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短編 同題異話SR 

凍えるほどにあなたをください

作者: 松本せりか

「温暖化現象なんて言うけれど、まだまだ日本の冬は寒いと思う。だって、人が死ぬほど大雪が降っている」

 目の前にいるさくらは両手を広げて、僕に雪景色を見せている。

 不自然なくらい陽気にはしゃぎながら。

 確かにね。膝が埋もれるくらい、もう少し……後一日くらい降り続ければ、建物の二階くらいの高さになりそうだ。

 その前に溶けるだろうけど……。


 それにしても、寒そうだな。

 僕が下着を二枚も来て、セーターの上にコート、マフラーまで巻いているのに。

 さくらは、ノースリーブニットに下はミニスカ、靴はブーツ。丈の短いふわふわのコートは一応羽織っているけど、肩は丸出し。ミニスカとブーツの間に見えるのは、生足だ。

 今は夜で、まだまだ雪は降っているのに。

 そんな恰好でさくらはふらふら歩き、雪に足を取られて仰向けに転がってしまった。


 ここで見付けられて本当に良かった。

 このまま路上で寝られでもしたら、朝には立派な凍死体が出来ている。


「ほら、さくら。いい加減、立てよ。雪に埋まってるぞ」

 僕は、手を差し伸べる。

「やー。気持ち良いから、ずっと転がってる」

 さくらは、僕の手と反対の方向に転がってしまった。

 ため息が出るな。ここまで、奔放だと。


 仕方なくスマホで、おばさん。

 つまり、さくらの母親に連絡を取る為、電話を掛けようとした。

「やだ。やめてったら。翔くん」

 一生懸命、さくらは僕からスマホを取り上げようとしている。

 僕は、腕を上げて取られない様にしようとしているのだが、僕のコートを掴みながらぴょんぴょん飛んでスマホを奪い取ろうとしていた。


 体から、冷気を感じる。

 僕は、さくらの体の冷たさに、気を取られた瞬間足を滑らせ。

 背中から雪の中に、埋もれた。さくらと共に。

 まだ、僕の上に乗っかったまま、スマホを取ろうとしているし。

 

「さくら。もう家に帰ろう。おばさんも心配しているし、体が冷え切ってるじゃないか」

 本当に、何があったのか知らんが。

「探してくれなくても、良かったのに」

 はぁ? 何言って。

「どうでも良い私の事なんか探してくれなくても良かったのに」

「どうでも良くなんか無いだろう。おばさんだけじゃなく。家族みんな心配してるぞ」

「翔くんも?」

「心配してなかったら、こんな寒空。外になんか絶対に出ない」

 そう言うと、僕の胸の上でさくらがクスっと笑った気がした。

「そ……か」


「いや、寝るなよ。死んじゃうからな。こんなところで寝たら」

「それでも良い。春なんて来なければいいのに」

「春がなんだって?」

 あ~もう。訳が分からん。

「ほら。起きるぞ」

 今度は、自分の体ごとさくらを起こすことが出来た。

 あ~あ。僕も雪まみれだ。体が冷えまくってる。


「翔くんは私の事好き?」

 僕が、自分の体よりさくらの体を優先して雪を払ってやっていたら、そんな事を訊いてきた。

「好きだよ」

 さくらは時々、僕の愛情を試すような真似をする。

 今度は、何が気に障ったのやら。


「本当? だったら、これは?」

 どこに持っていたのか、いやコートのポケットにでも入れていたのか、ぐちゃぐちゃの雑誌の切り抜きを見せられた。


 そこには、暖かそうな部屋着を着て抱き合うようなポーズの男女がって、僕か。

「いや。それ仕事だし。凍てつく冬には暖かい空間をって、メインは部屋と家具だし」

 新婚夫婦が住まうようなマンションの部屋と家具。親の仕事の手伝いだ。


「心配だな。春になったら翔くん。東京に行っちゃうんだもん。このまま雪に閉じ込められたらいいのに」

「仕方ないだろ? 研修は東京本社って決まってるんだから」

 いやもう、一週間たったら戻ってくるはずだと思う。多分……。

 辞令によっては、しばらく地元に戻れないけど。


「心配なら、一緒に来ればいいじゃないか」

「研修に?」

 いや、それは無理だから。

「勤務地に。一応、希望地は地元にしてあるけど。分からないからな」

「無理だよ。まだ大学二年間もあるし」

「うん。そうだね。言ってみただけ」

 僕は、自分についた雪も払って、さくらのコートをきちんと着せた。

 そして僕がしていたマフラーをさくらの首にふんわり巻いて、抱きしめる。


 本当に、冷たくなっていて雪そのものを抱きしめているみたいだ。

「翔くん。冷たい」

 いや、それはこっちのセリフ。

「とりあえず、一週間経ったら戻って来るから。その後の話はそれからな」

「うん」

「僕だって、不安なんだから。離れている間に誰かにさくらを取られやしないかと」

 僕がそういうと、さくらが腕の中で笑う。

「そう……なんだ」

 笑いながらさくらは言うけれど。

 

 雪が降り積もる凍てつく夜。

 僕らは、この瞬間が愛おしすぎていつまでも抱き合っていた。


                             おしまい

ここまで読んで頂いて、感謝しかありません。

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