二二戦目
おおよそ1時間が経過した。
ホーランの正体の発覚と研究所への突入というヒロムの段取りは予定通りにここまで進んでいる。
ユーリンという女の治癒術によるケアでシオンとガイは万全と言えなくとも十分な戦闘が可能になるレベルまで回復しており、シオンとガイはヒロム、アラン、ハーラン、ユーリンとともに目的地である研究所へと来ていた。
治癒術によるサポートを行えるユーリンを守るように位置取る形でアランとハーランが拳銃を手に持って歩き、3人を守りつつ先行するようにヒロム・ガイ・シオン・イクトの順で研究所の中に入るべく入口付近を歩いていた。
敵を警戒しながらも研究所へと侵入すべく入口に向かうシオンたち、入口に近づけば敵に接近を悟られるとしてかなり掲載しているのだが、おかしなことに敵の1人も現れやしない。
誘われてるのか、それとも的が外れたのか。どちらかは分からないがヒロムは研究所の入口となる扉の前に立つと全員に警戒しろと伝えるような目でシオンたちを見るとゆっくりと扉を開ける。
ヒロムが扉を開けるとガイとシオンが中の様子を探るようにゆっくりと侵入し、ヒロムとイクトも続けて侵入して中の安全性を確かめる。
目で見て確認できる罠のようなものもなければ特に警戒するような様子もない、ひとまずは大丈夫だと判断したヒロムはアランたちに中に入るように手で合図を送り、アランとハーランはユーリンを警護しながら中に入る。
「ミスター・ヒメガミ、本当にここに敵のリーダーがいるのかい?」
「あまりに手薄で私も怪しく思えてきたぞ」
「ここに鬼灯潤也がいなくとも《ブラッドアウト》の情報はあるかもしれない。完成した《ブラッドアウト》が無くてもデータが残ってるならそれだけでも手に入れるぞ」
「《ブラッドアウト》がここにない!?
ヒメガミ、何故それを断言できる!?」
「落ち着けハーラン、そもそもこの研究所には《ブラッドアウト》を搭載することが可能な射出兵器はないだろうし、仮に撃てたとしても《ブラッドアウト》の持つ熱源反応を全て破壊する攻撃に巻き込まれる危険性がある。より安全により的確に兵器の力を使える場所から使う、ヤツらもそこまでバカじゃないってことだ」
ヒロムがハーランに説明しているとシオンは突然足を止めるとヒロムに伝えた。
「ヒロム、多分鬼灯潤也はここにいる」
「分かるのか?」
「ああ、分かる。姿も見えない、声も聞こえないがオレが昨日昼間に出会ったアイツ特有の気配を感じ取れる。血に飢えた獣の気配……オレたちがここに来るのを待ち望んでたかのように奥で待ってやがる」
「……戦闘種族のカンか?」
「多分、な。強化人間にされて人造の戦闘種族の血を流されてるからかオレの中の血がそれを感じ取ってやがる」
「そうか。なら……オレはアランたちと《ブラッドアウト》のデータを捜す。データさえあれば設計図の生みの親とも言える国の出身のハーランに対処できるか判断させる。シオンとガイはイクトを連れて鬼灯潤也のところに行け。何があるかは分からないが警戒して進め」
「分かった」
「イクト、万一に備えてユーリンに無線機を渡しておくから緊急時には彼女に連絡しろ」
「任せてよ」
「ヒロム、無理はするなよ」
「言ってろガイ。とにかく……やるべきことをやるぞ」
ヒロムの指示を受けたシオンはガイとイクトを連れて奥で待つであろう鬼灯潤也のもとに向かうべく走り出して研究所の中を進もうとした。
その時……
突然研究所の天井が崩壊して瓦礫が崩れ落ちると上からヒロムたちとシオンたちを分断するかのように3mは超える大男が現れて勢いよく着地する。
「「!!」」
現れた大男、普通ではありえないほどに筋骨隆々とした全身には不気味なまでに血管が浮かび上がっており、瞳も血走っているのも相まって人というよりは獣に近い印象を受ける。化け物、端的に言うならそれが適切だろう。
その化け物に等しい大男は現れるなり雄叫びをあげるとヒロムの方を向き、アランやハーランたちを守らなければならないヒロムに加勢しようと考えたシオンとガイ、イクトが動こうとするとどこからともなく放送が流れてくる。
『ようこそ、この国のために無駄に尽力する堕落した愚か者たちよ。ここまで来るとは流石としか言えない』
「この声は……鬼灯潤也!!」
「ここにいるってことか?」
『雨月ガイ、まさかベノムの毒を受けてこれほどの活躍をするとは驚きだったよ。1度は仲間にしようか考えさせられただけの事はある』
「……こっちの声が届いているのか?」
『届いてるさ。オマエらがここに来るのを見越して隠しカメラとマイクを設置して動きと会話はチェック出来るようにしてあるからな』
「ならオレたちの狙いも分かってるんだろうな?」
『ああ、もちろんだとも姫神ヒロム。アンタの読み通り《ブラッドアウト》の完成品はここにはない。より安全な場所で発射されるのを待っている。そしてここにはその《ブラッドアウト》のデータが残されているから欲しいならば持っていけばいい。ただし……そこにいるギガンテスを倒せたならな』
「ギガンテス……コイツの名前か」
『コイツはオレのためにその命を捧げてくれた最高の戦士だ。研究所に囚われていたコイツをオレが救う代わりにオレのための力となれと取引したら素直に受け入れ、そしてコイツはオレのためにその命を引き換えにした禁断の人体実験を行ったんだ。痛覚を遮断し身体能力は常人の数十倍を簡単に超え、破壊のかぎりを尽くす狂人と化した。もはやコイツを止められる人間はオレ以外にいない』
ヒロムに狙いを定めるように彼を睨む大男・ギガンテスは鬼灯潤也の声に反応するように雄叫びをあげ、ギガンテスが雄叫びをあげる中でヒロムは首を鳴らすとシオンたちに向けて伝えた。
「この奥に鬼灯潤也がいるのは間違いない。だからオマエらは先に行け、先に行って鬼灯潤也を倒してこい」
「バカ言うな!!その化け物を何とかしねぇとオマエがあぶねぇだろ!!」
「他人の心配してんじゃねぇ。今オマエが気にするべきは鬼灯潤也を止められるかどうか、《ブラッドアウト》の発射を阻止できるかだけだ。オマエらにしかこの先に進んで敵の親玉を倒せないのなら迷わずに行け」
「……そいつを任せていいんだな?」
「しつこいぞ。さっさと行け」
「あぁ……任せたぞ!!」
ヒロムにギガンテスを任せてシオンは彼に加勢したい気持ちを抑えながらガイとイクトを連れて研究所の奥に向けて走っていき、シオンたちが走っていくとヒロムに向けて鬼灯潤也は研究所内のスピーカーから彼に告げた。
『無駄なことをしたな。ギガンテスは誰にも倒せない、オマエが1人で挑んだところで何も起きずにオマエが殺されるだけだ。無駄死に、オマエは自らの死期を早めただけだ』
「言ってろよ三下。オレのこと大して知りもしないで偉そうに。
この際だからハッキリさせてやるよ」
『偉そうなことを……ギガンテス!!そいつを殺せ!!』
ヒロムの言葉を受けた鬼灯潤也はスピーカー越しにギガンテスに命令を出し、鬼灯潤也の命令を受けたギガンテスは雄叫びをあげるとヒロムを殴ろ殺そうと右の拳に力を入れて勢いよく殴りかかる。
アランたちが後ろにいてヒロムは回避出来るはずもない、鬼灯潤也はカメラ越しにそう思いながら見てるのだろう。
だが、ヒロムはギガンテスの拳を片手で受け止めるとそのままギガンテスの拳を押し返し、ギガンテスの拳を押し返したヒロムは軽く飛びながらその場で回転するとギガンテスの顔に向けて回し蹴りを食らわせて蹴り飛ばしてしまう。
蹴り飛ばされたギガンテスは勢いよく壁にたたきつけられ、ギガンテスを蹴り飛ばしたヒロムは着地するとギガンテスとカメラ越しに見ている鬼灯潤也に向けて殺気を放ちながら告げた。
「この世界がどれだけ広いか……オマエら如きでは倒せない相手がいることを思い知らせてやる。かかってこいよ化け物、その肉をグチャグチャに潰して殺してやるよ」




