様が頑張ってきた魔族の討伐が成されてようやく皆でそれを祝うことが出来るんですから」

「……そうね、思えば長いようで短かったなあ」


 最初に私があの魔族による破滅を夢で見たのは10歳の日だった。16歳の時に婚約破棄され、領地経営を本格的に取りかかってから10年、いろいろあったがその様々な出来事が一瞬で過ぎていった。酔いが回ってきたのか妙に感傷的になってしまう。


「……今日ぐらい堅苦しいのは無しにしましょうよ、お嬢様はいままで頑張ってきたんですからたまにはいいじゃないですか」

「ミーナ?」


 突然暗い雰囲気になった彼女に私は戸惑いながら声をかける。


「だってそうでしょう。お嬢様はあのろくでもない王子に婚約破棄されてから今日まで必死に皆を守るためにその身を捧げてきたじゃないですか。だから今日ぐらいは甘えていいんですぅ」

「ちょ、ちょっとミーナ、かなり酔っ払ってない!? 見てて思ったけどやっぱり飲み過ぎよ」


 いきなり暗い雰囲気から妙に明るい雰囲気なったミーナに注意するが彼女は止まらず、私をいきなり抱きしめてきた。柔らかい胸に顔が埋もれ、息が苦しい……!


「だから私が甘やかしますぅ! さあ! お嬢様、存分に私に甘えてください」


 そういいながら彼女は私を抱きしめてくる。酔ったせいもあるが力の加減が出来ておらず、もの凄く痛い。なんとか振り解こうとするが力が強く不可能だった。


「むぐぐ……」


 ミーナに抱きしめられた私はしばらくそのまま彼女に身を任せるのだった。



「まったく人を散々振り回した挙げ句こんな手間までかけさせて!」


 愚痴を言いながら私はミーナを部屋まで運んでいた。彼女はあの後、私をさんざん振り回した後に寝てしまい、結果として私が部屋まで彼女を運ぶことになってしまった。まったく女王になんてことをさせてるんだ。

 ようやく彼女を部屋に送り届けた後、自分の部屋に戻ろうとしたところで


「あ、陛下」


 アーノルドとばったり出くわしてしまった。


「アーノルド。どうしたの、こんなところで。夜も更けてきたのに」

「いえ少し外で風を浴びたいと思いまして。陛下こそこんなところでなにを?」

「ミーナと飲んでててね。彼女が酔い潰れたから部屋まで送り届けたの」


 私の言葉を聞いてアーノルドは溜息をつく。


「まったく彼女は……いい加減、女王付きの女官としての自覚を持ってあのいささかあけすけな性格は直して欲しいですね」

「本当よ、まったく」


 彼の意見に私は同意する。今度やっぱり指導すべきだろうか。


「陛下」


 私がミーナについて思案しているとアーノルドが真剣な表情で呼びかけてくる。


「なにかしら? そんな真剣な表情をして」


 彼は冗談などはあまり言わないタイプだ。そんな彼が嫌に真剣な様子をしていたため、私は思わず、居住まいを正した。


「よろしければその……少し私とご一緒してもらえないでしょうか?」


 気のせいだろうか、彼の頬が少し赤く染まっているように見える。だがそれは彼の誘いを断る理由にはならない。


「ええ、いいわよ。それじゃ風に当たれる場所を探して少しゆっくりしましょうか」



 二人がやってきたのは王城の最上階だ。5階層になっているこの城の最上階からは王都の様子が一望でき、私も好きな場所だった。


「綺麗な景色ね」


 王城での催しが終わった後も、街では祭りが続いている。夜ももう遅いが様々な店が未だに賑わっていた。


「そうですね、ここからの景色は本当に綺麗です」

「半年前には魔族に攻められて大決戦を行った場所だなんて信じられないわ」

「あはは……時の流れは本当に早いですよね」


 こんな風に他愛のない会話が出来る。それがなにより素晴らしいことだと私はあの戦いを終えてより強く実感するようになった。


「そういえばさ」


 感傷に浸っていた気分を無理矢理引き戻し、私は気になっていたことを尋ねる。


「私とご一緒したいって言った理由はなに? 凄く真剣だったみたいだけど」

「ああ……その件ですね」


 彼は私が尋ねるとこちらを向いて、少し言いにくそうな様子を見せてから緊張した様子で告げた。


「……私と婚約して頂けませんか。陛下」

「えっ……」


 彼の思わぬ申し出に私は一瞬硬直してしまった。


「どうしていきなりそんな」

「すいません、驚きましたか?」

「驚いたわよ。ずっと一緒にいたあなたからそんな申し出が出るとは思わなかったの」

「ははは……」

「ねえ、どうして私なの? 今のあなたは魔王を討ち取った大英雄となり、爵位も公爵を与えられているわ。もう私に入れ込む必要ないのよ」

「逆ですよ、そういった地位や名誉を手に入れたからこそ気持ちに正直になってあなたに婚約を申しでることが出来る」

「……好きだったのはいつからだったの」

「……あなたにお会いしてお仕えした時からずっとですよ。でも使用人と公爵家の令嬢じゃ身分が違い過ぎた。けど今なら……きちんとした身分も地位も手に入れてあなたの役に立てた今の自分ならあなたと一緒にいることが出来る」


 そうして彼は今まで私が悩んできた時にそうしてきたように私の手を取り、跪いて


「私はあなたにすべてを捧げます。どうか私をお側に置いてください。仕える身ではなく、対等のパートナーとしてこれからはあなたの行く道を一緒に支えて生きたい」


 私に許しを求めるように願いを口にした。


 その彼の手を取って私は彼の願いへの答えを告げる。


「はい、喜んで……!」


 声に含まれる喜びが押さえられない。こんなに嬉しいと感じたのはいつ以来だろう。思えば彼は私が婚約破棄された後、私が大事な決断をする時にずっと側にいてくれた。

 だから今度は私が彼のその気持ちに応える番だろう。今まで彼が側にずっといてくれたことになにも返せていないから。だから頑張って彼の気持ちに応えたい。

 しばらく周りが静寂に包まれ、穏やかな時間が流れる。その後、互いに見つめあうとそっと口付けを交わした。

 その二人を祝福するかのように祭りの中で打ち上げられた花火が夜空に大輪の花を咲かせた。

 ここまで読んで頂きありがとうございます! 

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