逆転
「いや、だって、、
俺にそんな手紙が届くなんて思ってもみないし。中学でも。小学生のときも。
はたまた幼稚園時代も。告白はおろか、手紙だってもらったことないもの」
「こんなに濡れたんじゃ教室戻れないよ」
「今日は授業サボって家に帰ろっかな。
山吹ん家、遊びに行っていい?
シャワー貸してくんない?」
「わざと濡れた?」
俺はふと。そんな質問をしてみた。
それから続けて。
「にしても。何で俺なんかにラブレター送ったのさ?」
「高校受験の日。高校近くの横断歩道でこけて、
骨折した
私のおばあちゃん、助けてくれた男の子。
高校入学して三ヶ月...私ね、漸く見つけたの...」
「ボサボサの髪の毛に。
横長の黒縁眼鏡。そんでもって。
白い肩掛けカバン...
んでもって。
声はまだ、声変わりしてないよーな、高い声」
「おばあちゃんに拠れば。
手掛かりはこれだけ。。」
「それさ、山吹シンジくんだよね?
おばあちゃん背負って、病院行ってたから受験当日、
少し遅れてきたけど、それでも尚、
合格するほど頭よかったって男の子...
色んなひとに聞いたらその返事だけど」
「今は眼鏡じゃなくて、あなた、コンタクトだから。
なんか、いまいち山吹くんか確信もてなかったけど」
「高校入学後にコンタクトにしたのね、、」
「あー、俺なりの高校デビューってやつでさ...」
「頭いいって話なのに、なんでいま、
最下位なの、、、?」
「ゲームに夢中になってるからかな」
「ふーん。ところでさ。ボサボサの髪の毛も短くしたら?
カッコよくなるんじゃん?」
「カッコよくなるかな...?」
「そうね。ツーブロックとかにしたら
藤島くんよりカッコよくなると思うけど」
「そ、そうかな...」
「俺的には。藤島くんの方がカッコいいと思うけど...」
「それはないわ。
えーとね、私の大好きなおばあちゃんから、
もうひとつ情報聞いてるんだけどね...」
「私が藤島くんを振った理由はちゃんとあるの...」
「え」
「彼ね、私のおばあちゃんが道で狭心症の発作を起こして蹲っていたとき。
邪魔だ、クソババア!ってポケットに手をつっこんだ状態で暴言吐いたの。
私のおばあちゃんだと知らずにね...」
「県下トップの進学校の制服。
アイドルみたいな男前顔。
長い足。身長175センチ超え。
右目の下に二連のほくろ」
「その男。てか、藤島くんね、
流石に蹴飛ばしはしなかったけど。
そそくさと見て見ぬふりして、いなくなったわ。
その時は
ランニングしてた男の人におばあちゃんは
助けられて、救急車で運ばれてことなきを得たけど。
一歩間違えたら死んでたって」
気付けば雨は止んでいて。
マドンナと一緒に校舎から出たら、
虹が出てた。
「手紙にはなんて書いてあったの?
一度も読んでなくて悪いんだけど...」
「屋上に来てください。
話したいことがあります、かな」
「ふーん...」
「おばあちゃん、あなたのこと、
滅茶苦茶気に入っちゃってさ...」
「彼氏にするなら、あの男の子がいいわよ、って」
「あの男の子なら孫の旦那にしてもいいんじゃないか、って、、」
「うわぁ、、気が早いよ...」
結局のところ。
俺も学校をサボり家に帰った。
彼女はシャワーを貸してくれと
言ったけど。
また、今度でいいやということになった。
それより先に。
俺は彼女のおばあちゃんに挨拶をすることになった。
「...でかい家だね...」
着いたよと言われて見上げたマドンナの
家は。
「うーん、まぁ、そこそこね」
そこそこ、なんて言葉、通り越すほど
大きくて。
そういえば。
橘さんは財閥令嬢だという噂も聞いたことがあったが。
どうやら本当らしかった。
おばあちゃんは、厳格な感じのする人で。
それでも、もう足は弱ってるから
杖をついてた。
「あの時はありがと。本当に助かったわ」
「受験、遅れてしまってすまなかったね...」
「いえいえ、なんとか受かったので大丈夫でした...」
あの日。俺は
逃げるように別れてきた。
「あなた、名前は!?」
診察室まで届けて。
俺はその声を背中に受けたけど、、
「き、今日、高校受験なので
これで!」
と整形外科クリニックを後にしたんだ。
「ところで、
ヒナタの彼氏になってくれるのかい?」
「あ、いや、その、まだ、、」
俺がもごもごしてると。
マドンナが勝手に、
「うん。将来の旦那様候補だよ」
ととんでもないことを言い出した。
「まぁまぁ!それはそれは...!」
応接の間?みたいなとこで。
俺は硬直した。
「あ、いや、俺なんかより、
もっと頭良くてかっこいい人のがいいですよ、、その、ヒナタさん、お嬢様ですし、、」
「あら、、!ゲームばかりしてるし、
使用人の調べによると、
家から学校まで遠いから疲れて勉強できないんですってね?どうかしら、、
ヒナタと学校近くで同棲するっていうのは?」
「私、マンションの家賃や、光熱費、
出してあげるわよ!」
「おばあちゃん、それ、いいね!」
「ええええええ」
話は。
そんな風に飛躍して。
俺は同棲を余儀なくさせられた。
翌々日のこと。
俺の下駄箱に手紙が入れられた。
裏を見ると。
差出人のところ。ヒナタより、の文字。
俺はすぐ下の下駄箱に入れたりはしなかった。
ピリリと破き、
中を確認する。
学校に程近い高級タワーマンションの名前。
507号室の文字。
そして。
「マンション借りたよ。
17:00には私、行ってるから。
それと、合鍵入れとくね」
「みんなには同棲のこと内緒だよ」
上履きのなかに。
合鍵があった。
陰キャな俺。
みんなに内緒で、
マドンナと同棲してる。
え、羨ましいって?
最も。
ゲームは禁止されており。
俺は勉強に勤しむ毎日だった。
勉強、ときどき、彼女とイチャイチャ。
毎日が目まぐるしく過ぎていく。
土曜日の昼下がりのできごと。
「真面目に勉強してよね?
いずれは次期社長候補なんだからさ...!」
「ひぇー」
ゲームをやる時間など皆無で。
「勉強疲れたでしょ?じゃ、ベッドでイチャイチャしよ?」
「イチャイチャしなくていいから、
寝たい...おひるねしたい...」
「んんんもー!あっまーい、私をとろけさすよーなキスとかしたら思う存分寝ていいよ?」
それ、俺的に。
難易度が高くてつかれる件。
だって、どーやってやればいいかわからないもん。
同棲生活2日目にして。
俺は無理矢理ダブルベッドまで連れて行かれ。
ただの添い寝の仲からの、発展を余儀なくされた。
しかも。ハードルの高いやつ。
とろけるよーな甘いキスだって。
そんなの、、二項定理より難しいだろっっ。
「ん!」
「う、うまくできるかわかんないんだからね」
て、適当に舌絡ませときゃいんじゃね?
俺は軽く考え、彼女と初キスをする。
「ふぁ、ファーストキスなんだからねっ、
ちゃんとやってよ!」
「え、そーなの!?意外、、」
「恋愛には厳しかったの!家の都合上、、!
おばあちゃんは自分の気に入ったひととしか
付き合っちゃいけないって孫の私に、口を酸っぱくして常日頃言ってたし」
「お嬢様は大変だ...」
そんな呟きをしてたら。
俺はベッドに押し倒された。
ふつー、男が押し倒すもんなのに。
逆だった。
キスをしかけてきたのも、彼女だった。
「んっ...ん...」
あっまい吐息?が漏れてるから多分これで
いいんだと俺は自分を納得させた。
2分くらい経って。
ヒナタが俺のおでこに手を当てて
いう事には。
「ふと思ったんだけど、シンジくん、おデコ、出した方がイケメンに見えるんじゃない?」
「え」
「ちょっとやってみよ....」
目をキラキラさせて。
俺の額に手を当て、一気に前髪をうしろへと引っ張った。
「あ、ヤバイ...」
「お、男前じゃん!!」
「明後日からさー、前髪オールバックにして
登校してよ!絶対カッコいいって、きゃーきゃー女子から言われると思うわ!」
「そ、そーかな...」
「人生初のモテ期がくるかな、、」
「きちゃうと思う!カッコよくなったら私の彼氏なんだ、って堂々と自慢できるし、、あーでも、誰かに取られちゃったら嫌だなぁ...」
「でも、イケメンの横、歩けてたら
私、嬉しいし、、」
「残念ながら小柄だからね、俺...」
「でもさ、うちら女子よりはちゃんとデカいじゃん」
翌翌朝。
俺は髪の毛をヒナタにバッチリセットしてもらい、オールバックになっちまった。
「陰キャなのにオールバックって...」
「もー卑下しないでよ!もう陰キャじゃないわ!
陽キャよ、陽キャイケメンよっ!」
一緒に並んで登校。
学校は目と鼻の先。
短い時間で登校できるのだが。
周りのみんなは。
見た事もないイケメンがいるので、
きゃいきゃい騒いでた。
「え、ちょ、誰!?」
「うちの学校にあんなイケメンいた?」
そしてやがて気がつく。俺のクラスの女子は。
下駄箱に来て。
そのイケメンは俺、山吹シンジだということを。
モテモテの藤島くんのすぐ上の下駄箱。
手紙に関しては空っぽの下駄箱。
上履きしか入ってない下駄箱に手をかけ、
上履きに履き替えた。
「や、山吹くんじゃん...」
「うそー、超かっこいい。
前髪かきあげたらイケメンとか反則でしょ!」
ヒソヒソ声。
女子のヒソヒソはヒソヒソじゃない。
滅茶苦茶よく聞こえる。
かっこいいなんて生まれてはじめて言われたし。それに、イケメンなんて、
言葉、俺には生涯、無縁だと思ってた!
「前髪をオールバックにしたら男前」
そんな今の俺を端的に表したキャッチーなフレーズが学校中をかけ巡った。
たった1日で。
その次の日。
とんでもない事が起きる。
場所は下駄箱。
「お、俺の下駄箱のなかに、
た、大量の手紙が届いているんだが、、、」
その現場をヒナタに見られ、
「ヤバイ...!男前にするんじゃなかった、、
ちょ、前髪、シンジ、前髪下ろしなさいっっ」
「え、ちょ、折角セットした前髪を、
ぐしゃぐしゃにするとかやめてよ...!!」
「これでよし...!シンジは学校では、
前髪下ろしてて!」
「家では後ろに流す感じで...!」
同棲を始めて、
暫く経ってからの定期考査で。
勉強ばっかさせられてた俺は。
学年一位になってた。
藤島くんは。
俺に抜かされて滅茶苦茶病んでた。
廊下にて。藤島くんの悔し泣きを見た。
「くそっ...!クソォっ...!!
何で俺がカースト最底辺に負けなきゃいけねぇんだよ、カンニングじゃねぇのか...」
断じて俺は。カンニングはしてない。
ラブレターの量も、
順位も。
気が付けば逆転してしまっていて。
今、俺は前髪下ろしてるけど、
モテ期の最中にいた。
一度、オールバックで登校してしまってるから、やっぱ、見た目陰キャ寄りに振っても、
もう遅かった。
いつだって俺は手紙が
届いていたら、
すぐ下のモテモテハーレム主人公さまの
藤島くんに届けていたが。
今はもう。
そんな事はしなくなっていて。
自分に自信がついた俺は。
やきもちやきのヒナタに内緒で。
自分の勉強机の1番下に。
貰った大量のラブレターを大切に保管...
あ、正確には隠しているのでした。
文章量バランス、おかしいですが、
読んでくれてありがとです!!
★★★...!
もしよかったら
お願いしますー。




