六戦目
毒の感染という油断ならない事態に政府はヘリコプターを出動させ、出動させたヘリコプターが搭載した大気洗浄用のミストが周囲に散布される。
これにより空気感染による毒の二次災害を阻止したが、政府は感染者への解毒剤投与の対応に追われて休む間もなかった。それだけでは無い。鬼灯潤也率いる《鮮血団》の動きに対してどう動くか、24時間後に何らかのアクションを起こすであろうテロリストに対してどう対策を取るかの選択を迫られていた。
そして、事態に関わる選択を迫られているシオンは毒に感染して苦しむガイのそばで彼の身を案じていた。
「ガイ……」
「……オレは大丈夫だ」
「悪かった」
「……何がだ?」
「オレのせいで……」
何かを謝ろうとするシオンがガイに謝罪の言葉を伝えようとするとそれを邪魔するように解毒剤投与で駆り出されていた医師の男がガイに駆け寄って彼に解毒剤を投与しようとした。
が、ガイは解毒剤の投与を拒んでしまう。
「ガイ、何してんだよ?」
「……オレは後回しにしろ。
他の感染者に解毒剤を使ってくれ」
「だがキミも解毒しないと……」
「今必要なのは民間人の命を救うことだ。
オレに投与するよりも先に救うべき命があるならそれを優先してくれ」
「しかし……」
「何度も言わせるな……。
このくらいの苦しみには慣れてるからな……。さっさといってくれ」
解毒剤は他に必要としてる人間に投与するようにと伝えるガイ。そのガイの言葉に医師の立場として受け入れたくない男は渋々受け入れると解毒剤を待つ他の人のところへ向かう。
解毒剤を拒んだガイ。そのガイは何とかして立ち上がるとシオンの顔面を強く殴った。
「!?」
突然のことでシオンは何も出来ず、ガイの拳を受けたシオンは倒れてしまう。毒に感染して苦しいはずのガイはフラつく体を倒れぬように何とか立たせながらシオンに向けて告げた。
「……オマエの軽率な行動で多くの人が巻き込まれた。
何の罪もない大勢の人がたった数分で当たり前を奪われた。オマエがアイツらを刺激したからな」
「んだよ、それ……!!
オマエだって鬼灯潤也のことを知っておきながら隠してたんだろ!!オレに話してくれればこうなる前にヤツらを……」
「だから黙ってたんだろうが……。
鬼灯潤也のことを話せばオマエは力で解決しようとする……そうなればどれだけの被害がどれだけの規模で出るか想像出来ないのか?オマエの軽率な考えで犠牲者が出るかもしれない……だからオレはオマエに教えずに今後のことも考えて力に頼らずに解決するようになってもらおうとしたんだ……。それなのにオマエは……敵なら殺すだの言って話すら聞こうとしない。そんなオマエにヤツらのことを話して何になるんだよ!!」
「結果的にヤツらのことを知ってれば防げたかもしれないだろ!!
オマエのその判断でオレは何も知らずにヤツらに襲われた!!」
「……だからオレはオマエに話さなかったんだ。
今のオマエじゃ教えたところでどうにもならないって思ったからな」
意見がすれ違う2人。シオンとしては鬼灯潤也のことを事前に知れば何とかできたと考えている。だがガイはそんなシオンに教えても何も変わらないと言いたげに反論する。もはや話は平行線、ガイはため息をつくとシオンに告げた。
「……そんなにヤツらを殺したいなら勝手にしろ。
ヒロムのために力を合わせてくれると信用したオレがバカだった」
「……ッ!!
んだよそれ!!オレのことバカにしやがって!!
そこまで言うならオマエなんか見捨ててやる!!オマエの言う通り身勝手な人間になってヤツらを止めてやる!!」
ガイの言葉に我慢の限界が来てしまったシオンは彼に強く当たるような言葉を使うと立ち上がって去ろうと歩き出す。仲間を捨てるような言い方をしたシオンをガイは止めようともせずその背中を見るとフラつく体を歩かせて別の方へ進んでしまう。
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「クソが!!」
ガイと口論になり、仲間として決別する形で別れたシオンはしばらく歩いたところで怒りを発散するように近くにあった自動販売機を蹴り潰してしまう。
シオンに蹴り潰された自動販売機は黒煙を上げて活動を停止し、自動販売機を壊したシオンは収まらぬ怒りを抱いたまま行く宛てもなく進もうとする。
「ヤツらを探し出す……。
ヤツらが動く前にヤツらを根絶やしにすれば何もかも解決するはずだ」
鬼灯潤也率いる《鮮血団》を見つけて自分の手で終わらせようと考えるシオン。だがシオンには鬼灯潤也がどこを拠点にしてるかの確かな情報などない。宛てもなく闇雲に探す他ないが冷静さを失った今のシオンはそんなこと気にする暇などなかった。
「ヤツらを見つける……そしてこの手で必ず……」
「仇討ちにしては無計画すぎるだろ」
敵を探そうとするシオンの言葉に混ざるかのように後ろから誰かが話しかけてくる。今最高に機嫌の悪いシオンは苛立ちを隠せないまま声の主が誰なのか確かめようと振り向く。
そこにいたのは同い歳くらいの少年だった。赤い髪、ピンク色の瞳、そしてジャージを着た少年。その少年を目にしたシオンはため息をつくしかなかった。何故ならシオンは彼を知っているからだ。
「ガイの差し金か?
それともオマエがガイにそうさせたのか?」
「あん?
何の話だ?」
「とぼけるなよヒロム。
鬼灯潤也のことも《鮮血団》のことも……全部知っててオマエが隠させたんだろ!!」
シオンは赤髪の少年・姫神ヒロムに不満をぶつけるように強く言った。
姫神ヒロム、彼は仲間だ。ガイと同じくシオンは彼と共に多くの敵を倒してきた。そして同時に当たり前のように強くなり続ける存在でありシオンの強くなりたいという気持ちに焦りをもたらす張本人でもある。
当たり前のように強くなるヒロム、自分に焦りを抱かせるヒロムを前にしてシオンは感情を抑えられなかった。
だが、そんなことをヒロムは知ったこっちゃなかった。
「言いたいことはそれだけか?」
「何?」
「……くだらねぇ。
鬼灯潤也とかいう野郎やその何とか団のことをオレが知ってたとしてオマエに教える必要があるのか?強さを求めてる人間が他人に施しを与えられなきゃ何も出来ないのか?」
「んだと……!!」
「オマエのためにハッキリ言ってやるよ。オレはそいつらを知らねぇ。つうか興味ねぇ。今は各国から足を運んでるお偉いさん方から防衛策について色々話してるから忙しいし、オマエが気にしてるそいつらがいようがいまいがオレには何の得にもならねぇ。どうでもいいんだよ」
「何……?
なら何で……」
「つうかガイに言われたこともまともにこなせないような自分勝手なヤツがそいつらを探して何になるんだよ。仲間を傷つけるのはやめてください、街の人を巻き込まないでくださいって泣きながらお願いするのか?」
「オマエ……!!
ふざけてんのか!!」
ヒロムの言葉を受け我慢できなくなったシオンが強く言い返すとヒロムはそれに反応するように強い殺気を放ち、それを受けたシオンは思わず1歩後ろに下がってしまう。
恐怖、それを感じてしまったのだ。ヒロムの放つ殺気を前にしてシオンは少なからずとも恐怖を抱いてしまった。
そんなシオンの反応を前にしたヒロムは彼を冷たい眼差しで睨みながら彼に告げた。
「その程度でイキがるなよバカが。
オレは別に馬鹿真面目なガイと違って敵を生かせとも言わねぇし殺すなとも言わねぇ。てめぇがやりたいようにやって他人に尻拭いさせなきゃ文句もねぇ。けど……今のオマエみたいな勢いだけで後先考えてないクズは嫌いなんだよ」
「クズだと……!?」
「事実だろ?止めようとしてくれた仲間を危険に晒し、その仲間が自分の命よりも弱い立場の人を救おうとしてるのにお構い無しに無策で危険に踏み込もうとしてるオマエはクズって呼ばれても仕方ねぇよ」
「……ふざけんな!!」
ヒロムの言葉を受けたシオンは彼の言葉を否定するように強く叫ぶと体に雷を纏い、拳を構えるとヒロムに告げた。
「そこまで言うならハッキリさせてやる。
オレがクズかどうか、今のオレが弱いかどうかを!!」
「……やれるもんならやってみろ。
初めて会った時みたいに負かしてやるよ」