三戦目
日が変わった翌日。
シオンは1人で街を歩いていた。何か目的地があるでもなく、ただひたすらに歩き続けるシオン。そのシオンの表情にはどこか余裕がなかった。
「クソ……」
(何がいけない?何でなんだ?
何度やっても上手くいかねぇのは何でだ?ヒロムは当たり前のように強くなるし、ガイたちも着実に強くなってる。それなのに……戦闘種族の《月閃一族》の血を流すオレは何で強くなれねぇ……!!)
殺気立って歩くシオン。そのシオンの険しい表情を見た周囲の人々は彼を避けるように距離を置いて歩いているが、シオンにはそんなこと気にもならないのかただ頭の中で悩みながら歩いていた。
悩みを抱えながら歩くシオン。すると……
「すいません、アンケートにご協力いただけないでしょうか?」
周囲の人々は避ける中1人の女性がシオンに話しかける。アンケート、おそらく街頭アンケートだろう。だがシオンは聞こえているはずなのに止まることなく歩いていく。
無視した、端的に言うなら最低な行為だ。だが今のシオンは少々機嫌が悪いが故に仕方ないといえば仕方ないかもしれない。さらに言うならシオンは過去のトラウマから女性を嫌う。トラウマと言っても取り乱したり冷静さを失うほどではない。単純に近づかれるのを拒む程度だが周囲からは重症と言われている。
シオンは別に治す意思はないし、苦手なら関わりを断つことに徹しようと決めているのだ。
そうとも知らない女性は去り行くシオンに悲しそうな目を向けるが、その視線を受けるシオンは彼女の視線を感じながらも反応しないように抱える悩みを解決することに意識を集中させようとした。
すると……
「あっ、アンケートにご協力いただけないで……」
「うるせぇよ」
シオンの次に誰かに声をかけたのだろう、女性が別の人物に声をかけたであろう言葉が途中で途切れ、彼女に向けたであろう冷たい言葉が聞こえると周囲が騒がしくなる。
悩みをどうにかしたいシオンはこの騒ぎの五月蝿さに対して街に来るのは間違いだったと後悔しながら街頭アンケートの声をかけてきた女性がいる後ろを見ると驚くものを目にしてしまう。
「なっ……」
先程シオンに声をかけようとした女性、その女性は1人の青年に首を掴まれた状態で身体を持ち上げられ苦しそうにしていたのだ。
女性の首を掴む青年、青い髪に血のような赤い瞳を持っており今のシオンのように殺気立っていた。
「あっ、あっ……」
「おいおい、ふざけてんのか?
てめぇはオレが何者か理解してクソみたいな言葉で話しかけたんだ?」
「す、すいません……」
「謝っても許されねぇ。ここでオレが……」
「おい、その手を離せ」
青年が女性の首を掴む状況をさすがのシオンも我関せずで見過ごすなど出来なかったらしく青年に近づくと女性を離せと告げる。
女嫌いとはいえ男が暴力を振るうのは許せないらしい。シオンの言葉を受けると青年は笑みを浮かべると女性を離す。
青年が手を離すと女性は倒れてしまうと咳き込み、シオンはため息をつくと女性に言った。
「危険だから下がってろ」
「は、はい……」
シオンに言われるがままにこの場を走り去る女性。その女性の背中を見る青年は面白そうにシオンに話し始めた。
「女嫌いって噂は嘘だったのか?あんなか細い女を助けるなんてどうかしてるぜ」
「うるせぇよ。今イライラしてんだから胸くそ悪いもん見せられて止めねぇわけねぇだろ」
「おお、お優しい方だな。ところで……アンタと話したかったら好都合って話だぜ」
「あ?女に手ぇ出しといてオレに用があるだと?
ナメてんのか?」
「まぁまぁ落ち着けって。
強くなりたくて焦るのは分かるけどよ、そんなにカッカしてたら強くなる機会を逃がすぜ?」
先程まで殺気立っていたはずなのに一変して飄々とした態度を見せる青年。その青年の態度がどうも気に入らないシオンが不快感を露わにしているとそれを察したのか青年は自らの名を名乗ると共にシオンに対して用があるというその理由となる話を始める。
「オレの名前は鬼灯潤也、今は《鮮血団》という部隊を束ねる能力者だ」
「何だ、勧誘か?
あいにくオレはそんなものに興味はない」
「勧誘なんかじゃないさ。オレは別にアンタを《鮮血団》に入らせたいわけじゃない。オレがアンタに用があるのは他のことさ」
「……うぜぇな。
さっさと本題に入りやがれ」
「紅月シオン、オレたちと《月閃一族》を再興しないか?」
青年・鬼灯潤也から聞かされた言葉、その言葉を耳にしたシオンは思わず聞き返してしまう。
「今何て言った?」
「聞こえなかったか?
アンタとオレたちで《月閃一族》を再興させようって話だ。興味あるだろ?」
「……ねぇよ。
滅んだのなら滅んだで名を背負うだけ、まして一族の血を流さないオマエが名乗っても意味は無い」
「いいや、あるんだよ。
何せオレは……アンタと同じ一族の人間なんだからな」
潤也の口から明かされた衝撃の内容にシオンは耳を疑った。いや、信じられるはずがなかった。何故なら……戦闘種族《月閃一族》は滅び、その血を流す末裔はシオンを含めても確認されているのが計3人だと聞かされており、シオンは他の末裔と面識がある。つまり……初対面の潤也が末裔であるなんて話は信用出来ないのだ。
「デタラメ言うなよ?
末裔はオレを含めて3人、それについては政府が徹底的に調べた結果出た数字だ。オマエが政府の調査を免れたにしてもそんな話はありえない」
「ありえないってことはないだろ。
世の中色んな人間がいる。負け知らずのアンタを負かすただの人間も入ればオレのように知られず生きてきた人間もいる。
アンタの知るもの全てがこの世の全てじゃないのさ」
「……だとしても信用ならねぇ。
一族の末裔ってんなら不用意に一族を侮辱するようなことはやめろ」
「それはつまり……オレに賛同しないってことか?」
「そういう事だ。
オレはイライラしてる、これ以上話す必要も無いなら帰る」
潤也の話に耳を貸すつもりのないシオンは彼の誘いに冷たく断ると相手にしようとせずに去ろうとする。そんなシオンの態度に潤也は何故か笑みを浮かべると手を叩く。
何をやるのかと気になったのかシオンが足を止めようか悩んだその瞬間、彼と潤也を取り囲むように鬼の面を付けた赤装束の人間が何百人と現れる。さらに潤也のそばに赤装束とは風貌が違う人間が7人現れ、突然現れた者たちを前に街の人々がザワつく中潤也は声高々に宣言した。
「よく聞け、凡人どもよ!!
オマエたちは堕落し戦わずして安息を喫する愚か者共だ!!血を流し戦う戦士たちの数々の栄光の上で成り立つこの世界を穢すオマエたちは我々戦士の面汚しでしかない!!よって我々《鮮血団》はここに宣言する!!
オマエたち凡人どもを抹殺してこの国を正しき姿……戦国乱世に戻して我々戦士が誇りを掲げられる世界に導く!!」
潤也の宣言にザワつく街の人々。当然、彼ら彼女らからすれば潤也の言葉は単純に変な妄想にでも取り憑かれた者の戯言にしか聞こえないだろう。だが潤也は笑顔を浮かべながら指を鳴らし、潤也の指が鳴ると赤装束の人間が一斉に武器を構えて周囲の建物へと攻撃を放って破壊を始めたのだ。
建物の破壊が合図になるようにパニックを引き起こし騒ぎながら逃げようとする人々。その人々を襲おうと企んでいるのか赤装束の人間はパニックになる人々に向けて前進する。
「オマエ……!!」
「アンタが受け入れてくれないからこうなったんだ。だからせめて……その目でこの街の終わりを見届けてくれ」




