第 12 話 仲間想い
宇都宮城下町を離れ山へと退避したムサシ達は、山中にあった無人の神社で休憩させてもらっていた。
「オラを置いて、みんな酷いだよ!」
襲撃の際、置いて行かれそうになったムサシが抗議の声を上げる。
「下野国の情報収集部は壊滅し、トチギ・サダハルの突然の謀反と最悪な状況だが、これからどうする?」
アレクが生き残ったカエデ分隊のメンバーに問いかけるが、分隊長を始め多くの仲間を失った彼等は憔悴し黙っている。
「分隊長と副分隊長がやられちまった。
……俺達がどうこう出来る相手じゃなかったんだ」
ボソリと口にしたジムの胸倉をサスケが掴む。
「ツッ!」
ジムが顔を歪め小さく声を出した。
( そんなに強く絞められた訳じゃないのに…… )
カネミツは、苦しそうな顔をしたジムに疑問を感じたが、二人の間に割って入ろうとは思わなかった。
「ジム! お前、今更そんな事を言ってどうなるよ?
特務機関に入った時点で、こういう事態がくる事くらい覚悟しておけよ!
愚痴を言う為に俺達は、あの場所から離脱したのか? 違うだろ」
珍しく感情的になったサスケがジムに言った。
サスケも頭では理解していても、目の前で仲間がやられた事に動揺しているのは明らかだった。
「サスケ! 仲間は、仲良くするだよ!」
良い子のムサシは、今のサスケの行動は道徳的にいかがなものかと忠告した。
勿論、サツキの反応を見ているムサシ。
仲間の諍いを止める事により、サツキから「流石ムサシね! 男らしいわ」そんな評価、いや、言葉があるのではないだろうかと淡い期待を込めてサツキを見つめるのだ。
そんなムサシに少し視線をやったサスケは、ジムから手を離し、感情的になった事に自己嫌悪し、落ち着こうと意識する。
「すまん、ジム。
……兎に角、俺達がやらなきゃいけないのは、本隊と合流して指示を仰ぐ事だ」
「サスケの言う通りよ! 一刻も早く知らせなきゃ」
サツキはムサシに視線を合わせる事無くサスケに同意するように続けた事にムサシは、軽いショックを受ける。
(一方的に)愛するサツキに無視された上に、恋敵(とムサシが勝手に思っている)のサスケに同意したのだがら、ムサシとしては当然面白いわけがない。
腹を立て、サスケを睨みそうになるが、寸前のとこでやめた。
激しく嫉妬の炎を上げた自分であるが、こんな小さな事で腹を立てるような小さな人間だと思われサツキに嫌われたくないムサシは、顔に出さない事にした。
いや、その事は良いとして、自分を置いていきそうになった事に対する謝罪なり、何か言葉があっても良いんじゃないかと思ったが、既に、そんな事を言える空気では無かったので、ムサシは気にしない事にした。
「トチギ・サダハルの方は、ほっといていいんですか?」
カネミツが言っているのは、江戸に向かい進軍中の下野軍の事だが、
「カネミツ、それは、オラ達に」
「既にトチギは屍にされて、鬼の操り人形だろうからな……」
自分達に関係ない事だと言いかけたムサシの言葉に被せるようにアレクが言った。
そうなの?
そう思いながらムサシは、
「関係ないって言えないよな、ほっとく事なんて出来ないぜ」
キリッとカッコつけてムサシはカネミツに言った。
そして、サツキを見た!
サツキは、サスケに寄り添っていた。
「うううぅぅぅ……」
突然、ジムが苦しそうな声を上げる。
「どうした、ジム。
怪我でもしたのか?」
心配したアレクがジムに近づこうと……
「アレク! 離れて!」
カネミツの声にアレクが反応し立ち止まった!
しかし、次の瞬間!
「ウガァァァアアア!」
唸り声をあげ、ジムがアレクに襲い掛か
「黙れ!」
ムサシがジムを激しくビンタした!
ジムは回転しつつ数メーター先まで吹き飛ばされた。
「何してんだよ、ムサシ!」
サスケが慌ててムサシの手を掴み、ビンタされ吹き飛ばされたジムを見ると、首があらぬ方向を向いているのが見えた。
「いや、ジムが騒ぐから、オラ……」
言い訳しつつジムを見て固まるムサシ。
「……ムサシ、あなた」
首の骨が完全に折れているだろうジムを見て呟くサツキ。
「皆さん!」
カネミツがムサシの暴力により首が折れた可哀想なジムを指差し言った!
皆の顔が強張る。
ムサシは、露骨にホッとした表情!
「ヴヴヴヴゥゥ……」
なんと、ジムが起き上がったのだ。
首は相変わらず変な方向を向いているが、兎に角、生きていた。
いや、生きているというのは語弊がある。
折れた首を持ち上げて正面の正しい位置に持って来るジムは既に……
「ジム……
お前、 ……屍に食われてたんだな。
助かったぜ、ムサシ!」
アレクが剣を持ち、屍と化したジムに向き合う。
「おうよ!」
サスケに嫉妬して虫の居所が悪いムサシの単なる八つ当たりビンタが、アレクの窮地を救っていたのだから結果オーライとばかりに元気に答えた!
「ジム! 今、楽にしてやるからな」
アレクが剣を持ち、ジムを斬ろうと近づこうとした時に、ムサシが前に立った。
「待つだよ!」
両手を広げアレクを止めるムサシ。
「どけ、ムサシ! ジムはもう助からない!」
ムサシの肩に手を置きアレクが言っ
ドコッ!
ムサシがアレクの腹にパンチを入れた。
アレクが白目を剥き、その場に崩れ落ちる。
「仲間同士、傷つけあうなんて、悲しいだよ!」
ムサシは、涙を流さんばかりに言った。
( お前が言うか? )
サスケ、サツキ、カネミツは、ジムの首を折り、今もアレクを殴って失神させたムサシを見てそう思った。
「ヴヴヴヴゥゥ……」
ヨタヨタとジムが前に進む。
「ぉおお、ジム。
可哀想な、ジム。
オラは、オメェを見捨てねぇぞ。
なぜなら、ほら、オラって優しいから!
困ってる人を見捨てれないんだよねぇ!」
言いながら、サツキをチラチラ見るムサシ。
優しさアピールに余念がない!
「バカッ! 危ないわよ!」
ムサシの目の前に来ているジムを見て、サツキが注意する。
「……よっと」
ジムを軽く躱したムサシは、嬉しかった。
サツキが自分を心配してくれたから。
(あ、あれか。
ツンデレって奴か?
ふふふ、サツキったら、可愛いんだから。 ふふふ)
ムサシは、ジムの攻撃を躱しながら、そう思った。
「お、おい。
ジムの攻撃、どんどん速くなっていってないか?!」
サスケがジムとムサシをみて言ったが、ムサシは、嬉しそうにサツキをチラチラ見ている。
「危ないから、ちゃんと前を!」
「すっごい笑ってる!」
ジムの攻撃を避けるムサシを、サツキとカネミツは、ハラハラしながら見ていた。
「あー、うっとおしい!」
散々ジムの攻撃を避けていたムサシは、落ちている石で屍ジムをぶん殴ると、ジムの頭の一部が陥没したが、大人しくなった。
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「これで良し!」
一仕事終えたムサシが額の汗を拭う。
「絵面的に凄くマズそうだな」
サスケが感想を言った。
「大丈夫なの?」
サツキも心配そうだ。
「いや、これなら危険がなさそうだし……」
アレクは肯定しようとしている。
「ムサシ、どうするんだよ、ソレ」
カネミツは、念の為、訊ねてみた。
「連れてく!」
眩しい笑顔で縄を持つムサシが言った。
ムサシの持つ縄は、ジムの首に繋がっている。
暴れないように剥ぎ取った上着で両手を前で縛り、誰かを噛んだりしないように脱がせたズボンを引き千切って猿轡にしていた為、 靴と靴下とパンツ一丁、両手を縛られ猿轡をし、首に縄を駆けられた姿になった黒人男性、ジム。
「……」
「……」
「……」
「……」
ムサシの事が不安で一杯の四人だった。
◇◇◇◇
下野国、国境の宿場町――
「クロガネ小隊長!
この死体は、カエデ分隊副隊長の黒龍山ですね」
首の無い死体を検分する兵士が馬上のクロガネに言った。
それを聞いたクロガネは、無数に横たわる屍の死体の先に視線をやる。
(なにがあった?)
クロガネは、実力者の黒龍山の無残な姿をみて、カエデ分隊が全滅している可能性があると思った。
友であるカエデが心配でないと言えば嘘になるが、任務により今まで多くの仲間の死を見てきたクロガネに動揺した様子は見られない。
だが、それはクロガネが冷酷だからでは決してない。
任務の為、強くならなければならなかったそれだけの事であった。
「おい、お前等、急ぐぞ」
クロガネは馬を走らせる。
「あっ! 小隊長?!」
突然走り出したクロガネに驚く副官のムラタは、慌てて部下達にクロガネに続くよう命令し、クロガネを追った。
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◇◇◇◇
神社をでて、クロガネ達と合流すべく、国境を目指すムサシ達。
「ジム!
お前は、何回、同じ事を言わせるだ!」
ムサシはジムを木の枝でぶった。
屍となってしまったジムだが、彼は仲間!
仲間だからこそ、ぶつのだ。
ジムがこの先、屍になった事でいじめられないように、元の通りに出来なくても、生活に支障がでないように躾してあげなければと、泣く泣くムサシはジムをぶつのだ。
ビシッ!
「ヴヴッ!」
「……」
そんなムサシの姿を死んだ魚のような目をして、サツキが見ている。
「ねぇ、サスケ。
あのバカ、何を考えてるの?
屍になったって事は、ジムは、もう死んでるんでしょう?
治るとでも思ってるのかしら?」
サスケに小声で聞くサツキだが、俺が知るかとサスケの顔に書いてあるので、それ以上何も言わなかった。
後ろを振り返り、ムサシを見るサツキ。
「よーし! 偉いだぞ、ジム!
ちゃんと、「お手」が出来るようになっただな!」
……ムサシが、ジムを褒めていた。
友情って素晴らしいですね。