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終戦


 段々と意識が戻ってくる。

 

 暗闇しか感じられない中、目の前から闇を割くように光が溢れてくる。

 

 力が体に戻るような感覚、そして闇が消えて光が全てを包むと……目の前に見慣れない景色が映る。

 

 

「ここは……」

 

 彼は……紅月シオンはどこかのベッドの上に寝転がっていた。見慣れないと思っていたものは病室の天井だった。

 

 ゆっくりと体を起こすシオン。するとタイミングよく病室に1人の少年が入ってくる。

 

「ようやく目が覚めたか」

 

 入ってきた少年……ガイはシオンの姿を見ると安心したような表情を見せ、シオンのもとへ歩み寄るとこれまでについて説明するように話し始める。

 

「シンラを倒したオマエはあのまま倒れたんだ。

4日間寝たままな」

 

「4日間も……」

「ちなみにだが、シンラの遺体は警察と軍によって悪用されないよう記録も残させないために焼却処理された。《鮮血団》の生き残りは……数人を残してほとんどいなかったから残ってる数人を留置所に拘留してるみたいだ。今回の件の真相を知るシンラと鬼灯潤也、その他の幹部クラスは軒並み絶命してるか重傷だからな」

 

「オマエが倒したベノムは?

オマエのことだから殺してないはずだろ?」

「……シンラの死亡とほぼ同じ時間に突然死して絶命を迎えたらしい。おそらくシンラが改竄の前の記憶が戻ったことで自分について語られるのを阻むために何か仕掛けをしてたんだろうな。生き残りの数人は多分シンラの記憶改竄を受けてないだろうから何かしら聞けると踏んで取り調べする方針になってるみたいだ」

 

 

「そうか……」

「にしてもみんな驚いてたぞ?

戦闘種族の力なのかは知らないけど、日が経つにつれてボロボロになってたシオンの体が元通りになっていくんだからさ。これもシオンの力なのか?」

 

「いや、多分……」

 

 自分ではやっていない、ただ心当たりはある。

シオンの脳裏にはウサギの精霊・ライバの姿が浮かんでいるが、今や姿を見せない相棒ともいえる精霊がいないことを受け入れたくはないシオンは話を逸らしてしまう。

 

「……オレにも分からないな。

誰かが助けてくれたんだろうな」

「そっか……。

でも無事そうでよかった」

 

「ガイは大丈夫なのか?

その……シンラによって毒が活性化して……」

 

「大丈夫だよ。

シンラが倒れた後も毒による苦痛は続いたけど、ヒロムがウイルスの悪化を懸念して抗体の強化を依頼してくれてたおかげで早期の治癒が出来たんだ。まぁ、体の負傷は簡単には治らないから安静にしなきゃならないのに変わりはないけどな」

 

「そうか……」

「シオン、今だから聞きたい。

今でもオマエは強さに拘り、強さを求めるのか?」

 

 ガイの質問、それはここに至るまでに手段を選ばずにただ強さを求めようとしていたかつての自分と気持ちが変わらないかどうかというものだった。

 

 強さに固執して鬼灯潤也たち《鮮血団》の被害を止められず、そして迷いがあるとしてヒロムに痛みによってそれを思い知らされた。そんな経緯を通ってきたシオンはガイの質問に対して考えることも無く今の思いを明かすように語る。

 

「……力だけのただの強さには意味がないことはよく理解できた。

どんなに強さを求めて力を得てもそこに意思が宿っていないのならその力は奪うだけの力になる。ガイがシュミレーションでオレに解らせたかったものが何か、ヒロムやガイの行動、そしてアイツの言葉で理解出来た気がするんだ。力を追い求めるにしても目的を見失ってはいけない……目的無き強さの探求はそれこそシンラと同じになるってのは解ってるつもりだ」

「そっか……それを聞いて安心したよ」

 

 強さを求めているのかというガイの問いに自分なりの答えを出したシオン。そのシオンの言葉を聞いたガイは安心したような表情を浮かべると彼に伝えた。

 

「寝てばかりで体が鈍ってるだろ?

屋上に行ってみろ。シオンと闘いたいってやつが待ってるよ」

 

「オレと……?」

「大丈夫。今のシオンなら問題ないさ」

 

 

 

 

******

 

 

 着替えたシオンは病室を出た後ガイに言われるがまま屋上に向かった。

 

 誰がシオンと戦いたいと望んでいるのか、その検討がつかなかった。

 

 仲間内でトレーニングを兼ねて戦うことはあるがこんな病院の屋上で戦おうなどというようなヤツはいない。まして仲間外でそんな話になればガイがその話を持ってくるはずがないこともシオンはわかっていた。

 

 となれば……今回の件で関わりを持った《鮮血団》の生き残りなのだろうと思うしか無かった。だとしても不自然だった。騒動を引き起こした組織として扱われているであろう《鮮血団》の生き残りがこんなことをするような自由を与えられているのかが不思議に思えてくる。

 

 誰なのか?誰がシオンを相手に戦いたいと望んでいるのか?

その答えを確かめるべくシオンは屋上に続く階段を上り終えた先にある扉を開けて屋上に踏み込む。

 

 その先にいたのは……いや、その先にいた人物を見てシオンは納得してしまった。

 

 1人だけいた。何をしても周りに許させる男が。

 

「目を覚ましたか」

 

 屋上でシオンを待っていた人物、それは……ヒロムだった。

シンラとの戦いで彼も負傷していたらしく両手に包帯を巻いており、そして彼の傍には警護役を担っていたイクトがいた。

 

 シオンの姿を見たイクトは何故かため息をつき、そしてイクトはヒロムに文句を言っていく。

 

「大将、やっぱりおかしいって。オレが言い出したことだけど……4日間連続でシオンが時間内に来るか来ないかの賭けして大将が1回も外さずに当てるなんておかしいって」

「うるさい。来る来ないの2択の選択をミスってるオマエが悪い。

賭けに負けたんなら潔く用意始めろ」

 

「へいへい……」


「ヒロム、用意って何の話だ?

それにオレと戦いたいっていうのは……」

「言葉通りの意味だ。オマエと純粋に戦ってみたいんだよ」

「オレと……何のために?」

 

「目的は簡単さ。

シンラを倒したオマエはガイがシュミレーションで気づかせたかったことに気づいている、その中でどんな答えを出したのかをオレに示して欲しいのさ」

「なるほど。そういう目的があるならいい。

だがオマエは負傷してるし、こんな病院の上で暴れたら迷惑に……」

 

「そのためにイクトがいる。

コイツの能力で別空間を作らせる。その空間内なら暴れたところでこっちに影響はない。それに……この程度の手負いでオレがオマエに負けると思ってんのか?」

 

 イクトが魔力を纏うと彼らの周囲の景色が変わっていき、景色が変わるとそこは病院の屋上ではなく河川敷のような場に変化していた。

 

 場所の変化、ヒロムの言葉を受けたシオンは少し嬉しそうに笑うと首を鳴らし、そして……雷を纏うと拳を構える。

 

「そこまで言われたら断る理由はない。

やろうぜヒロム……オレの今を知りたいなら本気で挑んでやる!!」

「……病み上がりだろうと関係ない。

やるからには全力でやってやるよ」

 

「やりすぎないようにほどほどにね」

 

 分かってるさ、とイクトの言葉にヒロムが答えるとイクトは後ろへ下がり、イクトが下がるとシオンはヒロムが構える前に走り出して彼に迫って蹴りを放つ。

 

 シオンの蹴りを前にしてヒロムは回避すると拳で反撃しようとするが、シオンは落ち着いた様子でそれを受け流すように防いで次の動作に移ろうとする。

 

「はぁっ!!」

 

 ヒロムの攻撃を防いだシオンは動きを止めることなく拳撃を放とうと拳を突き出し、そしてヒロムもそれに応えるかのように拳を突き出す。

 

 

 2人の拳がぶつかり、その拳の間で強い衝撃が生まれ光となり……

 

 

 

 

 

 

 強さとは何か、強者とは何か。

焦りと葛藤、不安に駆られたシオンは一度は道を違えそうになってしまった。だが今は違う。

 

 強さの本質と意味を理解したシオンはもう道を違わない。そしてこれから進む道には…………

 

 

 

 

 

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