一二戦目
どこかの廃工場
工場としてのあらゆる機能が廃れたその工場には《鮮血団》の団員の赤装束の男たちがおり、その男たちの置くにはパイプ椅子に腰かける緑色の髪の男がいた。
右目を隠すようにおろされた前髪、赤く妖しく光る左目の男はマフラーを首に巻いて口元を隠していた。
右手の掌の上で2つのサイコロを転がしており、サイコロを掌で転がす男に1人の団員が報告に入る。
「報告します。蒼月さんからの定期連絡が途絶えました。紅月シオンが姫神ヒロムと揉めたという報告から一切の連絡がありません」
「……その報告が事実なら倒したのは姫神ヒロムか満身創痍にされた紅月シオンだろうな。紅月シオンが関与した事件として自分のまとめる部隊である《天獄》の汚名を避けたいとして姫神ヒロムがやったのか、それとも勘のいい紅月シオンが返り討ちにしたのか……どっちだと思う?」
「それは……」
「その答えはすぐに来る」
男の問いに団員が答えられずにいると突然廃工場の壁が爆発でもしたかのような勢いで破壊され、破壊された壁の向こうから赤装束の団員が数人負傷した状態で吹き飛んでくる。何事かと団員たちが警戒して構える中で男はサイコロを転がすのをやめ、男がサイコロを転がすのをやめると壊れた壁の向こうからシオンが雷を纏いながら現れる。
「紅月シオン!?」
「後者だったか……ということは我々の計画に気がついたようだな」
「……そこのマフラー野郎、オマエがここのまとめ役か?」
「何故そう思う?」
「オマエは鬼灯潤也より弱そうで周りのヤツらよりは強そうだからだ。せいぜい弾除けの囮にされるような実力しか感じられないからな」
「弾除けか。たしかに手網も付けられないような暴れん坊を誘き出すにはオレが最適なのかもしれないな」
「理由はそれだけだ。鬼灯潤也はどこにいる?
オレはあの男に用がある」
「潤也には会わせられないな。何せ……キミは勘違いをしている」
「あ?」
勘違いをしている、そうシオンに告げた男はサイコロを服の中へと片すと立ち上がり、立ち上がった男は無線機を取り出すとシオンに話していく。
「蒼月は最初から倒されるように潤也が仕向けたんだ。そして蒼月が倒された後……オレたちが街に被害を出す前に終わらせようとするキミが能力である《雷》の力で蒼月の頭の中に無理やり電気信号代わりの雷を流し込んで情報を得ようとすることもね」
「アイツはそれを承知でオレを殺そうとしたのか?」
「いいや、彼は何も知らない。キミが言い渡されたタイムリミットが迫る前にキミを始末してここに連れてきて潤也に死体を渡せと伝えておいただけだ。どうやら彼は潤也の思惑通りにこに潤也がいると勘違いしながらキミを倒そうとし、キミは蒼月の勘違いを情報だと思って引き抜いたのさ」
「やっぱり罠だったか。あまりにもあっさりしすぎてて怪しさしか無かったが本当に罠とはな……。で、オレが何を勘違いしてるののか教えろ」
「……キミはタイムリミットが来る前に我々を倒せば終わると思っていないかな?タイムリミットが来る前に《鮮血団》を倒せば終わると思っていないかな?」
「わかりやすい発想だってか?残念だが当たりだろ?
オマエもたおして同じように次の場所を無理やり聞き出す、それを繰り返してでも鬼灯潤也にたどり着いて倒せば終わ……」
「終わるのは街の人だけどね。キミが蒼月を倒してここに来た時点で潤也は約束を反故すると決めていてね。キミがここに来た時点で街の人を殺す段取りを進めるよう言われているんだ」
「親切に解説してくれんじゃねぇか。ならオマエを倒してそれを……」
「やるのはオレじゃない。潤也が話してだろ……解毒薬の無くなった頃にベノムの毒を撒くってな。キミが来ることは想定済み、だから計画のためにベノムの邪魔が出来ぬようにここにおびき寄せ、オレがキミの相手をする間にベノムはここからは遠い場所にある用水路に向かわせたのさ」
「用水路だと……!?オマエら、無差別に人を殺すつもりか!!」
「当然だ。我々の力を知らしめるためにも環境そのものを掌握するのは当然のこと。為す術なく命の音が消える瞬間を迎える……力無き者たちはにも出来ないと絶望しながら滅びるだけだ」
「ふざけたことを……!!」
「全ては《鮮血団》のため。ベノム、毒を撒け!!毒を撒いて……」
『どういうことなのよ!!』
シオンが怒りを抑えられない中で男が無線機で指示を送ろうとすると無線機から女の声が聞こえてくる。女の声、聞き覚えのある声だ。
そう、昼間にガイたちを苦しめる毒を放った女能力者・ベノムの声だ。
「ベノム?」
『私の毒を受けて雨月ガイは動きが封じられ、他のメンバーも助けに入らないってオマエと潤也は言ってただろ!!なのに何で……雨月ガイが用水路に現れんだよ!!』
「雨月ガイが……!?」
「なるほど、アイツらしいやり方だ」
無線機から焦りながら話してくるベノムの声に男が驚く中でシオンは何かに納得したような顔で男に向けて語っていく。
「ガイはあえて解毒剤投与を拒否していた。街の人のためと言いながら拒絶していたがこのためだったんだな。体内の毒を介して毒の生み親を探す手掛かりにするために毒を残すことを選んだんだ」
「毒を残すことでベノムを!?ありえない!!
ベノムの毒には魔力の残滓も残らぬような毒だぞ!?何故それを手掛かりにするなんてことが……」
「帰巣本能だよ。強い力を前にした弱い能力は助けを求めるように能力者の意志とは関係なく能力者と繋がろうとすることが稀にある。その確率は10000分の1にも満たないほど小さい確立、つまり認識すら出来ないものだ」
「そんな曖昧なものでベノムが用水路にいることを特定したと言うのか!?」
「雨月ガイはそういう無茶苦茶をやれる《天獄》のサブリーダーだ。オマエらが見下す人間を守り戦闘種族すら超える素質を持つヒロムに次ぐ天才なんだからな」
「くっ……だがベノムを倒しても毒は消えない!!
それでは奇跡のような確率を引き当てたとしても……」
「解毒剤ならもう用意されると思うけどな。ガイがそこにいる時点でヒロムはオレが動くことを理解してる。そしてヒロムがこうなると予測してオレの前に現れたとしたら……アイツはオレとやり合う仲でどさくさに紛れて抗体を手に入れたんだ」
「抗体を!?ありえない!!ベノムが狙われた訳でもないのに何故……まさか!?」
「そのまさかだ。ヒロムがオレを攻撃する際にオレの血を採血したんだよ。何せガイはオマエらがベノムに加減されなきゃ毒には耐えられないことも戦闘種族の末裔のオレが毒受けないことも聞いてたからな」
シオンが男に語る中で無線機から女の悲鳴が聞こえ、男が無線機に必死に語りかけようとすると無線機の向こうから男の声が聞こえてくる。
『シオン、毒女は始末した。ヒロムがオマエの服に仕掛けたGPSと小型マイクで現在地とその男の会話は警察側に届けられているからもうじき応援が駆けつける。ひとまずはそいつを倒せ』
「なっ、ベノムが……!?」
「了解だ、ガイ!!」
無線機からのガイの言葉にシオンは力強く返事をすると纏う雷を強くさせ、シオンは拳を構えると走り出した。
「本物の戦闘種族の戦い方を教えてやるよ!!」




