あたちは猫である。有名小説のパクリではない。
あたちは猫である。
有名小説のパクリではない。
あたちの名前はつばきという。
一応、ご主人は、この家の主のお父さんの末っ子というおじさん。
髭面だが良い人らしい。
交通事故に遭いぐったりと倒れていたあたちを、拾ってくれたのはご主人だ。
しかし頼りないのか、面倒くさがりなのか、四角いものを耳に当て一言目には、
「ネエチャン!」
と言う。
ネエチャンと言う人は、渋い顔をしていたが、怪我をしていたあたちをみて、ダンボールに毛布とタオルを敷き抱き上げて入れてくれた。
「顔が陥没してる! 目から血の涙が!」
とオロオロしていた。
その日はビョウインが開いていないので、翌日ご主人と出かけた。
注射をされた。
顔も痛かったが、針は怖かった。
家にはお父さんとお母さん、ご主人のアネキという人の四人と、天敵の犬がいる。
最初はあたちの元々の主人を探すか、養子に出すと言っていたものの、手続きが難しいのと、ケイサツに保護したという届を出しても、見つからなさそうだからと家に引き取られた。
ご主人は名前をつけようとしたけれど、ネーミングセンスがないらしく反対意見が多かった。
ちなみに、当時家には二頭天敵がいたけれど、ミニチュアプードルのユエは、保護犬でネエチャンが引き取り、毎日散歩に連れて行っていた。
ユエは『月』。
ネエチャンは老犬のユエが大好きだった。
で、もう一頭はジャック・ラッセル・テリアのクゥ。
ご主人がブリーダーと縁があり譲り受けた。
クゥは血統書というものがあったらしい。
その中には『ローズなんちゃら』と言うたいそうな名前が並んでいたのだが、蓋を開ければクゥ。
もっとかっこいい名前とかなかったのか?
と周囲は不満だったらしい。
そして、そのネーミングセンスが再び問われた。
目を覆うわけにもいかず、注射の後は飲み薬生活のあたちに、ご主人は言った。
「じゃぁ、ユメな?」
「ど阿呆! ユエさんと混乱するわー!」
ネエチャンは怒る。
ネエチャンはちなみにツンデレ、もしくは夢見がち。
アネキはマイペース、あまり変化はない。
「もっと可愛いのにしろ! 呼びやすいの!」
とネエチャンはいい、最後につばきになった。
でも、いつのまにか、
「つー」
「つーちゃん」
「ひめ」
「女帝」
と呼ばれている。
元の原型は無くなってしまった。
いったいどう言うことだろう?
あ、あたちはミケではない。
色は黒白で、ハチワレと言うらしい。
人間の髪のように、前に黒い毛が分かれているかららしい。
ほとんどが黒い毛だが、背中を覆う黒の中に、白く1の字がある。
ところであたちは拾われてから病院に行って、ほぼ家の中で暮らしている。
住まいは一戸建て。
でも、綺麗な壁紙やドアは全部あたちとクゥがバリバリにして、お父さんが嘆いている。
仕方ないの。
つめとぎは気になった時にだもの。
そして二度ほど、散歩用リードをつけられて散歩に行ったが、くるりんっと戻ってきた。
だって、外は怖いのである。
近所の放し飼い、もしくは野良猫だけでなく、すぐ近くには野生の猿、イノシシがいるらしく、車の往来も結構ある。
拾われた場所は、もっと街中で車はひっきりなしだったが、もう一回はねられたくはない。
外に出たいと言う好奇心はあるが、ネエチャンが、
「無闇に外に出して怪我するのも、子供が生まれるのも、それに猫エイズとかにかかるのも可哀想だから、絶対に出さないようにしてあげて!」
と帰ってくるたびに繰り返す。
ネエチャンは心配性らしい。
あたちの攻撃は、やっぱり猫パンチである。
その威力は凄まじく、じいちゃん犬クゥとの喧嘩に勝った。
最後には逃げ回るクゥを追いかけてしまったので、お父さんに叱られた。
だって、クゥがしつこいんだもん!
先にストーキングしてきたのはクゥだもん!
あたちはつばき。
田舎町の箱入り娘のお嬢様である。