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燃えろ! ムサシ  作者: カネキ
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第 10 話 初陣その3

 騎乗するカエデ分隊一行は、街道沿いの宿場に入ったのだが、すぐに違和感を感じた。

 下野国と上野国との国境近くの交通の要所であるにもかかわらず、この場所が閑散としていたからだ。


「カエデ分隊長、この宿場は……」

 副分隊長の黒龍山が騎乗する馬をカエデの馬に寄せ聞いた。

「国境にあったアレは、ここの住民だろう。

 どちらにしろ、生き残っている者はいないだろう。

 屍が待ち構えている可能性が高いな……」

 既に宿場の住民は全滅していると判断したカエデは、早くこの宿場を抜けようと考えている。


「後続の本隊の為にも、この宿場に屍がいるのなら排除しておいた方が良いのでは?」

「……」

 意見した黒龍山が見ると、カエデは何かを考えているようだった。


 宿場の中を疾走するカエデ分隊の一行だったが、宿場の出口付近で立ち往生する事になる。

 カエデ達の前方にある宿場の出口を、塞ぐように待ち構える多くの人の姿があったからだ。


「隊長! 後ろからも来ます!」

 黒人の分隊員、ジムの大きな声!

 カエデが後ろを振り返る。


「皆さん! 私達は、日ノ本特務機関! 皆さんを救いに」

 マキノが後方の人達に向け大きな声で

「マキノッ、よせっ! 屍だ!」

 カエデの怒声によりマキノは言葉を止めた!


「ヴヴヴヴ……」

 唸り声をあげる、赤い眼の者達。

 生気のない顔をした人達。


「……あ、あれが、屍」

 初めての屍と対面したマキノは、血の気が引いていくのを感じた。


「分隊長、殺りましょう!」

 ハシモトが鎌を手に叫ぶ。

「カエデ分隊長!

 私らの仕事は、鬼の調査!

 ここは、本隊に任せて先を急ぐべきです!」

 カネミツがハシモトの意見に異を唱え、カエデの判断を仰いだ。 


 じりじりと屍の包囲が狭まっていく……


「宿場出口へ突撃をかける!

 アレク、ムサシ、サスケ、サツキは、私の傍へ!

 ここを強行突破して、私と下野国支部へ先行する!」

 カエデが大きな声で言った!


「他の奴等はどうするんだよ?

 兎に角、ムサシ、分隊長のトコに行くぞ」

 サスケがムサシを見て言った。

「サツキは、オラが守ってやるだ!」

 ムサシがサツキを見て言った。

「サスケ! 急ぎましょう」

 サツキがサスケを見て言った。


「……」

 ムサシがサスケを睨んだ!


「え? なんで」

 睨まれたサスケが

「お前等、なにやってんだ、早く分隊長の傍に行くぞ!」

 アレクに注意され、ムサシ達四名がカエデの近くへと移動し始める。


「黒龍山!

 残りの者と宿場出口に残り、私達が離脱するまでの間、奴等を足止めを頼む!

 下野国支部で待っているぞ!」

 刀を抜き、カエデは言った!

「了解でごわす!

 一匹たりともこの宿場から先に行かせませんから、ご安心くださいでごわす!」

 黒龍山が両手を打ち鳴らす。

 その手にあるのは、暗黒地下相撲時代からの愛用武器、バトルメリケンサック!

 多くの暗黒地下相撲の力士、そして、黒相撲協会からの刺客を葬ってきた黒龍山の相棒と言えるものであった。

 

【 用語解説 】


 ・暗黒地下相撲


 事の始まりは所説あるが、平安時代より行われてきた、賭け相撲が始まりというのが通説とされている。

 江戸国技館地下に設置された特設土俵オクタゴンに、世界中から集まった暗黒地下相撲力士達が最強をかけて、打撃・投げ・極めなんでもありで戦ったとされる。

 文献によると、明治58年頃まで存在していた事は確認されたが、少子化による競技人口の減少とプロ野球人気に押され自然消滅した。

 暗黒地下相撲を見学したローマ人に強い影響を与え、コロッセオが誕生したという説もあるが、現在では、この説は戦時中の国威発揚の為のプロパガンダによる創作であるとの意見が学会で大勢を占め否定的であった。

 しかし、近年コロッセオの発掘調査の際に力士の大銀杏が出土したことにより、本格的調査の機運が高まっている。


 ・黒相撲協会


 過去、暗黒黒相撲を主催・管理を行っていたとされる団体。



「うおおおお、どすこぉーーいぃ!!」 


 最初に突撃したのは黒龍山!

 数体の屍が宙に舞う。

 他の分隊員達もそれに続き斬り込みをかける!


 その突撃により、宿場出口への退路が僅かに見えたのをカエデは見逃さない!


「今だ! 一気に抜ける!

 私に、続けぇぇぇーー!!」

 カエデが馬の腹を蹴り、走り出す!

 ムサシ達先行部隊もそれに続き、屍の中に飛び込んでいく!

「サツキ! オラから離れるでねぇぞ!」

 爺様の刀を手にするムサシが、群がる屍を斬っていく!

「邪魔すんじゃねぇー! 道を開けろー!」

 サスケは、進行を妨げる屍を効率良く斬り進む!

「どけぇぇぇい!」

 大型の剣で屍を薙ぎ払い進むのは、アレク!

「サスケ、カッコいい!」

 サスケの後ろについて行くサツキは、鉄の扇を手に一生懸命応援した!

 先行部隊の5名が宿場の出口を抜けるまで、もう少し!


 黒龍山達は、馬を降り出口付近の屍を次々倒していく。



ズバアァァーー!


 出口付近にいた屍がマキノの刀により斬り裂かれる!


ダダダダダダ……


 屍を斬ったマキノの横をカエデ達の騎乗する馬が走り去っていった。


「黒龍山副分隊長! 分隊長達の離脱を確認!」

 マキノが戦っている黒龍山に向け大きな声を出し報告。


「よし! カエデ分隊長達の為に時間を稼ぐぞ!

 カネミツ!

 おい達の離脱の為に死んでも馬は守るでごわすよ!」

 屍を殴りながら、黒龍山が残った分隊員達に指示する。


「了解ーー!!」

 後方で皆の馬を背にするカネミツがヤケクソ気味に黒龍山に答えた。


「あーあ、私も、カエデ分隊長と一緒に離脱したかったですね」

 カネミツは、愚痴をこぼしながらも弓を構え、冷静に屍を射っていく。 

 


「屍とは、こんなものか!

 これなら、足止めどころか、勝っちまうんじゃないか?!」

 槍を振るうジムが声をあげる。

 事実、屍達は、ジムのスピードとパワーについてくる事が出来ていない。

 バッタバッタと屍を斬り、突き、倒していく。

 ジムの周りには、倒れていく屍が増えていく。


「ジムッ!」

 ハシモトが叫んだ!


 簡単に屍を翻弄するジムは、油断していた。

 大きく斬りつけ、心臓を突き刺し、倒していったハズの屍。

 それらが、次々と立ち上がり始めている事に気がついていなかったのだ!


ガッ!


 ジムの背後から屍が抱きついてきた!

「なっ、バカな!」

 ジムの目に映ったのは、口が裂け大きく開いた屍の口!

 その口で、ジムは、噛みつかれようとし


ボガァアアアッ!


 屍が吹き飛び、ジムも体勢を崩し尻をつく。

 ジムを襲おうとしていた屍を、黒龍山が殴りつけたのだ! 

 

「屍を甘く見るな!」

 ジムに一喝した黒龍山は、他の屍を次々と殴り、頭を潰していく。


 

「大丈夫か?!」

 尻もちをついたジムに駆け寄り、手を差し出すハシモト。

 その手を掴むジムが体を起こす。

「すまん。

 屍は、頭を潰すか首を斬り落とさないと仕留めれなかったんだったな」

 起き上がったジムは、両手で槍を持つと、気を引き締め直し、自分に言い聞かせるように言った。

 冷静になったジムを見て、ハシモトも安堵の表情を浮かべる。

「ああ、そうだ。

 奴等は、しぶとい。

 腕を捥がれても、足を飛ばされても、向かってきやがる」

 ハシモトは、鎌を両手に持ち前に出る。


「暴れ農法!

 草刈りの舞! はあーーっ!」

 両手を広げ天高くジャンプしたハシモト!

 そして、落下と同時に体をぐるぐると回転させた!


「あれは、暴れ農法、草刈りの舞!

 激しく己の体を回転させ、その回転の力を使い両手に持った鎌で敵を斬り裂くと言われる、東北地方に伝わる伝承の技!」

 ジムが解説した。

 異国の人間であり肌の色が違う事から、ジムの一家は、ジムが幼い頃より各地を転々としてきた為、物知りなのだろう。


ズバババババババァァァァアア!!!


 草刈り機が雑草を刈りこむが如く、次々と屍が倒れていく!


ダッ!

 ジムが駆けた!

 彼の両親は、アフリカの誇り高き戦士の部族の者。

 その息子、ジムにもその血が受け継がれている!

 逞しい肉体を持つ青年に育った彼は、肉体を躍動させ、駆けた!


「ハッ!」

 バシュッ!

「ほッ!」

 ズバッ!

「よっと!」

 ザンッ!

「やっ!」

 シュバッ!

 

 ハシモトに斬られた屍が起きる前に次々と首を刎ねて回るジム。

 こういう時、足が速いと便利なのだ。

 

 黒龍山、マキノ、ハシモト、ジム、カネミツは、奮戦した。

 カエデ分隊長達が宿場を離脱し、十分な時間も稼げた。

 屍の数も最初と比べて大幅に減った。


「十分でごわす!

 後は、おいが残るでごわすから、皆は、カネミツの所で馬に乗り下野国支部に向かうでごわすよ!」

「副分隊長は?

 一緒に離脱しましょう!」

 マキノは、黒龍山を一人残して行けないと思った。

「なあに、後は、あれだけでごわす。

 カエデ分隊長達も心配だから、早く行くでごわす」

 黒龍山は、どすこいと笑顔で言った。


「で、でも……」

 それでも食い下がろうとしたマキノだが、その手を掴まれた。

「……カネミツ君?」

 マキノが見ると、馬を2頭連れてきたカネミツが自分の手を掴んでいた。

「副分隊長に任せれば、大丈夫。

 マキノさん、我々の本来の任務の為にも早く向かいましょう!」

 カネミツが真剣な表情でマキノを諭した。

「……」

 俯き、顔をあげたマキノは、黒龍山へと敬礼し、自身の馬の手綱を掴む。


「副分隊長! ご武運を!」

 マキノのその言葉を背中に受けた黒龍山は微かに笑うと、屍に地下相撲48手の技の一つ、ローリングソバットを決めた!


 馬にまたがったマキノは、カネミツと共にジム、ハシモトらと合流する。

 そして、この地の鬼を排除し、平和を一刻も早く取り戻さねばならぬと、先行するカエデ分隊長を追うのだった。



「はあ、はあ……

 やっと終わったでごわす」

 最後の屍の顔面へ打撃を加えた黒龍山は、疲労から膝をついた。

 既に、マキノ達は、遠くへ行っただろう。

 カエデ分隊長達と合流出来ただろうかと考えていた。


「おいどんも、みんなの後を追うでごわすよ」

 自分の馬を呼ぶため、指笛を吹こうとした、その時である。

 黒龍山は、背中に強い違和感を感じた。

 地下暗黒相撲で味わった死の匂い。

 あの戦いの場所へ、若き日に踏み入れた時に感じた、当時の横綱から受けた圧倒的強者の匂い。

 何者か解らないが、背後にいるのは確実に強者!

 黒龍山は、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「ただの人間が、あの数の屍を屠るか……」


 違和感から声が聞こえた。

 その声に、折れそうになる気持ちを押し殺し、黒龍山はバトルメリケンサックを握る手に力を込める!

 何者かは解らない。

 だが、誰であろうと構わない。

 この一撃を叩き込む!

 黒龍山は、それだけを考えている!

「うおおおおおお!!」

 振り返りざまに渾身の力を込めた一撃!

 黒龍山は振りかえ――


ザンッッッ!!



「ああ、こいつらが、例の……」

 チェンは、手に付いた血を舐めると、上を見上げた。

 すると雨のように大量の血が降ってくる。

 口を開け、ソレをゴクゴクと飲む。


ドサッ


 チェンの足元に黒龍山の頭部が転がってきた。


 頭の無い首から噴水のように吹き上がった血を浴び飲んだチェンは、ニヤリと笑うと黒龍山の頭を掴み森へと消えて行った……

10話まできました。

この先も頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

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