二戦目
同じ頃
大型スクリーンが設けられた部屋に金髪の少年がいた。片耳にインカムを付けたその少年はスクリーンを見ながらため息をつくとインカムを外し、外したインカムを近くのテーブルに置くと頭を抱える。
「……再三忠告してるのにこのザマか。
今後のためにも感情の抑制は必須だって話したのに……」
スクリーンに映る映像が変わるとそこにはシオンが何かの能力を扱う能力者と戦う様子が映し出され、その様子を見た少年は頭を抱えたまま2度目のため息をつく。
「……結局シオンには好き勝手暴れさせるしかないのか?
この先どんなことが起きるか分からない、どんな相手に恨まれるかも分からないからこそ冷静に考えることを学んでほしかったのに……」
(そもそも設定を間違えたか?シオンのレベルなら並の犯罪者よりは生死問わずの賞金首が適してると思って設定したが、そこが間違ってたのならシオンの心を変に刺激したことになるが……)
「何難しい顔してんだよ」
少年が頭を抱えて悩んでいると彼のもとへ黒髪の少年がやってくる。やってきた少年は片手にマグカップを持っており、何かが注がれたそのマグカップを黒髪の少年は金髪の少年が先程インカムを置いたテーブルの上へと置く。
「あぁ、悪いなイクト」
「お気になさらず。それよりシオンは何と戦ってんの?
確か今日っていつも通りガイが監視しながら訓練シュミレーション受けてるはずだよね?」
「……訓練シュミレーションを滅茶苦茶にした上で物足りないから暴れさせろというワガママ言ったからそれっぽい敵をプログラムして戦わせてるんだよ」
「え!?またやらかしたのか!?
これで何度目なんだよ……」
「数えるのに飽きたから数は知らん。ただ……再三忠告してるのに直らないところを見るかぎりシオンに強要するのは無理なのかもな」
金髪の少年・雨月ガイが悩みをこぼすと黒髪の少年・黒川イクトは困った様子でガイに言った。
「他の方法なんて無いだろ。実際のところ政府や警察の能力者に対する対応の仕方も今まで通りじゃなくなるわけだし、それに合わせて動き方を変えなきゃ後々苦労するだけじゃん」
「だが現実を見てみろ。シオンはシュミレーションを何度受けても感情を抑えるどころか暴れる始末だ」
「……これ、出会った時に戻ってない?
戦いを求めて大将に挑んだ時っていうか、最近少しは人間らしくなってきたと思ったのにさ」
「何かのきっかけでシオンが追い詰められてる。
その何かが分からないと解決は無理かもな」
「いや、その理由なんて1つしかなくない?」
「何か心当たりあるのか?」
何か知ってるような言い方をするイクト、そのイクトから話を聞こうとするガイは彼に尋ね、尋ねられたイクトはスクリーンに映るシオンを見ながらガイに考えられる原因を話していく。
「シオンがここまで強さにこだわるのは3ヶ月前の騒動……十神アルトの引き起こした事件のせいだと思うんだ。あの時オレやガイ、それにシオンは十神アルトに利用された能力者たちを倒せはしたけど黒幕の十神アルトを倒せないどころか足手まといになっただけだろ?大将が捨て身に近い賭けに出て十神アルトを倒したからあの騒動は終わったけど、結局大将無しでは黒幕の十神アルトすら倒せないって思い知らされたじゃん」
「確かにな……。オレたちは強くなった一方でここぞというところでヒロムに頼る心の弱さがあることを知らされたな」
「オレは別に自分は下から数えた方が早いくらいの実力だと思ってるから焦っても仕方ないって切り替えれたし、ガイやソラも大将との長い付き合いがあるからどうするべきか見つめ直すきっかけになったわけじゃん?でもシオンは違うと思うんだよ。あの一件で実力を思い知らされたわけだし、大将の仲間になった経緯から考えたらシオンが1番精神的に来ると思うんだよな」
「……焦りか」
「多分、ね。元々仲間になる前の出会った時から強さへのこだわりとプライドの高さが目立ってたから大将の強さを認めて受け入れてたのが爆発したんだろうね」
「……同じ戦闘種族の血を流すアイツは今どこに?」
「真助なら今朝旅に出たよ。なんか自分の手に馴染む刀探しに行くとか何とか言ってたよ」
「同族の助言は期待できないわけか。となると……厄介だな」
「諦めるって手はないだろ?あの一件で世間はオレたちのことを認知してる。派手なことしでかして悪目立ちしたらオレたち全員の立場が危ういんだよ?」
「……だから厄介なんだよ。
何とかしてシオンを納得させる、その方法が……無いんだからな」
先の見えぬ状況の中で答えは出ない、その中に身を置かされるガイとイクトは悩むしか無かった。何をどうすれば今のシオンは感情を抑えられるのか。何をどうすれば……彼は心に秘めた渇きを満たせるのか……
******
宵闇。
月が地を照らす夜の刻。
ガイとイクトが頭を悩ませ、シオンは抑えられぬ感情を爆発させている中、とある港に1隻の船が停船していた。
船……と言うには間違いないのだろうが、強いて言うなら自家用の大型クルーザーだ。
その大型クルーザーから地上へと全身を黒いマントで覆ったフードの怪しい男たちが数人下りてくる。男たちが地上へと下りるとそこへスーツの男が1人歩いてくる。
スーツの男が歩いてくるとフードの男たちの中の1人が彼に問う。
「……我らの他の同胞は無事に到着してるか?」
「心配ない。予定通りに全員各ポイントに待機させている。
オマエの指示でいつでも動けるように用意もさせている」
「素晴らしい。流石だな」
「……話が変わるが鬼灯。これだけ用意が出来ているのにまだ事を起こさないのか?」
「焦らないでもらおうか、ホーラン。
たしかに事を進めるべくアナタに協力者してもらいましたが、ここまでの用意はあくまで一般的な能力者を相手にする場合のレベルでしかない。真に恐れるべきは姫神ヒロム、あの男に介入されれば我々の計画は阻止され、アナタの地位も危うくなる」
「ならどうするつもりだ?」
簡単な話ですよ、と鬼灯と呼ばれたフードの男は怪しく笑うと自身がホーランと呼んだスーツの男に伝えた。
「手に入れるんですよ、対姫神ヒロム用の戦士を。
あの男を力で黙らせることが出来る彼をこの手に収めるのですよ」
「それは誰なんだ?まさかだが金が必要になるような相手か?」
「いいえ、彼に関しては金など不要。必要なのは心の渇きを満たすための環境。本能によって戦いと血に飢えている今の彼を手中に収めた時こそ我らの計画は進行する」
「だからその人物は誰なんだ?」
ホーランと呼ばれた男が答えを急かすように言うと鬼灯と呼ばれたフードの男は彼にその人物の名を告げた。
「紅月シオン、平和に毒された戦闘兵器だ」