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国盗り

 そこからは執務に追われる日々だった。まずは領地の兵力の強化、魔法を用いた強力な兵装の開発、貨幣の改鋳及び公共事業による経済活性化等、とにかく領地の経済力と軍事力の強化を行う政策を行った。

 領民からなるべく反発を招かないように税を上げて軍事の費用を賄うことはせず、経済を活性化させて税収を増やしたり、足りない場合は公債の発行といった方法をとった。領民は自分達の所得が大幅に上がっため喜んだ。


 そしてレイラがローゼンベルク領の政務にた携わるようになってから5年ほど経った現在ではローゼンベルク領はネールランド王国にあるどんな領地よりも豊かになっていた。

 しかし、それをよく思わないものも多数存在した。その筆頭があの第一王子である。



「ローゼンベルクめ。王家を差し置いて自分の勢力拡大に走るとは何事か!」


 ヨハン王の怒声が部屋に響き渡る。横にはレイラに変わって婚約者となったゾフィーがいた。ヨハンは学園を卒業した後に正式に王位を継いだ。今は王としてネールランド王国を治めている。ゾフィーも正式に王妃となっていた。


「陛下、落ち着かれてください。あまりそういう様子を見せては威厳に関わります」


 ゾフィーがたしなめるようにヨハンを注意する。


「ゾフィー、お前までそのように申すか!」


 しかしヨハンはそのゾフィーにまで怒りを向ける。その様子は人の話しに耳を傾けない暴君その者だ。


「なぜ皆ローゼンベルクを擁護する! あの家の力はすでに王家の力を上回る程になっているのだぞ! それを誰もとがめない、皆、王家への忠義はないのか!」


 そのヨハンの様子を見てゾフィーは溜息を付く。この王は自分の振る舞いが結果的にローゼンベルクに味方を増やしてきたことに気付いていない。

 レイラを婚約破棄したあと、ヨハンは王として政を行ってきた。しかしこの傲慢な性格が災いし、良心からヨハンを諫めようとしたものは彼の周りを去っていった。

 そうして残ったのは王族の威光を利用しようと集まってきた者達ばかり、行う政策も彼らを利するものばかりで王国民の生活を高めるものにはなっておらず、民衆の不満は高まっていた。

 今の彼を諫めるものはお人好しのゾフィーくらいしか残っていなかった。


「しかしヨハン殿下、ローゼンベルクはあくまでこの王国のために動いています。自領だけではなく他領にも様々な援助をし、王国全体の底上げする行動をしているものにその言葉はいかがなものかと思います」


 それでもローゼンベルクが実際に行ってきた行動を元に根気強くヨハンを説得しようとするゾフィー。

 しかし今のヨハンにとっては先程の彼女の言葉はローゼンベルク、特に今ローゼンベルク領の政策の指揮を採っているレイラの擁護にしか聞こえなかった。


「もうよい! 小五月蠅い女め! 貴様もここから出て行け! 揃いも揃って私を理解せぬ愚か者どもめ!」

「へ、陛下……! どうかお許しください!」

「元々貴様はレイラとも仲が良かったな。さぞあの女を庇いたいのだろう。よい、存分にそうするといいさ。ただ……その場合はお前とも敵対することになるだろうがな」

「それは……どういうことですか」

「簡単だ。俺はこれからローゼンベルク領を攻める」

「!?」


 ヨハンの言葉にゾフィーは言葉を失う。


「で、陛下! それは本気でおっしゃっているのですか!? そんなことを皆が認めるとでも!?」

「認めるとも。私が正しいといえば何事も白になるのだ!」

「!?」


 根っからの善人であるゾフィーもヨハンのこの言葉に絶句する。そんなゾフィーを無視してヨハンは言葉を続ける。


「罪状はそうだな、王家への叛意ありとでもしようか。ただちに討伐せよと各地の貴族達に呼びかける。ああ、ゾフィー、お前はどこにでも行けばいい。ローゼンベルクへ味方するなら貴様も殺すまでだ」


 ヨハンのその言葉を受けてゾフィーは部屋から逃げるように飛び出した。



「お嬢様、紅茶をお持ちしました」


 扉を開けてミーナが私の執務室に入ってきた。彼女の持ってきた紅茶の香りが鼻孔をくすぐり、緊張が解ける。


「ありがとう、さっそく頂くわ」

「どうぞ~」


 ミーナが上機嫌な声で私の目の前に紅茶とお菓子を置く。私は執務の疲れもあったので早速、休憩に入った。


「ミーナが入れてくれる紅茶はおいしいわね。 いつもありがとう」

「いえいえ~、こんなことでよければいくらでも申しつけてください~」


 ミーナは私に褒められたのが嬉しかったのか上機嫌だ。


「ほら、ミーナもこのお菓子食べなさいよ。 とてもおいしいわよ」

「え? いや、いいですよ。 そのお菓子はお嬢様に出すためのものですし」


 などと二人でじゃれ合っているとアルバートが血相を変えて飛び込んできた。


「お嬢様、大変です!!」


 彼のただ事ではない様子に私は頭を切り替え、話を聞く。


「どうしたの? そんなに血相変えてなにかあったのかしら?」

「ヨハン殿下がローゼンベルク家に叛意ありとして討伐すると宣言したそうです」

「!? 王都にいるお父様は無事なの!?」

「なんとか王都を脱出してこちらに向かっているらしい。アーライム伯爵の娘が知らせてくれたおかげで逃げられたようだ」

「ゾフィーが……感謝しかないわね」


 現在父は当主の座を退き、私にその地位を譲って王都で様々な交渉を担当していた。

 そのため普段は王都にいることが多い。今回のようなことになった場合、真っ先に狙われるため知らせてくれたゾフィーには大きな借りが出来てしまった。


「こちらを攻める大義名分は何?」

「近年、ローゼンベルクは発展著しい。だがその発展の成果を軍事力の拡大に使い、王家を打倒しようと画策しているからだと」

「……ほとんど言いがかりに近い理由ね」

「とはいえローゼンベルク領が力を付けすぎたのは事実でしょう。今やこの領地は王国のその他の領地よりも豊かで防衛力もありますから。 あの現王にとって潰したい相手なのは間違いないでしょうね」

「まあ言いたいことは分かるわ。にしても性急過ぎるでしょう」

「ヨハン王は焦ったのかもしれません。ローゼンベルク領が急激に力をつけて影響力を持ったために王家の地位が脅かされるとでも考えたのでしょう。だから難癖に近い理由を付けてでも今回討伐という行動を選んだ」


 アルバートの話が終わると私は盛大な溜息をついた。


「本当、あの王様には困ったものよね、自分勝手な理屈で他人を振り回して」


 自分があの殿下の我儘で婚約破棄をされたのを思い出だしながら、私は溜息を吐いた。


「これからどうしますか?」


 アルバートが今後の方針に付いて私に指示を仰いでくる。


「そうね、ここまで来たらこちらに進軍してくるのを阻止するのがいいと思うわ」

「やはり戦うのですね……」

「ええ、こうなったらもうやるしかないわ。至急兵達に戦闘の用意をするよう伝えて。領地全体で防衛戦を行います」

「かしこまりました」


 彼はそういうと部屋を出て行き、私の指示を実行するために動きだした。


「ついに来たか……」


 私は天井を見上げながら呟く。その声にはどうしようもなく疲れが滲みでていた。


「お嬢様……」


 ミーナが不安そうな表情で私を見る。私は彼女を不安にさせないように微笑みかけ、言葉をかけた。


「大丈夫よ、ミーナ。ここまで強引なやり方を本当にしてくるとは思っていなかったけどこちらは数でも兵装でも向こうよりすでに強くなっているしね。もう私も遠慮はしない、存分にやらせてもらうわ」


 そうして椅子から立ち上がり、高らかに宣言する。


「さあ、国盗りを始めましょう」

 ここまで読んで頂きありがとうございます! 

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