第 6 話 入隊!
日ノ本特務機関 江戸総本部――
「クソッ!
あの小さいおっさん、今度会ったらぶっ殺す!」
顔をパンパンに腫らしたサスケが小声で言った。
「無駄だ、ありゃ化物だ。
オラ、あんなのに勝てる気がしねぇぞ」
同じく顔を腫らしたムサシ。
二人は、クロガネにボコられた後、治療の為に日ノ本特務機関 江戸総本部に連れてこられ、待機するように言われた。
部屋にあった椅子に腰かけ大人しく待つムサシとサスケ。
「ムサシ、お前、悔しくないのかよ!」
「だからって……」
煮え切らないムサシ。
その態度ににイラつくサスケが、何か言いかけたのだが、ムサシが手で制した。
「シッ!
誰か来るだ、サスケ」
サスケは、ドアの方に視線を移す。
コンコン…
「入るよ」
女の声。
ムサシとサスケが声に反応して、ドアの方を向く。
ガチャッ
ドアが開き、胸の大きな女が入ってきた。
女は、クロガネ達と同じ制服を着用し、治療箱を手にしている。
胸の大きな女性にサスケがほっこりしかけたが、女の後ろの人物を見てテンションが下がった。
ムラタ、そしてクロガネである。
「お、おい、サスケ、あれ」
テンションが下がるサスケにムサシが声をかける。
「なんだよ?」
「ほら、あれ」
サスケがムサシの視線の先を見ると、クロガネの手に自分達の武器が握られていた。
女が、ムサシの前で、覗きこむようにして傷の様子を診る。
ムサシはおっぱいが当たって苦しいなと思った。
サスケは、羨ましい! 早く俺も! と思った。
「こりゃまた、酷くやられたねぇ。
もう、クロガネ。
あんた、子供相手に大人げないよ」
ムサシとサスケの怪我の様子を診ながら、クロガネに意見する女。
サスケは、もっと言え! 反省しろ、小さいおっさん! と思った。
当然、怖いので声には出さない。
「カエデ、こいつ等が大人しくやられないからだ」
クロガネが椅子を持ち二人の前に置くと、そう言って腰かける。
この野郎! と、ムサシとサスケが顔をクロガネに向けるが、目が怖かったので、直ぐに視線を外した。
「それでも……
二人とも痛かったでしょう?」
カエデが治療箱の中から何やら出して、ムサシの傷に塗り始める。
「カエデさん、この子達が思いの外、腕がたつものですから、隊長が本気になってしまったんですよ」
ムラタがクロガネを擁護しようとした。
「ムラタ。
ガキ共が、やるのは本当だが、俺は、本気なんか出しちゃいねぇ。
……少し、ヤバかったけどな」
クロガネに言われて、肩をすぼめるムラタ。
ムサシとサスケは、クロガネに殴られ蹴られたのを思い出し背筋が寒くなった。
こっちは、武器を持っていたのに、素手のこの男に手も足も出なかったからだ。
「あのね、当たり前でしょ?
あんたが本気で向かったら、この子達死んじゃってるよ」
呆れたようにカエデが、治療を続けながら言った。
サスケは、生ぬるい! もっとあの小さいおっさんに抗議しろ、女! と思った。
そして、治療を受けつつクロガネを睨む。
「おい、ガキ共」
クロガネの声にサスケは高速で視線を外す。
僕は睨んでなどいませんと言わんばかりに!
「お前達は、何者だ?
ガキの癖に…… 強すぎる」
ムサシを刺すような視線でみるクロガネ。
「お、オラは、屍を倒す為に特務機関に入ろうとやってきただ」
ムサシが身を乗り出すように答えると、クロガネはムサシの刀を前に突き出す。
「それ、オラのだ!」
「この刀……
何故、これをお前が持っている?」
ムサシの刀を手に、聞いたクロガネ。
「爺様にもらった、オラの刀だ。 返して欲しいだよ」
「爺様?」
「オラに修行をつけてくれた、爺様だ」
「返してあげてくださいよ。 そして、俺いや、僕の刀も返してくださ…… ヒッ」
横から口を出したサスケだが、クロガネに睨まれ黙った。
「そういう事か、お前等……」
ムサシとサスケを値踏みするような視線のクロガネ。
不安なムサシとサスケは互いの顔を見合わせている。
「ムラタ。
補充要員としてコイツ等を俺の隊に入れる。
後…… そっちのお前。
お前は、ロクな事を考えない。
相当教育が必要だろう」
「何で俺!」
睨まれたサスケが抗議するが、無視された。
「いいんですか? 新人を入れて」
ムラタが心配そうに聞く。
「なんだ? 上には俺が話を通しておくが問題でも」
クロガネが答えたが、
「ムラタが言ってるのは、新人君を入れても役に立つのかって事でしょ?」
ムサシとサスケの治療を終えたカエデが、クロガネの方を向く。
「カエデ…… こいつ等は、俺とやり合って死ななかったんだぞ」
「本気じゃなかったんでしょ?」
キョトンとした表情のカエデ。
「最初はな。
後半、少し本気を出してみた」
アレで、少し! どんだけ化物なんだお前は! と、ムサシとサスケはクロガネを見る。
「だが、こいつ等は生きている。
その事で、こいつ等の力の証明は十分だろう?
今でも並みの隊員よりも強い。
こいつ等を他の隊に取られる前に、俺達が確保する。 いいな?」
その言葉を半信半疑で聞いていたカエデとムラタだったが、クロガネがそこまで言うのならと、何も言わなかった。
「それじゃ、俺は上に話をつけに行くから、お前達は、はガキ共に説明を頼む」
話は終わりと、クロガネがムサシとサスケの武器を持ち席を立つ。
「もう、勝手だねぇ」
カエデの声を無視して、クロガネは部屋を出て行った。
「……」
「……」
呆然とするムサシとサスケ。
自分達の意思とは無関係に話が進んだのだ。
呆けるのも無理は無いだろう。
どうしてこうなった?
兎に角、二人は、ただただ意味が解らなかった。
「良かったな、お前等!」
大きなムラタの声に、我に返るムサシとサスケ。
意味が解らないが、二人は顔を見合わせる。
意味が解らないが、特務機関に入る事が出来そうだということは理解した。
「あんた達、良かったの?
相当気合を入れないと、致死率高いよ、この仕事」
カエデは、念願の特務機関、それも実行部隊に入れることに有頂天の二人に声をかけた。
◇◇◇
日ノ本特務機関 クロガネ小隊 詰所――
「日ノ本特務機関は、表向きはトクガワ家の預かりとなっているが、朝廷、つまり日ノ本国の直轄機関である。
戦国時代以前に設けられ、国家の安定の為に諜報、暗殺などを秘密裡に行ってきた。
出資者の一つである、トクガワ家の江戸幕府が現在、国家の運営に当たっている為に歩調を合わせているに過ぎない」
教育指導室にて、教官がムサシとサスケを含む新人に指導を行っていた。
「化物達を駆除する事を目的に設立された日ノ本特務機関には、大きく3つの部署がある。
・情報収集部
日ノ本国にある各国での情報収集を行う部署だ。
屍の情報収集の他、幕府が安定する為に、各国で謀反の芽を潰す目的もある為、トクガワ家の隠密部隊との共同戦線を張る事が多い部署だ。
・治安維持部
国家に対し反逆を企てる者の暗殺等を行う。
また、この部署は機関内の秩序の維持の為、不正や著しく隊規を逸脱した行為を働いた場合、その隊員を殺しにくるからな、皆、殺されないように気をつけるように!
・実行戦闘部
各地で発生した屍等の対化物の実行部隊の部署であり、お前達がいるところだ!
次に――」
・
・
・
クロガネの昇進に伴い、他の分隊を合流させ、さらに新人を追加した30名規模の小隊が編成される事になった。
指導が終わり、クロガネ小隊 カエデ分隊に配属されたムサシとサスケは、分隊室へと移動する。
分隊室(カエデ分隊)――
隊長 カエデ(女性)20歳
ジョブ、サムライ
使用武器、薙刀。
身長 175㎝ 体重 ??㎏
おっぱいがデカい。
以前、クロガネと同じ分隊にいたが、分隊長としてクロガネ小隊に入った。
副隊長 黒龍山(男性)25歳
ジョブ、スモウレスラー
使用武器、バトルメリケンサック
身長 190㎝ 体重 140kg
九州。
暗黒地下相撲で強すぎる為、黒相撲協会から暗殺されかかったところをクロガネに救われた男。
サスケをビンタした。
隊員 ムサシ(男性)15歳
ジョブ 自称サムライ
使用武器 刀
身長 152㎝ 体重 45kg
オラ。
パッとしない主人公。
隊員 サスケ(男性)15歳
ジョブ ニンジャ
使用武器 忍者刀、暗器各種
身長 165㎝ 体重 50kg
詐欺まがい。
口先だけかとおもいきや、そこそこ強い。
隊員 サツキ(女性)15歳
ジョブ ゲイシャ
使用武器 鉄扇
身長 150㎝ 体重 40kg
多機能。
小さい彼女には秘密が……
隊員 ハシモト(男性)18歳
ジョブ ノウミン
使用武器 鎌
身長 170㎝ 体重60kg
農家。
暴れ農法の達人。
隊員 マキノ(女性)18歳
ジョブ サムライ
使用武器 刀
身長 160㎝ 体重 45kg
空気。
代々続く剣術道場の娘。
それ以上でもそれ以下でもない。
隊員 カネミツ(男性)17歳
ジョブ ショウニン
使用武器 算盤、弓
身長 155㎝ 体重 60kg
商人。
サスケに怪しげな話を持ってくる人。
隊員 アレク(男性)19歳
ジョブ 騎士
使用武器 剣
身長 180㎝ 体重 80kg
言葉ペラペラ。
ある人物を追って、海を渡った白色系外国人男性。
隊員 ジム(男性)
ジョブ 傭兵
使用武器 部族の槍
身長 190㎝ 体重 100kg
足が速い。
黒人の父親と母親が宣教師の奴隷として日ノ本に連れられてきたが、その宣教師に母親が手籠めにされそうになり、逆上した父親が宣教師を殴り殺した為、母親と逃亡した。
その息子。
「なんか、濃いメンバーだな、おい!」
部屋の中にいる者達を見て、サスケが大きな声を出した。
「どうしただ、サスケ?」
いきなり叫んだサスケに慌てて声をかけるムサシ。
皆がこちらを見ているので気が気ではない。
「ちょっと! あんたら、遅いわよ。
弛んでるんじゃない?」
サツキがムサシに向かって言った。
「すまねぇだ。
ほら、サスケ、兎に角早く着席するだよ!」
周りの人にペコペコしながら、サスケの手を引いて席に着いた。
隊長であるカエデの表情から機嫌が悪いのがうかがえる。
遅れてきた自分達のせいかとムサシは、申し訳ない気持ちになった。
( 明らかに、私の分隊に問題児を集めてくれたわね…… )
着席した分隊員達を眺め、カエデは思った。
ジョブがゲイシャって普通なら情報収集部所属でしょ?
日ノ本人では無いのがいるし……
カエデは頭を抱えそうになる。
しかし、カエデは持てる駒を使い、分隊長としての責務をこなさなければならないと自らの意識を改める。
そして、息を大きく吸い、そして吐いて落ち着くと、顔をあげた。
変なのを与えられたと嘆くのは簡単だ。
だから、どうだと言うのだ?
大丈夫だ。
この人材を生かすも殺すも自分次第。
むしろ、個性的なこのメンツであれば、他の分隊などより、多大なる戦果を得る事も可能ではないか!
現実逃避に近い考えをするようにしようと、カエデは思った。
「諸君、カエデ分隊へようこそ!」
カエデが着席する隊員達に言った。
使えそうなのは、副官とハシモト、アレクにジムの3名。
次点でマキノくらいかと値踏みする。
他の者は、精々肉の盾として有用するとして……
「先生! オラは、屍をくちくするだ!」
問題児が立ち上がり、元気に発言した。
「はい、ムサシ。
意気込みは理解しましたが、私は、先生ではありません」
ムサシは、大人しく着席する。
「はい、先程、お前達が受けた講習で教えられたと思うが、私達が相手をするのは屍だ!
マキノ、屍とはなんだ?」
この部屋の中でまともそうな人物に話を振るカエデ。
「屍とは、死せる者であり、人を喰らう者達です」
マキノの答えに頷いたカエデが続ける。
「そうだ。
そして、奴等に襲われた者も屍となり、人を襲う」
「それは許せねぇ事だ!
どんどん、敵が増えちまう!」
ムサシが立ち上がり憤り言った!
サスケは、お前が言うかと思ったが、黙っている。
「屍によって屍にされた者は、自我の無い屍に。
そして――」
「鬼によって屍にされた者は、自我を持つ屍になる。
よって、俺達は、元凶である鬼を駆逐しなければならない。 ですよね?」
アレクが言った。
「あ、ああ、その通りだ。
だが、奴等は用心深く周到だ。
何人いるかも何処にいるのかもわからない。
私達は、後手後手だよ。
現れた屍に対処する外ないのが現状だ。
だが、屍を駆逐していけば、鬼に到達出来ると私は思っている」
カエデは西洋風の甲冑に身を包むアレクに答えた。
「鬼を駆逐するだ!」
ムサシが立ち上がり叫びだす。
その前に座るサツキが、後ろを見る!
「ちょっと、あんた! さっきから、煩いわよ!」
抗議の声をあげたサツキ。
サスケがすかさずムサシの着物を引っ張り着席させ、
「すまん。
コイツも悪気があっての発言じゃないんだ」
サツキにサスケが謝罪する。
「お荷物のコイツを庇って…… 優しいのね」
サツキはサスケに言った。
涼しげな眼。
クールな雰囲気なのに、仲間を思うその優しさ。
見た目が良いサスケにサツキは赤くなる。
「う、ううん。 貴方は何も悪くないじゃない。
私はサツキ。
貴方は?」
うっとりした目つきでサスケを見つめるサツキが聞く。
「え? 俺? 俺は、サスケだ。 宜しく」
サスケは、普通に答えただけなのだが……
サツキには、輝いて見えたのだ!
「素敵…」
サツキは、うっとりとサスケを見つめた。
「はい、私語は後にしろ」
カエデに注意され、皆が静かになる。
「我が隊は、新人が多い事もあり、準備期間が設けられた。
その期間内に、お前達は仕事と命を預け合う仲間の事を理解するんだ。
実戦に入った時、その理解の度合いが貴様らの生存率にかかわってくるからな。
互いに学び理解し、隊としての規律を守る事を考えろ。
私が今言った事を理解出来ない者は、今すぐこの場を去ってくれ。
理解出来ない無能な者がいては、隊に迷惑、いや害悪だ」
カエデの厳しい言葉に隊員達は真剣な顔になった。
ここにいる者達は、遊びに来ている訳ではないのだ。
そう、これから命のやり取りの毎日が待っている事を皆、理解していた。
「各自! 机に置いてある資料に目を通しておけ。
明日の夜明けから訓練を開始する。 以上」
話を終えたカエデが部屋を出ていく。
隊員達は、これからの事を思い、皆、真剣な面持ちになっていた。
「サスケ!
オラ達、これから頑張るだぞ!」
「ああ、隊長のおっぱいはデカいな」
うん。
ムサシとサスケもヤル気に満ちているようだ!
沢山見てもらえたら嬉しいなぁ。