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一戦目


 平和な街並みは人の思考を鈍らせる。

常人がこの言葉を聞いても理解など不可能だ。平和な世界に毒されて危機感の欠如した人間ほど世間に左右されるやすい。右と左を見て多くのものが集まるところを見れば大抵の人間は考えることをやめて多数の方を選ぶ。少数派であることを悟られ冷たい目で見られるのを避けるがためだ。

 

 その精神はこの平和な街並みの中でも特にある事態に陥った際に目にすることが出来る。そう、日常が壊れる瞬間だ。犯罪者やテロリストによる襲撃や犯行により一瞬でも日常が狂わされれば人の日常とやらは一瞬で崩壊する。そして犯罪者やテロリストが目の前に現れた時、そういう人間は選択を迫られることも無く『逃げる』ことを選ぶ。

 

 自らの命の保身を優先して逃げるのだ。戦う前からその選択しかしない。日常を壊されても取り戻そうとしない。なぜなら誰かが取り戻すと勝手に思い込んでいるからだ。

 

 これまで見てきたほとんどの人間が他力本願の助けを求めるような弱いやつばかりだった。強くなり己の手で解決するなどという行動を選択する人間はいなかった。

 

 だが……オレの人生を大きく変えるきっかけを与えたアイツは違う。大人たちに『無能』『役立たず』と蔑まれて居場所を奪われ、どこに行っても冷たい目で見られるだけの生活の中にあったアイツは自らの居場所を自らで築き、そして大人たちを見返そうと誰よりも努力していた。

 

 そんなアイツにオレは敗けた。能力者としても、人としても、そして……

 

 とにかく全てにおいてアイツはオレより優れていた。だからオレはアイツの心の奥底にある強さを知ろうとついていった。戦うことが全てだと己に言い聞かせ、その身に流れる戦いを求める血の叫びを無視して……オレは群れることを選んだ。後悔はない、と言えば嘘になる。

 

 唯一ある後悔は……アイツが誰よりも強くなって誰も止められなかった悪の権化の1人を止めての国を守る瞬間を何も出来ずに見ているしかなかったことだ。

 

 あの瞬間、オレは何度目か分からない敗北感を味わった。だから強くなることを心に決めた。それなのにオレは……

 

 

 

 

 

******

 

 12月にさしかかろうとするある日。数週間後には訪れる催事を前にして街が動く中、1人の少年は人気のない薄気味悪い廃工場の中を歩いていた。

 

 逆立った銀髪、鮮血のような赤い瞳。怪我でもしてるのか両手首に包帯を巻いたその少年は廃工場の中をある程度進むと歩を進める足を止める。

 

「……ここにいるのは分かってんだよ、ゴミクズ共が」

 

 誰に話してるのか?誰もいないはずの廃工場の中で1人立つその少年は冷たい眼差しで先を見つめながら何かに向けて言葉を発していく。

 

「オマエらの潜伏先と人数は把握してんだよ。クソみたいに隠れてないでさっさと出てこいよ。それとも……たかだかガキ1人を相手にビビってんのか?」

 

 少年はまるでこの廃工場に誰かいるかのように話し、何の反応もないまま少年は何かを挑発するように冷たく告げる。

 

 すると……

 

 いつからそこにいたのか、いや、そもそも最初からいたであろう男たちが廃工場の奥からぞろぞろと歩いてきて少年の前に姿を見せ、男たちの中の1人が少年を睨みながら言った。

 

「誰かと思えば……紅月シオンじゃねぇか。

オレたちに何の用だ?」

 

「……オマエがリーダーの冴木か。犯罪組織『バッドガイズ』、連続強盗殺人犯として賞金が懸けられてんのは知ってるよな?」

 

「殺人?何の事だ?オレたちは世間から見放された者同士身を寄せあってるだけだ。余計な話するなら帰ってくれねぇか?」

 

「余計な話か……確かにそうだな。オマエらみたいなのを野放しにしてもオレには何も関係ないな。邪魔して悪かった、オレのことは気にせずに茶でも飲んで騒いでてくれ」

 

「お気遣いどう……」

 

「……なんて言うわけないだろゴミクズが」

 

 少年……紅月シオンは殺気が混じった口調で冷たく告げると右手を前に出し、前に出した右手から雷が勢いよく放出される。放出された雷は迷うことなく男たちの方へ向かっていく中で槍のように変化し、冴木と呼ばれた男の心臓を抉るかのように胸を貫く。

 

「は……?」

 

「この程度の攻撃も避けられないようなヤツらが生死問わずの指名手配集団とはな。それなりの実力があるからこそ大金をその首に懸けられてると思ったのに……期待はずれだ」

 

 槍のように変化した雷に貫かれた冴木はそこから先目を覚ますことなく倒れ、冴木が倒れるとシオンはどこか残念そうにため息をつく。シオンがため息をつく中、冴木の周りにいた男たちはナイフや拳銃を手に取るとシオンに強い殺意を向けて叫びながら走り出すが、シオンは一瞬で男たちの前へと移動すると目にも止まらぬ速さで数人を殴り倒してしまう。

 

「「!?」」

 

「……足りねぇんだよオマエらじゃ」

 

「てめぇ、よくもオレたちの仲間を!!」

 

 何かを呟くシオンを後ろからバットで殴ろうとする1人の男が迫るが、シオンはそれを意に介すことなく姿を消すとバットで殴ろうとする男の背後に現れて手刀で腹を貫く。

 

「……足りねぇって言ったんだよオレは」

 

「こ、コイツ……」

 

「足りねぇ……全然足りねぇ。

こんなんじゃオレは強さを得ることなんて不可能なんだよ!!」

 

 シオンは男の腹を貫いた手刀に雷を強く纏わせると男の全身を雷で焼き消し、さらに両手に雷を纏わせると心の奥底から溢れてくる感情を制御することも無くそれに従うように暴れていく。

 

 男たちを1人、2人……と次から次に倒していくシオン。シオンが倒した男たちの生死など確認のしようがないが、シオンのは命を奪うことへの躊躇いはないように思えた。ただ、己の心の中の渇きを満たすかのように目の前の犯罪者を倒していくシオン。シオンに倒されまいと男たちは必死に抵抗するも為す術もなくシオンに倒されてしまう。

 

 次から次に敵を倒すシオン、そのシオンがほとんどを片付けた事で最後の1人になった男は手に持つナイフを手放して地に落とさせると両手を上げた。降伏、それを示すアクションだ。男は己の命を守るためにその選択をした。だがシオンはそれが気にいらないらしく舌打ちをすると右手に雷を強く纏わせる。

 

「覚悟も無いくせに人の命を弄んだのか?オマエは誰かに殺されるという危険性を理解せずに罪に手を染めたのか?オマエは……その程度の覚悟で生きているのか!!」

 

 何かに対する怒りを叫ぶとシオンは右手に強く纏わせた雷を最後の1人に向けて放ち、放たれた雷を避けることが出来なかった男はそれを受けて殺されてしまう。

 

 全員が倒れた、これで終わり……のように思えたが、シオンは突然叫び出した。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!足りねぇ!!もっと寄越せ!!」

 

『そこまでだシオン』

 

 どこからか彼を止めようと声がし、その声が聞こえてくると廃工場の景色が変化していく。それどころかシオンが倒した男たちまで消えてしまう。

 

 変化する景色、気がつけばシオンは何も無いただ広い空間に1人立っていた。そんなシオンに向けてまたどこからか先程の声が話しかける。

 

『シオン、趣旨を理解してるか?これは敵対心の高い犯罪者を相手にして殺さずに全員制圧するシュミレーションプログラムであって無闇矢鱈に殺していいとは……』

 

「次を寄越せ」

 

『あのなシオン、今のままやっても……』 

 

「さっさと次を寄越せガイ!!

殺すなと言うなら殺してもいい相手を用意しろ!!」

 

『……分かった。その代わりに今日のシュミレーションバトルはこれで最後にしてくれ』

 

 シオンにガイと呼ばれた声はどこか呆れたような言い方をして話を終わらせ、声を黙らせたシオンは拳を強く握ると何故か怒りの感情を表に出す。

 

「こんなんじゃ足りねぇ……」

(アイツより強くならなきゃ意味がねぇ!!

戦闘種族として……『月閃一族』の末裔としてヒロムに負けてられねぇのに!!)

 

 心の中で思いを吐露するシオンの周囲の景色が再び変化していき、変化する景色の中シオンは迷うことなく前に進んでいく。その目に何を映すのか、その心に秘めた思いがどこに向かわせるのかは……

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