最終回 燃えろ! ムサシ
リアルが忙しくて更新が遅くなり申し訳ございません。
そして、最終回です。
なんやかんやあってムサシ達は、下野国に現れた鬼を発見した。
下野国の王様トチギ・サダハルの軍勢約3000が移動しているのを発見したクロガネ小隊が後をつけると、下野山にて鬼のチェンと大量の屍と合流した所に遭遇したのだ。
鬼のチェン率いる屍軍団の数は、5,000を超え一帯を埋め尽くす数の屍がいた。
対してクロガネ小隊の人数は約40。
屍に気づかれないように身を隠しつつ監視をしているクロガネ小隊の面々は、圧倒的な敵兵力に動揺を隠せないでいた。
「……4,000から6,000といったところか?
6000として、38名が1人当たり…… 120で4,560。
残り、1,440。
ムラタが440として、残りを俺が……」
ブツブツと呟くクロガネ。
「よし、いけるッ!」
考えがまとまったクロガネが立ち上がろうとした!
「ちょ、ちょっと小隊長!」
慌ててムラタがクロガネを止めた。
「なんだ?」
突撃隊に指示を出そうと思っていた所を止められたクロガネは、不満そうにムラタを見るが、ムラタは不安で一杯な顔をしていた。
「いや、小隊長!
あの軍勢にこの数で向かうって無茶でしょう!」
出来るだけ声をあげないように小声で抗議するムラタ。
だがクロガネは、何を言っているんだ? みたいな顔をしている。
「ムラタ。
ちゃんと計算したから大丈夫だ。
お前のノルマは440だからな。
残りの1,000は俺が殺るから任せろ! 行くぞ!」
「ちょちょちょ、ちょっと!
440ってなんですか?!」
無茶苦茶な事を言い出し、さあ行くぞといった感じのクロガネを激しく止めるムラタ。
「なんだ?
440ってのはあくまで目安的なものだ。
多めの6000で見積もったから、実数が少ない場合は、お前のノルマがもっと少なくなる場合も当然考えられる事だ。
行くぞ!」
「いや、端からその作戦破綻してるから!」
泣きそうな顔でクロガネにすがり、必死で止めるムラタ。
「馬鹿野郎!
やる前からそんな弱気でどうする!
あの数の屍が江戸になだれ込んだら、江戸は地獄になる!
ソレを止められるのは、俺達だけだろう?」
「いや、作戦なしに突っ込もうって考えが違うと言ってるんです!
自殺行為ですよ!」
「バカ!」
クロガネは、ムラタをビンタした。
そして、ビンタされたムラタは、叩かれた頬に手をあて、信じられないといった表情でクロガネをみた。
「ムラタ。 確かに、俺の計算は甘かったかもしれない。
そこは、反省する」
「え? じゃあ、なんで今儂はビンタさ」
「ムラタ!
男には、やらなきゃならない時があるんじゃないのか?」
ムラタの言葉を遮りクロガネは真剣な表情で言ってのけた。
「……小隊長」
・
・
・
「うおおおおぉぉぉぉ!」
ムサシが押し寄せる屍を次々と斬り捨て、雄たけびを上げた。
屍の群れの中でクロガネ小隊の面々は獅子奮迅の働きを見せる。
一人頭120の屍を駆逐すれば勝てると、斬って斬って斬りまくっていた。
だが、個々の力が強いといっても多勢に無勢。
クロガネ小隊のメンバーは傷つき倒れていく。
それは、カエデ小隊のメンバーも例外では無かった。
最初に特攻したカネミツなど、開戦と同時に屍に取り囲まれその一生を終えた。
現在生き残っているカエデ小隊の者は、ムサシ、サスケ、サツキ、アレク。
そして、混戦の最中、鬼であるチェンも戦いに巻き込まれて死んでいた。
だが、誰もその事に気がついていない。
所詮、統率のとれた集団ではなかったのだろう。
互いに殺し合う地獄絵図。
「花魁道中!」
サツキが扇子を掲げ高らかに宣言した次の瞬間!
しゃなりしゃなりと野生の花魁達が時速80kmで、ありんすありんす、あちき、あちきと奇声を発し、練り歩いた!
「Oh! ジャパニーズゲイシャ」
アレクは、戦いの最中、花魁達の妖艶な姿に魅了された。
外人だし、好きなのだろう。
エキゾチックジャパン。
だが、それは、悲劇の始まりでもあった!
そう、油断したアレクは、屍の群れに呑み込まれてしまったのだ。
「ああぁ、アレクが!」
叫ぶサスケ!
だが、アレクを助ける事など、もう不可能。
アレクは四肢をもがれ、生きながらにして屍に喰われたのだから。
「もうこうなったら、忍法しかない!」
サスケは、最後の手段、忍法を使用する事を決意した。
現状を打破する手段があったならば、なぜ最初から使用しないのか!
そんな疑問を感じたその時!
ピロロ~~
ピロロ~~
ピロロ~~、 ピロロ~~
戦場の上空から金属音に近い謎の音が鳴り響く。
上空を見上げるクロガネ小隊の者達は、よそ見をしたために屍に喰われる者が多発した。
「な、なんだ? アレ?」
ムサシは、几帳面に屍を駆除しつつ上空を見上げて、ソレをみたが、ソレが何かは解らなかった。
ただ、金属質な大きな塊が空に浮かんでいる。
お皿を逆さまにしたような形の物体。
上空の謎の物体内部――
「なんと、未開な惑星であろう。
見よ!
あの醜く争う様を!」
ピチピチの銀色のタイツを身に纏うピポポタマス星、第六宇宙軍の英雄、スペッチ提督が巨大スクリーンに映し出された映像を指差し言った。
そう、ムサシ達の上空の物体は、ピポポタマス星からやってきた宇宙船であった。
「やはり、辺境の惑星。
対話など無理である!
高度な文明をほこる我等ピポポタマス星人が彼らを支配し、導く事こそ、我々の神クソマンカス様の御意思なり!
手始めに、こいつ等を見せしめとして皆殺しにしたいと思いますが、異論がある者は?」
ピポポタマス星宇宙軍の英雄、スペッチ提督が数万のピポポタマス星人達に問うた。
静まりかえる宇宙船内。
「……それは、あまりにも性急な結論では」
一人のピポポタマス星人がスペッチ提督に意見をしようと
「良いんだな?」
即座に、スペッチ提督が言った。
「この、ピポポタマス星、第六宇宙軍を率いて、数々の敵を撃ち滅ぼし英雄と呼ばれる、この私に意見して、本当に良いんだな?」
圧力。
「……いえ、何でもありません」
意見しようとしたピポポタマス星人は、快くスペッチ提督の意見に賛同した。
「他の惑星同様、この星も我等の植民星になったほうが、文明も進み幸せであろう。
生き残ったこの星の者達は、奴隷として、可愛がってやろうではないか」
眩しい笑顔でスペッチ提督はいった。
「おおー、流石は、スペッチ提督!
何と寛大な!」
宇宙船内のピポポタマス星人から感嘆の声がいたるところから上がった。
・
・
・
日ノ本国、奈良、東強大寺――
「システムオールグリーン」
モニターの明かりに照らされたオペレータ―の声が、暗い部屋に響く。
オペレーターは、若い僧侶達。
この部屋の中に設置された巨大モニターには、ピポポタマスの宇宙船が映し出されている。
「超巨大機動仏像、ダイブツ、発進!」
袈裟を纏った艦長、珍念が大僧正の威厳たっぷりに指示を出す。
「超巨大機動仏像、ダイブツ、発進!」
操縦士、一級が復唱すると、激しい揺れと共に凄まじい音が響く。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
東強大寺の本殿が内部より崩壊し、巨大な仏像がそそり立つ!
珍念艦長達が乗り込む超巨大機動仏像『ダイブツ』が動き出したのだ!
「艦長! レーダーに反応あり!
これは……
イエズス会!
イエズス会の陸上戦艦です!」
レーダーを確認したオペレーター達に緊張が走る。
「心配するな。
鎮光、主砲は撃てるな?」
珍念が視線をやると、攻撃班 班長 鎮光は自信に満ちた視線を返す。
「大僧正。
日ノ本国を植民地にすべく先兵として使わされたイエズス会。
仏敵である、あの者達に仏罰を与えましょうぞ!
では、撃ちます!」
「え?
いや、まだ命令してな」
珍念が喋ってる最中だが、鎮光は、主砲の発射ボタンを押した。
ダイブツの頭のブツブツの一つが発射される!
数キロ先――
イエズス会の陸上戦艦は、偶然近くにいた鬼を意図せず轢き殺しつつダイブツを破壊する為に爆走していた。
所詮、他人の国なので、特に良心の呵責など無く爆走できるのだろう。
困ったものであるが……
ドガァーーーン
イエズス会の陸上戦艦があった場所に巨大なキノコ雲があがり、爆発時の爆風により周囲は更地と化した。
ダイブツ、艦内。
「やった! 毛唐をやっつけたぜ!」
叫ぶ鎮光を、ヤベー奴だと珍念艦長は思った。
「この国に災いをもたらすと思われる、異国の空飛ぶ皿を排除すべく、ダイブツ! 全速前進!」
気を取り直して珍念は威厳をもって命ずる!
「ダイブツ! 全速前進!」
オペレーターによる復唱のあと、木魚が打ち鳴らされた。
一発につき、一歩、一歩と木魚を打ち鳴らすたびにダイブツは進む。
木魚の音色が増えていく。
歩みを進める木魚の数が増えたからだ。
数名から数十名の木魚プレイヤーがビートを刻み、ダイブツは軽やかにスピードを増していく。
やがて裾をセクシーにまくり上がるダイブツは全速力で走っていくのだった。
その速度、マッハ100……
・
・
・
◇◇◇
下野国、戦場――
ビーー!
ドカンッ!
ビ、ビィィィーーー!!
ドゴーーン!
ドゴーーン!
宇宙船から放たれる怪光線が地表に落ち、爆発を起こす。
巻き上げられる屍や人、土埃。
宇宙船からの攻撃が始まってそんなに時間がたっていないが、地表の人間、屍、動物、虫、多くの命が奪われた。
いや、今現在奪われている。
このまま、人類は死滅するのか?
否!
「忍法! 火だるま火炎地獄、放火魔の術!」
サスケの大きな声が、戦場に吹く一陣の風のようにこだました!
「熱いでありんす!」
「あちき」
「しゃなりーー」
野生の花魁達が炎に包まれた!
いや、サスケの術により出現した巨大な炎の竜巻に巻き込まれたのだ。
「止めるだ、サスケ!」
屍やクロガネ小隊を巻き込みながら規模を拡大していく炎の竜巻を目にしたムサシが叫んだ!
「主人公のオラが空気になってるから、それ以上派手な真似をしないで欲しいだ!」
意味不明な事を口走るムサシは置いといて、宇宙船のピポポタマス星人は焦っていた。
宇宙船内――
「スペッチ提督! 炎が、炎が!」
浮足立つピポポタマス星人達。
「大丈夫だ! 大気圏からの突入にもびくともしない、この船が落ちる事など無い!
うろたえるな!」
スペッチ提督が皆を落ち着かせようと必死に言うが、群集心理とは恐ろしいもので、生存本能からかピポポタマス星人は子づくり作業を始める。
種を残そうという本能の力か何なのか、兎に角、行為がいたるところで!
「お前等ばかりズルい! 俺も!」
スペッチ提督も近くにいた雌の宇宙人に抱きつき、子づくりをしだした。
……なんにせよ、一旦地上への攻撃は止んだのだ。
「流石サスケね! ほとんどの邪魔者が消えたわ!」
サツキがサスケの元へと駆け寄った。
「すまん、サツキ。
お前の花魁を大勢……」
意図せず、野生の花魁を犠牲にしてしまった事への謝罪を口にしたサスケ。
だが、サツキは、首を振る。
「ううん。
戦時だもの、仕方なかった。
サスケは悪くないわ。
それに、私の指示で花魁を下げたから、多くの野生の花魁の命は守る事が出来たから……」
「おい、サスケ!
屍だけじゃなくて、クロガネ小隊の奴等も巻き込んでっけど大丈夫なのか?
空に浮かぶアレも炎が平気みたいだし」
無視するサスケに業を煮やしたムサシがやって来た。
「そうなんだが……」
言ったサスケの様子がおかしい事に気づく二人。
「どうしたの?」
「どうしただか?」
「……」
俯くサスケ。
「……なあ、とりあえずあの炎消した方が良いんじゃないのか?」
ムサシが巨大な炎の竜巻へと成長したのを指差してサスケに聞いた。
「……制御」
ぼそりと小声で何か言ったサスケ。
「は? え、何て?」
耳に手を当てムサシが言った。
「……無理だ」
またぼそりとサスケ。
ムサシもサツキも聞き取る事が出来なかった。
「あーー!
サスケ! もっとはっきり言わないと解らないだよ!」
キレ気味に言ったムサシ。
そうこうしている内にも炎の竜巻は成長を続けている。
「いや、だから!
もう俺にも制御出来ないの!
無理です!」
サスケもキレ気味に返したが、その答えにムサシとサツキも言葉を失った。
ドスーーン!
南無~~
ドスーーン!
南無~~
ドスーーン!
南無~~
振動と遠くで電子的な声がした。
そう、超巨大機動仏像『ダイブツ』である。
強烈なGに耐え切れず中の乗組員である僧侶は全て死亡しているが、上がったスピードからの惰性でこの場に向かってきていたのだ。
方向は自動追尾システムが軌道していたので、まっすぐと宇宙船に向かっている。
ダイブツ。
宇宙船。
炎の竜巻。
その三つが引き寄せられるように重なろうとしていた。
「もう駄目だ! 世界の終わりだ!」
サスケが天を仰いだ。
「自然を傷つけてきた人類への警告なのよ!
だから、サスケは何も悪くないわ!」
サツキがサスケへの愛から、話を大きくして、サスケの罪を矮小化させた。
「オラが三つを止める!」
ムサシが言い出した。
「そ、そんな、無理だぜ、ムサシ!」
「そうよ!
あんたなんかに何が出来るっての?!
あの三つがぶつかり合って大爆発を起こして、この国が…… いえ、この世界が終わるわ!」
「……」
サツキの悲痛な叫びに黙るムサシ。
「……なんで、ぶつかると大爆発すると?」
ムサシはサツキに聞いた。
サツキが指を指す。
ムサシは、顔を上に向ける。
『自爆装置、作動中、大爆発しますので、半径1万メートル以上離れてシェルターにお入りください』
宇宙船の電光掲示版に出ていた。
サツキが指を指す。
ムサシは、顔を横に向ける。
『火気厳禁、大爆発の恐れあり』
ダイブツの側面に注意書きがあった。
「くそっ……
やっぱ、オラが止めるしかねぇ!」
ムサシは、謎の使命感に燃えた。
ムサシは、燃えるのだ。
そう、男には、やらねばならない時がある。
それが、今、この時なのだ!
「燃えるだ……
燃えるだよ……
燃えろ! ムサシ!」
自分の心と体を奮い起こそうと魂の叫びをあげるムサシ!
「花魁道中!」
サツキが扇子を掲げ高らかに宣言した次の瞬間!
しゃなりしゃなりと野生の花魁達が時速80kmで、ありんすありんす、あちき、あちきと奇声を発し、森に退避していたのが出てきたのだ!
「ムサシ! 道よ!」
サツキが叫び、ムサシが見ると、そこにあったのは、野生の花魁が組体操でピラミッドを作り空高く宇宙船へと届くほどの道!
「ありがとう! サツキ!」
ムサシは花魁のピラミッドを駆けあがる。
燃える男、ムサシ。
迫るダイブツ。
子づくり宇宙船。
炎の竜巻。
ゆっくりと、それらが交わり、やがて世界から音が消えた。
終わりの始まり。
白く強い光が……
やがて、漆黒に世界は包まれる。
上も下も右も左も方向感覚を感じる事のない闇。
光の粒子が一点へと……
収束し……
何かの声が聞こえた気がした。
「ムサシ!」
何も身に着けていないサスケとサツキが光に呼びかける。
「……僕ハ、……ムサシ」
おわり
うん。
ちゃんと、完結させる事に意味があるな、うん。
こんなのもあって良かろう。
温かい目で、お願いします。
次回作も乞うご期待。